資金繰り更新 2026.10.18
運転資金とは?計算方法と11業種の目安、足りないときの調達方法
運転資金とは、売上が入金されるまでに立て替えておく事業のお金で、「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で計算します。この記事では、回転期間を使った計算方法、中小企業の統計から出した11業種の目安、足りないときの調達方法の選び方を説明します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

この記事は、銀行に「運転資金はどれくらい必要ですか」と聞かれた方や、売上は伸びているのに預金が増えない理由を知りたい中小企業の経営者・個人事業主に向けて書いています。運転資金の意味と計算式、回転期間を使った出し方、中小企業の統計から計算した業種別の目安、足りないときの調達方法の選び方を、1つの会社の数字で通して説明します。
この記事を6枚で
1 / 6結論:運転資金は「売上が入るまで立て替えるお金」。式は売上債権+棚卸資産−仕入債務
運転資金って、そもそも何のお金なの?
仕入や給与を先に払い、売上を後から受け取るあいだ、事業を回すために立て替えておくお金です。「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で計算し、利益とは別のものです。
運転資金とは、仕入や給与を先に払い、売上の代金を後から受け取るあいだ、事業を回すために立て替えておくお金です。銀行や決算書の分析では、「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で計算します。
要点は次の3つです。
- 運転資金は「利益」とは別のものです。売上が伸びるほど、黒字でも立て替える額が増えます。
- 月商で割った「運転資金回転期間(月商の何か月分か)」にすると、業種や前の年と比べられます。中小企業の全業種では月商の約1.4か月分でした。
- 足りないときは、足りない理由で調達方法を選びます。毎月ずっと要る分と、一時的なずれでは、合う方法が違います。
この先は、運転資金の意味と設備資金などとの違い(2章)、計算方法と回転期間(3章)、業種別の目安(4章)、自社の必要額を出す手順(5章)、増えるとき・減るときの計算(6章)、減らす方法(7章)、足りないときの調達方法(8章)、よくある失敗(9章)の順に説明します。
運転資金とは:意味と、設備資金・赤字補填資金との違い
銀行が言う「運転資金」と、毎月の経費は同じもの?
銀行が言うのは、多くは式で出す立て替えの額です。毎月の経費にあてるお金を指すこともあります。赤字の穴埋めは運転資金とは別で、借りても返す元手が見えません。
運転資金という言葉は、2つの意味で使われます。話している相手がどちらの意味で使っているかを先に確かめると、話がかみ合います。
狭い意味:所要運転資金(経常運転資金)
銀行が「運転資金」と言うときは、多くの場合こちらです。所要運転資金、経常運転資金、正常運転資金とも呼びます。売上債権と棚卸資産の合計から仕入債務を引いた額で、商売の仕組みから決まる立て替えの額です。
金融庁も、正常運転資金は卸・小売業や製造業では一般に「売上債権+棚卸資産−仕入債務」とされる一方、業種や事業によって様々であり、期中の資金の動きや事業の状況も考える必要があるとしています。※1
広い意味:毎月の支払いにあてるお金
日常の会話では、給与・家賃・水道光熱費・広告費など、毎月の経費を払うためのお金をまとめて運転資金と呼ぶこともあります。創業の計画で「運転資金3か月分」と言うときは、こちらの意味です。
この記事では、計算式があるのは狭い意味の方なので、とくに断りがなければ狭い意味で書きます。経費の支払いに備える手元のお金は、5章の手順で別に足します。
ほかの資金との違い
銀行に借入を相談するときは、お金の使いみちで次のように分けて話します。使いみちが違うと、返す元手と返す期間の考え方が変わるからです。
| 資金の種類 | 何に使うか | 返す元手 | 期間の考え方 |
|---|---|---|---|
| 経常運転資金 | 売上債権と在庫の立て替え | 商売が続く限り残る(書き替えて借り続けることが多い) | 短期の借入を更新、または長めの融資 |
| 増加運転資金 | 売上の伸び・回収の延びで増えた立て替え | 増えた売上の入金 | 数か月〜数年 |
| 季節資金・つなぎ資金 | 繁忙期の仕入、決まった入金までの間 | 決まった入金(売掛金・補助金など) | 数週間〜数か月 |
| 設備資金 | 機械・車両・店舗・システム | 設備から生まれる利益と減価償却 | 設備を使う年数に合わせて長く |
| 赤字補填資金 | 赤字で減ったお金の穴埋め | 立て直した後の利益 | 立て直しの計画しだい |
表のうち「赤字補填資金」は、運転資金とは別のものです。売上債権や在庫が増えたのではなく、赤字でお金が減っている場合は、借りても返す元手が見えません。銀行は、使いみちが運転資金か赤字の穴埋めかを、決算書と資金繰り表で見分けます。
利益とお金がずれる理由(売掛金・在庫・減価償却・元金の返済・税金の時期など)の全体は、資金繰りとは何か、黒字でもお金が足りなくなる理由で説明しています。この記事では、そのうち売上債権・在庫・仕入債務の3つに絞って扱います。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」への新たな事例の追加について(平成27年1月20日)
運転資金の計算方法:決算書の3つの数字で出す式と、回転期間で出す式
うちの運転資金は、どうやって計算するの?
決算書の3つの残高から出します。月商600万円の会社で、売上債権1,200万円と在庫600万円から買掛金750万円を引くと1,050万円で、月商の1.75か月分です。
運転資金の出し方は2つあります。決算書の残高をそのまま使う方法と、月商と回転期間を掛ける方法です。どちらも答えは同じになりますが、使う場面が違います。
方法1:残高から出す(いまの額を知る)
貸借対照表(決算書のうち、決算日の財産と借金を並べた表)から、次の項目の金額を拾って計算します。
- 売上債権:受取手形・売掛金・電子記録債権(でんさい)
- 棚卸資産:商品・製品・原材料・仕掛品(作りかけのもの)・貯蔵品
- 仕入債務:支払手形・買掛金・電子記録債務
運転資金=売上債権+棚卸資産−仕入債務、です。決算書でなくても、毎月の試算表があれば、その月末の数字で同じように出せます。
計算例:月商600万円の卸売業の会社
月商(年商÷12)600万円の卸売業の会社で、月末の残高が次のとおりだったとします。
| 項目 | 残高 | 月商で割ると(回転期間) | 日数に直すと |
|---|---|---|---|
| 売上債権(売掛金・受取手形) | 1,200万円 | 2.0か月 | 約60日 |
| 棚卸資産(在庫) | 600万円 | 1.0か月 | 約30日 |
| 仕入債務(買掛金) | 750万円 | 1.25か月 | 約38日 |
| 運転資金 | 1,050万円 | 1.75か月 | 約52日 |
1,200万円+600万円−750万円で、運転資金は1,050万円です。この会社は、利益とは関係なく、常に約1,050万円を自社のお金か借入で立て替えています。
方法2:回転期間から出す(先の必要額を知る)
回転期間とは、残高が月商の何か月分あるかを示す数字です。上の表の3列目にあたり、それぞれ次の式で出します。
- 売上債権回転期間=売上債権÷月商(売ってから入金までの平均の長さ)
- 棚卸資産回転期間=棚卸資産÷月商(仕入れてから売れるまでの平均の長さ)
- 仕入債務回転期間=仕入債務÷月商(仕入れてから払うまでの平均の長さ)
運転資金回転期間=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間−仕入債務回転期間、です。例の会社は2.0+1.0−1.25で1.75か月になります。運転資金は、月商×運転資金回転期間で出せます。
この形にしておくと、来期の売上計画から必要額を出せます。来期の月商が700万円になる計画なら、700万円×1.75か月で1,225万円が要る計算です。いまより175万円増えるので、この175万円を増加運転資金と呼びます。
日数で見る:キャッシュ・コンバージョン・サイクル
回転期間を日数に直したものを、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と呼ぶことがあります。仕入代金を払ってから、売上の代金を受け取るまでに何日かかるかを示す数字です。例の会社では、約60日+約30日−約38日で約52日です。
つまり、この会社は1回の商売ごとに、約52日分の売上にあたるお金を寝かせています。月商600万円なら1日あたり約20万円なので、約52日分で約1,050万円となり、残高から出した額と一致します。日数で言うと、取引先や社内にも伝わりやすくなります。
割る数をそろえる
回転期間の割る数には、月商(売上高)を使う方法と、在庫や仕入債務を売上原価で割る方法があります。売上原価で割る方が、仕入から支払いまでの実際の日数には近くなります。
ただし、3つの回転期間を足し引きして運転資金を出すときは、全部を月商で割ってそろえます。割る数がばらばらだと、月商を掛けたときに残高と合わなくなるからです。取引先ごとの入金と支払いの日数の数え方は、支払いサイトの計算方法で説明しています。
売上債権回転期間の業種別の日数と、取引先ごとの確かめ方は売掛金回転期間とはで説明しています。
運転資金の目安:中小企業の統計で見る業種別の「月商の何か月分」
運転資金って、どれくらいが普通なの?
公的な基準はありませんが、中小企業の統計では全業種で月商の1.4か月分でした。製造業は2.1か月分、卸売業と小売業は0.9か月分、飲食サービス業は0.3か月分です。
運転資金がどれくらいなら適正か、という公的な基準はありません。比べる物差しとして、中小企業庁の中小企業実態基本調査(令和7年確報、令和6年度決算の実績)から、業種ごとの平均を計算しました。※1
対象は中小企業の法人で、業種ごとに売上債権・棚卸資産・仕入債務の合計を、売上高の合計から出した月商で割っています。数字は決算期末の残高です。
| 業種 | 売上債権 | 棚卸資産 | 仕入債務 | 運転資金 |
|---|---|---|---|---|
| 全業種 | 1.5か月 | 1.0か月 | 1.1か月 | 1.4か月 |
| 不動産業、物品賃貸業 | 1.1か月 | 3.6か月 | 0.7か月 | 4.0か月 |
| 製造業 | 1.9か月 | 1.6か月 | 1.4か月 | 2.1か月 |
| 建設業 | 1.5か月 | 1.0か月 | 1.2か月 | 1.4か月 |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 1.7か月 | 0.3か月 | 0.8か月 | 1.3か月 |
| 情報通信業 | 1.7か月 | 0.3か月 | 0.8か月 | 1.2か月 |
| 卸売業 | 1.7か月 | 0.7か月 | 1.5か月 | 0.9か月 |
| 小売業 | 0.8か月 | 0.9か月 | 0.8か月 | 0.9か月 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 1.3か月 | 0.2か月 | 0.6か月 | 0.9か月 |
| 運輸業、郵便業 | 1.3か月 | 0.1か月 | 0.9か月 | 0.5か月 |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 0.5か月 | 0.2か月 | 0.5か月 | 0.3か月 |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 0.4か月 | 0.2か月 | 0.4か月 | 0.2か月 |
表から読み取れることは次のとおりです。
- 全業種では、運転資金は月商の1.4か月分でした。売上債権が1.5か月分、在庫が1.0か月分あり、仕入債務の1.1か月分で一部を相殺しています。
- 製造業は2.1か月分と大きめです。材料を仕入れてから製品を作り、売ってから入金されるまでが長いためです。
- 不動産業、物品賃貸業の4.0か月分は、販売用の土地・建物が在庫に入るためで、ほかの業種とは別に見ます。
- 卸売業は売上債権が1.7か月分あっても、仕入債務が1.5か月分あるため、運転資金は0.9か月分にとどまります。
- 飲食店や、理美容などの生活関連サービス業は0.2〜0.3か月分です。お客から現金やカードで受け取るため、立て替えが小さくなります。
全業種全業種と同じか多い業種全業種より少ない業種
会社の規模による違い
全業種を従業者の人数で分けると、次のとおりです。
| 従業者数 | 売上債権 | 棚卸資産 | 仕入債務 | 運転資金 |
|---|---|---|---|---|
| 5人以下 | 1.3か月 | 0.9か月 | 1.0か月 | 1.1か月 |
| 6〜20人 | 1.4か月 | 0.9か月 | 1.1か月 | 1.2か月 |
| 21〜50人 | 1.5か月 | 1.2か月 | 1.1か月 | 1.6か月 |
| 51人以上 | 1.5か月 | 1.1か月 | 1.2か月 | 1.4か月 |
5人以下の会社は1.1か月分で、21〜50人の会社の1.6か月分より小さくなっています。規模の小さい会社ほど、在庫や売掛金を抱えにくい業種が多いことも影響していると考えられます。
この数字を読むときの注意
- たくさんの会社の残高を合計してから割った値です。売上の大きい会社の影響を強く受けるので、ふつうの会社の値とずれることがあります。
- 期末の残高なので、決算月が繁忙期か閑散期かで値が動きます。
- 四捨五入しているため、売上債権+棚卸資産−仕入債務が、運転資金の列と0.1か月ずれる行があります。
- 手元に置く預金の目安とは別の数字です。中小企業の現金・預金が月商の何か月分かは、2章で紹介した資金繰りの記事で、別の統計(法人企業統計)から計算しています。
この章の根拠(1件)
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績)」から計算
自社の運転資金と必要額を出す手順:来期の売上から逆算する5ステップ
来期に必要な運転資金は、どう見積もればいい?
3つの残高を拾って月商で割り、業種の目安と比べます。そのうえで、来期の月商×運転資金回転期間で必要額を出し、いまとの差を増加運転資金として資金繰り表に書きます。
3章の式と4章の目安を使って、自社の数字を出します。決算書か、直近の試算表を手元に置いて進めます。
- 3つの残高を拾う:同じ月末の売上債権・棚卸資産・仕入債務を書き出します。でんさいの分も忘れずに足します。
- 月商で割る:直近12か月の売上高を12で割った月商で、それぞれを割ります。3つの回転期間と、運転資金回転期間が出ます。
- 業種の目安と比べ、差を金額にする:4章の表と比べ、どの項目が多いかを見ます。差の月数に月商を掛けると、目安より多く寝ている金額になります。
- 来期の売上計画に掛ける:来期の月商×運転資金回転期間で、来期に要る運転資金を出します。いまとの差が増加運転資金です。
- 月ごと・日ごとに落とす:増えるのがいつかを資金繰り表に書き、毎月の経費の支払いに備える手元のお金も足します。
個人事業主の場合
個人事業主でも、考え方は同じです。青色申告決算書には貸借対照表を書く欄があり、記入していれば売掛金・棚卸資産・買掛金の期末の額がわかります。貸借対照表を作っていない場合は、帳簿の未入金の請求書、手元の在庫、未払いの仕入代金を月末に数えて出します。
個人事業主は、事業のお金と生活費が同じ口座から出ていくことが多いため、運転資金とは別に、毎月の生活費も手元のお金に足して考えます。
例の会社で3つ目の手順をやってみる
3章の会社(月商600万円の卸売業)を、4章の卸売業の目安と比べます。
| 項目 | この会社 | 卸売業の目安 | 差(月商600万円で) |
|---|---|---|---|
| 売上債権 | 2.0か月 | 1.7か月 | 0.3か月多い=180万円 |
| 棚卸資産 | 1.0か月 | 0.7か月 | 0.3か月多い=180万円 |
| 仕入債務 | 1.25か月 | 1.5か月 | 0.25か月少ない=150万円 |
| 運転資金 | 1.75か月 | 0.9か月 | 0.85か月多い=510万円 |
この会社は、卸売業の平均と比べて約510万円多く立て替えています。内訳は、回収が遅い分が180万円、在庫が多い分が180万円、支払いが早い分が150万円です。どこから手を付けるかは、この内訳で決まります。
平均と違うこと自体は悪いことではありません。扱う商品や取引先によって条件は変わります。ただ、前の年より回転期間が延びているなら、どの取引先・どの商品で延びたかを確かめます。
必要額は「運転資金の増加」と「手元のお金」の2つで考える
銀行に相談する額を考えるときは、2つを分けて出します。
- 増加運転資金:来期の月商700万円の計画なら175万円。売上の伸びに合わせて増える立て替えです。
- 手元に置くお金:給与・家賃などの経費が毎月250万円なら、その何か月分を預金で持つか。これは会社の方針で決め、公的な決まりはありません。
月ごとの表で残高の動きを追う方法は、資金繰り表の作り方で記入例とともに説明しています。運転資金の増え方を資金繰り表に写すと、いつの月に足りなくなるかが見えます。
運転資金が増えるとき・減るとき:5つの変化を計算で確かめる
黒字なのに、なぜお金が足りなくなるの?
売上が伸びると、売掛金も在庫も増えるからです。例の会社では、売上が100万円伸びると175万円増え、回収・在庫・支払いのどれかが半月動くだけで300万円動きます。
運転資金は、売上の大きさと3つの回転期間で決まります。そのどれかが動くと、立て替える額が変わります。3章の会社(月商600万円・運転資金1,050万円)で、変化ごとの増減を計算しました。
| 起きたこと | 計算 | 運転資金の増減 |
|---|---|---|
| 売上が月600万円から700万円に伸びる | 100万円×1.75か月 | 175万円増える |
| 取引先の支払いが遅くなり、売上債権が2.0か月から2.5か月に延びる | 600万円×0.5か月 | 300万円増える |
| 在庫が1.0か月分から1.5か月分に増える | 600万円×0.5か月 | 300万円増える |
| 仕入先から支払いを早めるよう求められ、仕入債務が1.25か月から0.75か月に縮む | 600万円×0.5か月 | 300万円増える |
| 売上が月600万円から500万円に減る | 100万円×1.75か月 | 175万円減る(お金が戻る) |
表から分かるのは、回転期間が0.5か月(約15日)動くだけで、売上が100万円伸びたときより大きな額が動くことです。取引先の支払条件や在庫の持ち方は、売上の伸びと同じくらい資金繰りに効きます。
売上が伸びるとき
売上が伸びると、売掛金も在庫も同じ割合で増えます。利益が出ていても、増えた売上の分だけ立て替えが先に増えるので、伸びている時期ほど預金が減りやすくなります。大きな受注の前には、受注額×運転資金回転期間で、いくら先に要るかを出しておきます。
取引先の支払いが遅くなるとき
大口の取引先の支払条件が延びる、期日を過ぎた売掛金が増える、といったときに起きます。上の例では、15日分の延びで300万円が寝ることになります。条件の変更を頼まれたら、その取引先の月の売上×延びる月数を先に計算してから答えます。
在庫が増えるとき・仕入先の条件が厳しくなるとき
まとめ買いの値引きや品切れを恐れて在庫を積むと、そのお金は売れるまで戻りません。また、仕入先から前払いや現金払いを求められると、仕入債務が減り、その分を自社で払うことになります。値引きの得と、寝るお金の大きさを比べて決めます。
売上が減るときは、一時的に楽になる
見落としやすいのが、売上が減ったときです。売掛金と在庫が減るので、例の会社では175万円が預金に戻ります。売上が落ちた直後に預金が増えるのはこのためで、資金繰りが良くなったわけではありません。
戻ったお金は1回きりです。減った売上で赤字になっていれば、その後は預金が減っていきます。預金が増えたときは、売上が減ったせいではないかを、回転期間と一緒に確かめます。
運転資金を減らす方法:回転期間を縮める3つの手
借りる前に、運転資金を減らせないの?
入金を早める、在庫を絞る、支払条件をそろえるの3つです。例の会社で売上債権を2.0か月から1.5か月に縮められれば、300万円が手元に戻ります。
立て替える額を減らすには、借りる前に回転期間を縮められないかを考えます。借りたお金には利息がかかりますが、回転期間が縮んで戻ったお金にはかかりません。
1. 入金を早める(売上債権を縮める)
- 請求書を締め日の当日に出す。請求が遅れると、入金も1か月ずれることがあります。
- 新しい取引や大口の仕事では、前受金・着手金・中間金を契約で決めておく。
- 期日を過ぎた売掛金を、取引先ごとに毎月確かめて早めに連絡する。
- 支払条件の短縮を交渉する(進め方は支払いサイトを短くしてもらう交渉で説明しています)。
例の会社で売上債権を2.0か月から1.5か月に縮められれば、300万円が手元に戻ります。
2. 在庫を絞る(棚卸資産を縮める)
- 売れ筋と、長く動いていない商品を分けて数える。
- 動いていない在庫は、値下げや返品の交渉で現金に戻す。
- 発注する量と時期を、売れる量から決め直す。
在庫を1.0か月分から0.75か月分に減らせれば、150万円が戻ります。品切れで売上を落とさない範囲で進めます。
3. 支払条件をそろえる(仕入債務を見直す)
入金が翌々月なのに、支払いは翌月という条件が多いと、その差を立て替え続けることになります。仕入先と話し合い、入金の時期とずれすぎない条件にそろえます。
ただし、自社が発注する側で、相手が中小の受注者やフリーランスの場合は、支払いを一方的に延ばすことは法律で禁じられている場合があります。支払いを延ばす相談は、相手の資金繰りも考えて合意の上で進めます。
運転資金が足りないときの調達方法:足りない理由で選ぶ
足りないときは、どこからお金を用意すればいい?
足りない理由で選びます。毎月ずっと要る分は銀行の短期継続融資、売上の伸びの分は計画を示して融資、数日〜数週間のずれは支払日の相談や売掛金の売却です。赤字なら立て直しが先です。
回転期間を縮めても足りないときは、外からお金を用意します。そのとき大事なのは、方法の名前より先に、足りない理由がどれかを決めることです。理由によって、返す元手と必要な期間が違うからです。
| 足りない理由 | 合う方法 | なぜ合うか |
|---|---|---|
| 売上が変わらなくても、毎月ずっと立て替えている(経常運転資金) | 銀行の短期継続融資(手形貸付・当座貸越を書き替えて続ける)、長めの運転資金の融資 | 商売が続く限り要るお金なので、続けて借りる形が合う |
| 売上の伸び・大口の受注で増えた(増加運転資金) | 受注や売上計画を示しての融資 | 増えた売上の入金が返す元手になる |
| 繁忙期・補助金の入金待ちなど、一時的に膨らむ(季節資金・つなぎ資金) | 短期の融資、当座貸越 | 決まった入金で返せる |
| 数日〜数週間のずれで、入金の当てがある | 支払日の相談、取引先の早期支払い、売掛金の売却(ファクタリング) | 短い期間なら、費用の総額が小さく済む |
| 赤字でお金が減っている(赤字補填) | 収支の立て直しを先に。公的な支援や返済条件の相談 | 運転資金ではないので、借りるだけでは解決しない |
- 赤字が続いて、預金が減っているか?はい → 運転資金の問題ではない。収支の立て直しと、苦しいときの対処の順番へいいえ → 次へ
- 売上がいまの水準のままでも、毎月ずっと足りないか?はい → 経常運転資金。銀行の短期継続融資か、長めの運転資金の融資いいえ → 次へ
- 売上の伸び・大口の受注・季節の山で増えた分か?はい → 増加運転資金・季節資金。受注や計画を示して融資を相談いいえ → 次へ
- 数日〜数週間のずれで、入金の当てがあるか?はい → 支払日の相談、早期支払い、売掛金の売却(ファクタリング)いいえ → 入金の当てを先に確かめる
経常運転資金は「借り続けてよい」お金
経常運転資金は、商売を続ける限りなくならない立て替えです。返すと、また同じ額が足りなくなります。そのため銀行では、短期の借入を期日ごとに書き替えて続ける「短期継続融資」で対応することがあります。
金融庁は2015年に、正常運転資金に対して短期継続融資で対応することは問題ないという考え方を、事例として示しました。その文書(金融検査マニュアル)は2019年12月に廃止されましたが、運転資金を式の数字で説明して借りるという考え方は、銀行と話すときの土台になります。※1
銀行に相談するときは、3章の式で出した運転資金の額と、5章の比べ方で出した内訳を持っていきます。「月商の1.75か月分、1,050万円が商売の仕組みで要る立て替えです」と数字で言えると、赤字の穴埋めではないことが伝わります。
方法の一覧は別の記事に
融資・保証・公的融資・売掛金の売却・補助金など、調達の方法を早さと費用で並べた一覧は、資金調達の方法の比較にまとめています。銀行より早いが金利が高めのビジネスローンの上限金利や扱いは、ビジネスローンとはで説明しています。
ファクタリングを使わない方がよい場合
ファクタリング(売掛金を期日前に売って現金にすること)は、入金の当てがある数日〜数週間のずれを埋めるには向いています。一方、毎月ずっと要る経常運転資金を埋めるのには向きません。
たとえば、毎月500万円の売掛金を手数料5%で売り続けると、手数料は月25万円、年300万円です。30日早めるための費用なので、手数料5%・30日を年率に直すと約64%になります。経常運転資金の穴を手数料で埋め続けると、利益が毎月削られ、やめるときには一度に500万円の穴が戻ってきます。
手数料を年率に直す式は手数料の計算と実質年率で、自社の金額では手取りと実質年率のシミュレーターで確かめられます。どの方法が合うか迷うときは資金調達診断も使えます。支払いがもう間に合わない状況なら、資金繰りが苦しいときの対処の順番を先に読んでください。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」への新たな事例の追加について(平成27年1月20日)・金融庁「検査マニュアル廃止後の引当に関する取組み」
運転資金でよくある失敗と注意点
運転資金で、ありがちな失敗って何?
運転資金のお金で設備を買う、決算月の残高だけで判断する、回収できない売掛金を含めたまま計算する、などです。売上計画には、伸び×運転資金回転期間を必ず書き込みます。
1. 運転資金のお金で設備を買う
運転資金として借りたお金や、手元の預金で機械や車両を買うと、立て替えに回すお金が足りなくなります。設備は何年もかけて元を取るものなので、設備資金として、使う年数に合った期間で借りるのが基本です。短いお金で長い使いみちを払うと、返済が先に来て資金繰りが苦しくなります。
2. 決算月の残高だけで判断する
決算月が閑散期だと、売掛金も在庫も少なく、運転資金は小さく見えます。実際に要るのは、残高がいちばん膨らむ繁忙期の額です。試算表で月ごとの3つの残高を並べ、多い月の額を見ておきます。
3. 回収できない売掛金や売れない在庫を含めたまま計算する
期日を大きく過ぎた売掛金や、長く動いていない在庫が残っていると、運転資金は大きく出ます。しかし、それはお金に戻らない分です。計算では別に分けて書き、銀行にも正直に伝えます。銀行も決算書を読むとき、中身を確かめます。
4. 売上計画に増加運転資金を入れない
売上を伸ばす計画を立てても、そのための立て替えを計画に入れていないと、伸びた月から預金が減ります。計画の売上の伸び×運転資金回転期間を、資金の計画に必ず書き込みます。
5. 割る数をそろえないで比べる
前の年と比べるときに、ある年は売上高で、別の年は売上原価で割ると、回転期間の差が実態とずれます。同じ式で計算した数字どうしを比べます。業種の目安と比べるときも、目安と同じ割り方にします。
6. 一時的なずれの方法で、ずっと要るお金を埋める
8章のとおり、ずっと要るお金に1回ごとの手数料を払い続けると、費用が積み上がります。足りない理由が経常運転資金なら、銀行や公的な融資の相談を先にします。
- 3つの数字を同じ日でそろえた売上債権・棚卸資産・仕入債務は同じ月末の残高
- 電子記録債権・債務も入れたでんさいの分を売掛金・買掛金に足す
- 回収できない売掛金を除いた期日を大きく過ぎたものは別に書く
- 売れない在庫を除いた長く動いていない在庫は別に書く
- 季節の山と谷を見た決算月だけでなく、多い月と少ない月の残高
- 来期の売上計画に掛けた増える分=増加運転資金を先に出す
- 運転資金で設備を買う短いお金で長い使いみちを払うと返済が苦しくなる
- 手数料で毎月の不足を埋め続けるずっと要るお金に、1回ごとの手数料を払い続けない
出典(4件)公的機関の資料・法令。2026.10.18に確認
- 中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績)統計表(中小企業庁・e-Stat)www.e-stat.go.jp
- 令和7年中小企業実態基本調査の概要(令和6年度決算実績)(中小企業庁・e-Stat)www.e-stat.go.jp
- 「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」への新たな事例の追加について(金融庁 平成27年1月20日)www.fsa.go.jp
- 検査マニュアル廃止後の引当に関する取組み(金融庁)www.fsa.go.jp
FAQ
よくある質問
運転資金とは簡単に言うと何ですか?
運転資金は、仕入や給与を先に払い、売上の代金を後から受け取るあいだ、事業を回すために立て替えておくお金です。銀行では「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で計算します。利益とは別のもので、売上が伸びるほど、黒字でも立て替える額が増えます。毎月の経費にあてるお金をまとめて運転資金と呼ぶこともあります。
運転資金の計算方法を教えてください。
決算書か試算表から、売掛金・受取手形・電子記録債権の合計、商品や材料などの在庫、買掛金・支払手形・電子記録債務の合計を拾い、売上債権+棚卸資産−仕入債務で出します。月商600万円の会社で売上債権1,200万円、在庫600万円、買掛金750万円なら、運転資金は1,050万円です。
運転資金の目安は月商の何か月分ですか?
公的な基準はありません。中小企業実態基本調査(令和6年度決算)から計算すると、中小企業の法人の全業種で月商の1.4か月分でした。製造業は2.1か月分、卸売業と小売業は0.9か月分、飲食店などは0.3か月分と、業種で大きく違います。自社の業種の値と比べ、前の年からの変化も見ます。
運転資金回転期間とは何ですか?
運転資金が月商の何か月分あるかを示す数字で、売上債権回転期間+棚卸資産回転期間−仕入債務回転期間で出します。3つとも月商で割ってそろえるのがポイントです。月商600万円で運転資金1,050万円なら1.75か月です。来期の月商にこの期間を掛けると、来期に要る運転資金が出せます。
運転資金が足りないときはどうすればいいですか?
まず足りない理由を分けます。毎月ずっと要る経常運転資金なら銀行の短期継続融資や長めの融資、売上の伸びで増えた分なら計画を示しての融資、数日〜数週間のずれなら支払日の相談や早期支払い、売掛金の売却が候補です。赤字でお金が減っている場合は運転資金ではないので、収支の立て直しを先にします。
運転資金を借り続けるのはよくないことですか?
経常運転資金は商売を続ける限りなくならない立て替えなので、借り続けること自体はおかしくありません。金融庁も2015年に、正常運転資金に短期継続融資で対応することは問題ないという考え方を示しました。式の数字で額を説明できれば、赤字の穴埋めではないことが銀行に伝わります。
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