資金繰り更新 2026.10.17
手元資金の目安は月商の何か月分?中小企業の実態と、自社の必要額の出し方
手元資金の目安に法律上の基準はなく、中小企業の現金・預金は平均で月商の約2.7か月分です。業種別の統計と、毎月必ず出るお金・入金のずれ・1年の山から自社の下限と目標を出す5つの手順、増やし方を解説します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

この記事は、「預金はいくらあれば安心なのか」「月商の何か月分を持てばいいのか」と考えている中小企業の経営者・個人事業主に向けて書いています。手元資金の目安の考え方、中小企業が実際に持っている額、自社に必要な額を出す手順、足りないときの増やし方を、統計と計算例で説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:手元資金の目安は「月商の何か月分」より、自社の支払いから下限を出して決める
手元のお金って、月商の何か月分あれば安心なの?
法律や公的な基準で決まった数字はありません。中小企業の平均は月商の約2.7か月分ですが、必要な額は、毎月必ず出るお金・入金のずれ・1年の大きな支払いから、自社で下限を出して決めます。
手元資金の目安として「月商の1か月分」「3か月分」といった言い方がよく使われます。ただ、法律や公的な基準で決まった数字はありません。必要な額は、毎月必ず出ていくお金と、入金のずれ、1年の大きな支払いで決まります。
要点は次の3つです。
- 中小企業の平均は、月商の約2.7か月分:中小企業庁の調査(令和6年度決算)では、法人の中小企業が持つ現金・預金は、合計で月商の約2.7か月分でした。ただし借入金は月商の約3.5か月分あり、預金の多くは借りたお金でまかなわれています。
- 業種で1.5か月から5.7か月まで違う:卸売業・小売業は約1.5〜1.6か月分、学術研究・専門サービス業は約5.7か月分です。月商の大きさより、費用の中身と入金のしかたで必要な額が変わります。
- 自社の額は5つの手順で出す:毎月必ず出るお金、入金と支払いのずれ、1年の山、売上のぶれ、借入の枠を順に足し引きします。計算例の会社では、下限が月商の約1.1か月分、目標が約1.5か月分になりました。
この先は、手元資金・手元流動性の意味(2章)、目安に使う3つの物差し(3章)、中小企業の統計(4章)を見ます。続いて、自社の必要額を出す5つの手順(5章)、業種や事業の形で変わる理由(6章)、少ないとき・多すぎるときの問題(7章)、増やし方(8章)を説明します。最後に、ファクタリングで手元資金を積まない方がよい理由(9章)と、よくある失敗(10章)です。
手元資金とは:手元流動性との違いと、数えるお金の範囲
預金通帳の残高を、そのまま数えればいいんだよね?
すぐ支払いに使える現金と普通・当座預金だけを数えます。担保に入った定期預金や、預かっている消費税・源泉所得税、社長個人の預金は外します。売掛金や在庫も今日の支払いには使えません。
手元資金とは、会社がすぐに支払いに使えるお金のことです。現金と、普通預金・当座預金の残高がこれにあたります。「手元資金」は会計の正式な科目名ではなく、経営の現場で使われる言葉です。
手元流動性・手元流動性比率とは
決算書の分析では、似た言葉として「手元流動性」が使われます。財務省の法人企業統計の解説では、手元流動性を、現金・預金と有価証券を合わせた額の、売上高に対する割合としています。※1
同じ解説によると、2024年度の手元流動性は全産業・全規模で18.9%でした。年の売上高に対する割合なので、12をかけて月商に直すと、約2.3か月分です。この数字には大企業も含まれます。月商で割った値を「手元流動性比率」と呼び、「月商の何か月分か」で表すことも多くあります。
| 言葉 | 数えるもの | 何で割るか |
|---|---|---|
| 手元資金 | 現金・すぐ引き出せる預金 | 決まりはない(額で見る) |
| 手元流動性 | 現金・預金+有価証券 | 売上高(財務省の解説では年商) |
| 手元流動性比率 | 現金・預金+有価証券 | 月商(何か月分かで表す) |
中小企業は、売買できる有価証券をほとんど持たないことが多いので、実際には「現金・預金÷月商」で考えて差し支えありません。この記事でも、現金・預金を月商や月の支出で割って目安を考えます。
手元資金に数えないお金
帳簿の上の預金でも、すぐに使えないものは手元資金から外します。代表的なのは次の3つです。
- 担保に入っている預金・積み立ての定期預金:借入の担保になっている定期預金は、解約できません。
- 預かっているお金:売上と一緒に受け取った消費税、給料から差し引いた源泉所得税や住民税、社会保険料は、近いうちに納めるお金です。
- 社長個人の預金:会社のために使うつもりでも、会社の預金ではありません。
売掛金や在庫も、今日の支払いには使えません。資金繰りで数えるお金の範囲は、資金繰りとは(利益とお金の違い)で詳しく説明しています。
この章の根拠(1件)
- 財務省「財務指標の例⑩ 手元流動性」
手元資金の目安は何で測るか:月商・月の支出・固定費の3つの物差し
「1か月分」って、何の1か月分で数えるの?
月商・月の支出・月の固定費の3つがあります。比べるなら月商、備えるなら支出や固定費が向きます。利益の薄い業種では、月商の1か月分でも支払いに足りないことがあります。
「何か月分」と言うときの「1か月分」には、3つの取り方があります。どれを使うかで、同じ預金でも安心か不安かの判断が変わります。
| 物差し | わかること | 向く使い方 | 弱いところ |
|---|---|---|---|
| 月商(売上の1か月分) | 他社や統計と比べやすい | 同業と比べる | 仕入の多い業種と少ない業種で、意味が大きく違う |
| 月の支出(仕入・外注・給料・家賃などの合計) | 入金が止まったら何か月払えるか | 売上が止まる場面に備える | 仕入を止めれば減る支出も含む |
| 月の固定費(給料・家賃・返済など) | 売上が止まっても出ていくお金の何か月分か | 最低限の下限を決める | 仕入の立て替えや、年に数回の支払いが入らない |
表のとおり、比べるなら月商、備えるなら支出や固定費が向きます。月商は誰でもすぐ出せる便利な数字ですが、利益の薄い業種では「月商の1か月分」でも支払いに足りないことがあり、利益の厚い業種では多すぎることがあります。
月商で考えると外れる例
月商1,000万円の会社が2社あるとします。A社は仕入の割合が高い卸売業で、毎月900万円以上が出ていきます。B社は人が中心のサービス業で、毎月出ていくのは700万円ほどです。
同じ「月商の1か月分=1,000万円」を持っていても、A社は約1か月、B社は約1.4か月の支払いをまかなえます。逆に、A社は仕入を止めれば支出が大きく減りますが、B社の支出の多くは給料と家賃で、すぐには減りません。このように、月商の何か月分かは入口の物差しにとどめ、最後は自社の支払いの中身で決めます。
数字で確かめる:中小企業は月商・支出の何か月分の預金を持っているか
ほかの中小企業は、どれくらい持ってるの?
法人の中小企業の現金・預金は月商の約2.7か月分です。卸売業は約1.5か月分、専門サービス業は約5.7か月分と業種で差があります。借入金は約3.5か月分で、預金より多くなっています。
自社の預金が多いのか少ないのかは、比べる相手がないと判断できません。ここでは、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」(令和7年確報=令和6年度決算実績)から、法人の中小企業の平均を計算しました。※1
計算は、業種ごとの合計の数字どうしで割っています。月の支出は、売上原価と販売費・一般管理費の合計から、お金の出ない減価償却費を引き、12で割った額です。利息・税金・借入の返済は入っていません。
業種別:現金・預金と借入金は、月商の何か月分か
| 業種(法人企業) | 現金・預金÷月商 | 現金・預金÷月の支出 | 借入金÷月商 |
|---|---|---|---|
| 全業種 | 2.7か月 | 2.8か月 | 3.5か月 |
| 建設業 | 3.7か月 | 3.9か月 | 2.6か月 |
| 製造業 | 2.9か月 | 3.1か月 | 3.5か月 |
| 情報通信業 | 3.9か月 | 4.2か月 | 2.3か月 |
| 運輸業・郵便業 | 2.3か月 | 2.5か月 | 4.3か月 |
| 卸売業 | 1.5か月 | 1.5か月 | 1.6か月 |
| 小売業 | 1.6か月 | 1.6か月 | 2.4か月 |
| 不動産業・物品賃貸業 | 5.1か月 | 6.0か月 | 15.8か月 |
| 学術研究・専門・技術サービス業 | 5.7か月 | 6.6か月 | 6.0か月 |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 3.2か月 | 3.4か月 | 6.8か月 |
| 生活関連サービス業・娯楽業 | 2.2か月 | 2.3か月 | 3.9か月 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 4.8か月 | 5.1か月 | 3.6か月 |
いちばん少ないのは卸売業で月商の約1.5か月分、いちばん多いのは学術研究・専門・技術サービス業で約5.7か月分でした。卸売業や小売業は、売上が大きい分だけ仕入も大きく、月商で割ると小さく出ます。
注目したいのは右の列です。全業種で見ると、借入金(月商の約3.5か月分)が現金・預金(約2.7か月分)を上回ります。多くの中小企業は、稼いだお金だけでなく、借りたお金を預金として手元に置いています。宿泊・飲食サービス業や運輸業も、借入金が預金の2倍前後あります。
業種別全業種の平均人数別
人数別:小さい会社ほど、月商に比べて多く持っている
従業者の人数で分けると、5人以下の会社が月商の約3.5か月分、51人以上の会社が約2.1か月分でした。小さい会社ほど、月商に比べて多くの預金を持っています。
ただし、借入金も5人以下の会社は月商の約6.2か月分、51人以上は約2.5か月分です。小さい会社は、急に借りるのが難しいぶん、借りられるときに借りて手元に厚く置いている、と読めます。
平均をそのまま目安にしない
この数字は、たくさんの会社の預金と売上を合計してから割った値です。預金を多く持つ一部の会社が平均を押し上げるので、ふつうの会社はこれより少ないことがあります。
統計は「同業と比べて極端に少なくないか」を確かめる物差しとして使い、自社の目安は次の章の手順で出します。資本金の規模別に見た別の統計(法人企業統計)の数字は、資金繰りとはの記事に載せています。
自社の数字を当てはめてみる
自社の数字は、決算書の貸借対照表の「現金及び預金」を、損益計算書の売上高を12で割った月商で割れば出ます。借入金も同じように月商で割ると、預金のうちどれだけが借りたお金かの見当がつきます。
次の章の計算例の会社(内装工事・月商1,200万円)は、預金が1,100万円で、月商の約0.9か月分です。建設業の平均の約3.7か月分と比べると4分の1以下ですが、この会社が自社の支払いから出した必要額は月商の約1.1〜1.5か月分で、下限との差は240万円でした。平均との差より、自社の必要額との差を見ます。平均を大きく下回っていても、必要額を満たしていれば慌てる必要はありません。
この章の根拠(1件)
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績)」
自社の手元資金の必要額を出す5つの手順(計算例つき)
うちに必要な額は、どうやって出せばいい?
毎月必ず出るお金、入金のずれ、1年でいちばん大きい山を足して下限、売上のぶれを足して目標にし、借入の枠で差し引きます。計算例の会社は下限1,340万円、目標1,820万円でした。
ここからは、自社にいくら必要かを出す手順です。決算書と、通帳か資金繰り表があれば、30分ほどで出せます。下の計算例は、従業員12人・月商1,200万円の内装工事会社を仮定したものです(単位はすべて万円)。
- ①毎月必ず出るお金給料・社会保険料、家賃・リース、借入の返済の合計。例では650万円
- ②入金と支払いのずれ入金より先に払う仕入・外注の1か月分。例では450万円
- ③1年でいちばん大きい山賞与・納税など。例では冬の賞与の240万円
- ④売上のぶれ大口の取引先の入金が1か月遅れたとき。例では480万円
- ⑤借入の枠で差し引く当座貸越の空き500万円があれば、④は枠で代えられる
手順1:毎月必ず出るお金を出す
売上がゼロの月でも出ていくお金を合計します。給料と会社負担の社会保険料、家賃、リース料、通信費、借入の返済(元金と利息)などです。決算書の費用には借入の元金の返済が出ないので、返済予定表から足します。
例の会社は、給料・社会保険料が480万円、家賃・リース・通信などが90万円、借入の返済が80万円で、合計650万円です。これが手元資金の土台になる「1か月分」です。
手順2:入金と支払いのずれを足す
多くの会社は、仕入や外注の代金を、売上の入金より先に払います。このずれの分は、売上が順調でも預金で立て替える必要があります。
例の会社は、工事代金が月末締め翌々月末の入金で、材料と外注は翌月末払いです。新しい工事を始めると、入金の前に材料と外注の1か月分(450万円)を払うことになります。立て替える額の計算のしかたは、運転資金とは(計算方法と業種別の目安)で詳しく説明しています。
手順3:1年でいちばん大きい山を足す
賞与、法人税・消費税の納付、年1回の保険料など、特定の月にまとめて出ていく支払いを書き出します。法人税は、事業年度の終わりの翌日から2か月以内に申告し、同じ期限までに納めます。※1
例の会社では、冬の賞与が240万円、決算から2か月後の法人税・住民税が180万円でした。時期が重ならないので、大きいほうの240万円を足します。2つが同じ月に来るなら、両方を足します。
ここまでの合計、650+450+240=1,340万円が「これを割ったら手を打つ」下限です。月商の約1.1か月分、月の支出(固定の650万円と材料・外注の450万円で1,100万円)の約1.2か月分にあたります。
手順4:売上のぶれに備える額を足す
次に、予定どおりにいかないときの備えを足します。考えるのは「どの入金が止まると、いちばん困るか」です。
例の会社は、売上の4割を1社の元請けに頼っています。その入金が1か月遅れると、480万円が入りません。下限に足すと1,820万円で、月商の約1.5か月分、毎月必ず出るお金の約2.8か月分です。これを「目標」とします。
手順5:借入の枠で差し引く
当座貸越(決めた枠までなら、預金の残高を超えて引き出せる契約)の枠があれば、その空きは「いざというときに使えるお金」です。例の会社は、500万円の空きがあるので、手順4の480万円は枠で代えられます。
そのため、この会社が預金で持つ額は、下限の1,340万円から目標の1,820万円の間になります。今の預金が1,100万円なら、下限に240万円足りません。毎月40万円ずつ取り分ければ、6か月で下限に届きます。
①〜④の金額は、資金繰り表の作り方の表を作っておくと、そこからそのまま拾えます。年に1回、決算のあとに出し直します。
出した額を「3本の線」にして、動く合図にする
必要額は、出しただけでは役に立ちません。預金がどこまで減ったら何をするかを、前もって決めておきます。例の会社なら、次の3本の線になります。
| 線 | 例の会社の額 | 預金がこの線を割ったら |
|---|---|---|
| 目標(手順1〜4) | 1,820万円 | 取り分けを続ける。大きな支出は、この線を割らない範囲で決める |
| 下限(手順1〜3) | 1,340万円 | 3か月先までの資金繰り表を作り直し、銀行に借入や枠の相談を始める |
| 危ない線(手順1の1か月分) | 650万円 | 支払いの日付を並べ直し、支払先・税の窓口への相談と、すぐ使えるお金の確保に移る |
線を決めておくと、預金が減ったときに迷わずに動けます。特に下限の線で銀行に相談を始めておけば、危ない線まで下がる前に、年率の低いお金を用意する時間が取れます。
この章の根拠(1件)
- 法人税法74条1項・77条
業種・事業の形で手元資金の目安が変わる理由
業種によって、持つべき額は変わるの?
変わります。入金サイトが長い、売上の3割以上を1社に頼る、季節で売上が動く、借入の枠がない、に当てはまるほど厚く持ちます。売上が伸びる年も、立て替えが増えるので必要額が上がります。
4章の統計で業種の差が大きかったのは、業種によって、立て替えの大きさ・売上のぶれ・費用の中身が違うからです。自社の目安を手順の数字より厚くするか薄くするかは、次の問いで考えます。
- 入金までの期間(入金サイト)は、支払いまでの期間より長いか?はい → 手順2の立て替えが大きい。受注が増える時期ほど厚くするいいえ → 現金商売や前受金が多いなら、手順2は小さくてよい
- 売上の3割以上を1社に頼っているか?はい → 手順4の備えを、その会社の1か月分の入金にするいいえ → 次へ
- 季節によって売上や仕入が大きく動くか?はい → 売上の少ない月が続く期間の、毎月出るお金を足すいいえ → 次へ
- 創業から2〜3年以内か、借入の枠がないか?はい → 急に借りにくいので、目標の側(手順4まで)を預金で持ついいえ → 手順5の枠を使い、下限を中心に持つ
業種ごとの事情
統計の数字と、業種の事情を合わせると、次のように読めます。
- 建設業:工事の完成まで入金がなく、材料や外注を先に払う時間が長くなります。統計でも月商の約3.7か月分と多めです。大きな工事を受けるときは、その工事の立て替えを別に足します。
- 卸売業・小売業:月商が大きく、月商で割ると約1.5〜1.6か月分と小さく出ます。仕入を絞れば支出も減るので、月商より「毎月必ず出るお金」で下限を決めるほうが合います。
- サービス業・専門サービス業:費用の多くが人件費で、売上が落ちてもすぐには減りません。統計でも、月の支出の約5.1〜6.6か月分と多く持っています。
- 飲食・宿泊業:日々の現金売上が中心で、立て替えは小さい一方、借入金が月商の約6.8か月分と重いです。返済を手順1に必ず入れます。
売上が伸びる年は、必要額も増える
見落としやすいのが、売上が伸びているときです。売上が増えると、入金の前に払う仕入や外注も増えるので、手順2の立て替えが大きくなります。
例の会社の月商が1,200万円から1,500万円に増え、材料・外注も同じ割合で増えると、手順2は450万円から約560万円になります。給料や家賃が変わらなくても、下限は1,340万円から約1,450万円に上がります。人を増やせば、手順1も増えます。受注が増える見込みのときは、増えた後の数字で手順を出し直します。
個人事業主は、生活のお金も足す
個人事業主は、事業の口座から生活費や国民健康保険料、所得税の予定納税なども出ていくことが多くあります。手順1には、事業の支払いに加えて、毎月の生活費を足します。
事業と生活の口座を分けておくと、どちらのお金が足りないのかがわかりやすくなります。確定申告書を出したあとの所得税・住民税も、1年の山として手順3に入れます。
手元資金が少ないときのリスクと、多すぎるときの損
少ないと困るのはわかるけど、多すぎても損なの?
少ないと、支払いの日に足りなくなったり、高いお金で埋めることになったりします。多すぎる分は、借りて置いているなら利息が費用です。例では、240万円を年2%で1年借りると利息4.8万円でした。
少ないときに起きること
手元資金が下限を割ると、予定外の出来事に耐えられなくなります。起きやすいのは次の4つです。
- 支払いの日に足りなくなる:入金の遅れが1件あるだけで、支払いの日に預金が足りなくなります。月の合計がプラスでも、日ごとの残高の谷で起きます。起きる仕組みは資金ショートとは(起きる日の見つけ方と前兆)で説明しています。
- 高いお金で埋めることになる:銀行や公的融資は、申込みから入金まで数週間かかります。時間がないと、費用の高い方法しか間に合いません。
- 仕事を選べなくなる:大きな注文ほど立て替えが大きくなります。手元資金が薄いと、受ければ利益が出る注文でも断ることになります。
- 相談が後手になる:残高が減ってから借入を相談すると、資金繰り表で返せる見通しを示しにくくなります。余裕のあるうちのほうが、話を進めやすくなります。
多すぎるときの損
手元資金は多いほど安全ですが、多すぎる分には費用があります。財務省の解説も、手元流動性が高すぎると、稼いだお金を事業に使わず寝かせているとも見られる、と書いています。※1
借りたお金を預金で持っているなら、その分の利息が費用です。例の会社が、下限に足りない240万円を年2%で1年借りて置くと、利息は4.8万円です。この費用と、足りなくなったときに高いお金で埋める費用を比べて、どこまで持つかを決めます。
中小企業は、急に借りるのが難しいことが多いので、ある程度の利息を払っても手元に厚く置く考え方には理由があります。4章の統計で、預金より借入金が多い会社が多いのはこのためです。問題になるのは、目標を大きく超えて持ち続け、使い道も決めていない場合です。
この章の根拠(1件)
- 財務省「財務指標の例⑩ 手元流動性」
手元資金の増やし方:積み増しの順番
足りないとわかったら、何から始めればいい?
まず毎月決まった額を別の口座に取り分けます。下限に240万円足りない会社なら、月40万円で6か月です。あわせて、業績が良いうちに借入や当座貸越の枠を作っておきます。
下限に足りないとわかったら、積み増しの計画を立てます。順番は「費用がかからない方法」→「借入の枠を作る方法」→「事業の数字を変える方法」です。
1. 毎月の取り分けを決める
利益が出ている会社なら、まず毎月決まった額を別の口座に移します。例の会社なら、月40万円で6か月です。足りない額÷毎月の額で、届くまでの月数がわかります。
あわせて、預かっている消費税や源泉所得税、納税・賞与の積み立ても別の口座に移します。「使ってはいけないお金」を分けておくと、普段の口座の残高が、本当に使える額になります。
2. 余裕のあるうちに、借入と枠を作る
手元資金を一度に厚くできるのは借入です。運転資金の借入や当座貸越の枠は、業績が落ちてからより、決算が良いときのほうが相談しやすくなります。借り方の種類と、審査で見られることは、運転資金の融資を受けるにはで説明しています。
取引先の倒産に備えるなら、国の共済で、取引先が倒産したときに掛金の範囲で借りられる経営セーフティ共済(倒産防止共済)も平時の備えになります。
3. 入金を早め、出ていくお金を整える
回収の条件を見直す、在庫を減らす、固定費を見直す、返済の期間を組み直す、といった方法でも手元資金は増えます。方法によって、1回だけ戻るものと毎月残るものがあります。12の方法を、効く額と早さで比べた一覧は資金繰り改善の方法12選にあります。
4. 使い道のない資産を、お金に戻す
使っていない車両・機械、解約しても困らない保険などは、お金に戻せば手元資金になります。売る・解約する前に、税金や違約金がかからないかを確かめます。
積み増しの計画は、資金繰り表に書き込む
どの方法を使うにしても、いつ、いくら手元資金が増えるかを資金繰り表に書き込みます。例の会社なら、毎月40万円の取り分けで、6か月後に下限の1,340万円に届く線を引きます。そのうえで、賞与や納税の月に一時的に下限を割らないかを確かめ、割る月があれば、その前に借入の相談を入れておきます。
ファクタリングで手元資金を積まない方がよい理由と、ほかの方法
ファクタリングで手元資金を厚くするのはダメ?
積み増しには向きません。手数料5%・60日で売ると実質年率は約32%で、入金が前に来るだけなので、厚さを保つには毎月売り続けることになります。使うなら、足りない額だけにとどめます。
ファクタリング(売掛金を期日の前に売って現金にすること)は、数日で現金にできる方法です。ただ、手元資金を「積み増す」目的には向きません。
理由は費用です。例の会社が、60日後に入る売掛金300万円を、手数料5%で売るとします。手数料は15万円、手取りは285万円です。実質年率は「手数料額÷手取り額÷入金までの日数×365」で、手数料5%・60日なら約32%になります。
しかも、売った売掛金の分だけ、60日後の入金はなくなります。手元資金が増えたのは入金が前に来ただけで、翌月以降も同じ額を持ち続けるには、毎月売り続けることになります。毎月300万円を手数料5%で売ると、1年で180万円です。同じ240万円の不足を年2%で借りて置く利息4.8万円と比べると、差は大きくなります。
年率の出し方は手数料の計算と実質年率で、自社の条件は手取りと実質年率のシミュレーターで計算できます。
手元資金の目的ごとに、先に当たる方法
| 目的 | 先に当たる方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 下限まで積み増したい(時間がある) | 毎月の取り分け、銀行・公的融資 | 費用がかからないか、年率が低い |
| 売上のぶれに備えたい | 当座貸越の枠、経営セーフティ共済 | 使わなければ費用が小さい |
| 大きな注文の立て替え | その注文を前提にした運転資金の借入 | 入金の時期と返す時期を合わせられる |
| 数日後の支払いに足りない | 支払先への相談、そのうえで足りない分だけの売掛金の売却 | 足りない額と日数が決まっていれば、費用を小さくできる |
表の最後の行のように、数日後の手形・給与の支払いに足りず、確実な入金で戻る不足なら、売掛金を売る意味はあります。そのときも、足りない額だけにとどめます。
金融庁は、ファクタリングを装った高い金利の貸付けをする業者に注意を呼びかけています。※1急いでいるときほど、契約の名前ではなく中身を確かめます。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」
手元資金の目安でよくある失敗と注意点
手元資金で、やってしまいがちな失敗は?
月商の何か月分だけで決める、預かっている税金を数える、月末の残高だけを見る、借りて積んだのに返済を入れ直さない、などです。少なくとも決算のたびに、5つの手順を出し直します。
「月商の何か月分」だけで決める
月商の何か月分は、同業と比べるには便利ですが、自社の支払いを表していません。利益の薄い業種では足りず、厚い業種では多すぎることがあります。5章の手順で、自社の支払いから出し直します。
預かっているお金を、手元資金に数える
売上と一緒に受け取った消費税や、給料から差し引いた源泉所得税・住民税は、近いうちに納めるお金です。これを使える預金と思って支払いに回すと、納期限に足りなくなります。別の口座に移しておくと、取り違えません。
月末の残高だけを見る
月末の残高は、入金があった後の数字のことが多くあります。下限を割っていないかは、月の中でいちばん残高が少なくなる日で確かめます。給料日や仕入の支払日の前日の残高を見ます。
借りて積んだ預金を、返済の予定から外す
借入で手元資金を厚くすると、毎月の返済が増えます。手順1の「毎月必ず出るお金」に返済を入れ直さないと、下限が実際より低く出ます。借りたら、その月に必要額を出し直します。
取り分けたお金を、すぐ引き出せない形にする
積み増したお金を、満期まで解約しにくい定期預金や、借入の担保に入れてしまうと、いざというときに使えません。手元資金として数えるのは、その日のうちに支払いに回せるお金だけです。下限までの分は普通預金に置き、下限を超えた分だけを、ほかの形で持つかを考えます。
一度決めた額を見直さない
人を増やした、家賃が上がった、取引先が変わった、といった変化で、必要額は変わります。少なくとも決算のたびに、5つの手順を出し直します。売上が大きく伸びている年は、立て替えも増えるので、半年ごとに見直すと安全です。
足りないのに、一人で抱え込む
下限を割っているとわかったら、早めに顧問の税理士や取引のある銀行に、資金繰り表を見せて相談します。数字が1枚にまとまっていれば、相談の時間は短く済み、使える手も増えます。
出典(4件)公的機関の資料・法令。2026.10.17に確認
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査 令和7年確報(令和6年度決算実績)」(e-Stat)www.e-stat.go.jp
- 財務省 財務総合政策研究所「財務指標の例⑩ 手元流動性」(法人企業統計)www.mof.go.jp
- 法人税法(e-Gov法令検索)第74条・第77条laws.e-gov.go.jp
- ファクタリングの利用に関する注意喚起(金融庁)www.fsa.go.jp
FAQ
よくある質問
手元資金は月商の何か月分あればいいですか?
法律や公的な基準で決まった数字はありません。中小企業庁の調査(令和6年度決算)では、法人の中小企業の現金・預金は合計で月商の約2.7か月分でした。ただし業種で約1.5〜5.7か月分と差が大きいので、平均は比べる物差しにとどめ、毎月必ず出るお金・入金のずれ・1年の山から自社の下限を出して決めます。
中小企業の手元資金の平均はどのくらいですか?
中小企業実態基本調査(令和6年度決算)を合計で計算すると、法人の中小企業の現金・預金は月商の約2.7か月分、月の支出の約2.8か月分でした。一方で借入金は月商の約3.5か月分あり、預金の多くは借りたお金でまかなわれています。人数別では5人以下が約3.5か月分、51人以上が約2.1か月分です。
手元流動性比率とは何ですか?
手元流動性比率は、現金・預金と有価証券を合わせた額を月商で割り、何か月分の売上にあたるかで表した指標です。会社がすぐに払えるお金の厚さを見るのに使います。財務省の解説では年の売上高で割った割合で示しており、2024年度は全産業・全規模で18.9%、月商に直すと約2.3か月分でした。
自社に必要な手元資金はどう計算しますか?
給料・家賃・返済など毎月必ず出るお金、入金より先に払う仕入や外注の額、賞与や納税など1年でいちばん大きい支払いを足して下限を出します。そこに大口の入金が遅れたときの備えを足して目標とし、当座貸越の空きがあれば備えの分を枠で代えます。計算例の会社では下限が月商の約1.1か月分、目標が約1.5か月分でした。
手元資金が少ないとどうなりますか?
入金が1件遅れるだけで支払いの日に預金が足りなくなり、時間がないぶん費用の高い方法で埋めることになりがちです。立て替えの大きい注文を受けにくくなり、借入の相談も後手になります。下限を割ったら3か月先までの資金繰り表を作り直し、余裕のあるうちに銀行に借入や枠の相談を始めます。
手元資金を増やすにはどうすればいいですか?
まず毎月決まった額を別の口座に取り分け、預かっている消費税や源泉所得税も分けます。あわせて業績が良いうちに運転資金の借入や当座貸越の枠を作ります。回収条件や固定費の見直しでも増やせます。ファクタリングは手数料5%・60日で実質年率が約32%になり、毎月続けると費用が重いので、積み増しには向きません。
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