会計更新 2026.10.30
倒産の前兆とは?取引先に出る12のサインと、気づいたときに打つ手
取引先の倒産の前兆は、まず支払いの遅れや一部入金に出て、次に取引・人の変化、最後に差押えや減資として登記・官報に残ります。12のサインの確かめ方と3段階の判断、気づいた時期で未回収が変わる計算例を解説します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

この記事は、売掛金のある取引先が「危ないかもしれない」と感じた経営者・経理の方に向けて書いています。倒産の前兆は、支払い・取引・人・登記の4か所に出ます。12のサインの確かめ方と打つ手、気づいた時期で損がどれだけ変わるかを計算例で示します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:前兆は「支払い→取引→人→登記」の順に出る。2つ重なったら、次の出荷の条件を変える
取引先が危ないかどうか、どこを見ればわかるの?
まずは自社の入金の記録です。前兆は「支払い→取引→人→登記」の順に出ます。サインが2つ重なったら、次の出荷を前払いにするなど、条件を変えましょう。
取引先の倒産の前兆で、いちばん早く、確かに出るのは支払いの変化です。資金繰りが苦しくなった会社は、まず払う日を先へずらします。次に注文や人の動きが変わり、最後に差押えや減資のような記録が、登記や官報に残ります。
サインが1つだけなら、理由を聞いて確かめる段階です。2つ以上が重なったら、これからの出荷を前払いにする、量を減らすなどして、未回収の額をこれ以上増やさないようにします。うわさだけで取引を止めないことも大切です。
動くのが早いほど、倒産したときに残る未回収は小さくなります。7章の計算例では、月300万円を納品する取引先で、1つ目のサインで動いた場合の未回収は150万円でした。何もしなかった場合は650万円です。
この記事の流れは次のとおりです。2章で12のサインの一覧、3章で支払いのサインの読み分け方、4章で登記と官報の確かめ方を説明します。5章で今の段階の決め方、6章で打つ手、7章で計算例、8章でほかの備え、9章でよくある失敗をまとめます。
取引を始める前の調べ方と与信の上限の決め方は与信管理とは(信用調査と与信限度額)に、相手が実際に倒産した後の手順は取引先が倒産したらやることにまとめています。この記事は、その間の「危ないと感じてから、倒産するまで」を扱います。
取引先の倒産の前兆12のサイン:どこに出て、どう確かめるか
サインって、具体的にどんなものがあるの?
支払いに5つ、取引に3つ、人に2つ、登記に2つの、全部で12です。1つだけで倒産とは限りませんが、×を付けた4つは払う力そのものが落ちているときに出やすいサインです。
12のサインを、出る場所ごとに並べました。上の5つが支払い、次の3つが取引、その次の2つが人、最後の2つが登記に出るサインです。左が気づくきっかけ、右が確かめ方です。
- 支払日に遅れる・「来週に」と言われる入金の記録で、遅れた日数と回数を数える
- 一部だけ入金される・端数が入る残りをいつ払うか、日付と額を書面でもらう
- 支払いの延長や分割を頼まれる理由と、ほかの仕入先にも頼んでいるかを聞く
- 振込から手形・期日の長いでんさいに変えたいと言われる取適法の対象の取引なら、手形での支払いは禁止
- 振込の名義や口座が変わる別の会社や社長個人からの入金は、理由を聞く
- 急な大口の注文・前倒しの注文が来るいつもの何倍か、何に使う品かを聞く
- 注文が急に減る・大きな取引先を失ったと聞く相手の売上のどれだけが消えたかを推し量る
- 相場より安い値で、商品や在庫を売り出している同業者や、相手の取引先の話と照らす
- 経理の担当者や幹部が辞める・窓口が替わる支払いを決めているのが誰かを確かめ直す
- 社長に連絡がつかない・約束の場に来ない電話や訪問の記録を、日付つきで残す
- 本店の移転・役員の入れ替え・減資・会社分割履歴事項全部証明書と官報で確かめる
- 不動産に差押え・仮差押えの登記が入る不動産の登記事項証明書の甲区を見る
どれも、1つだけで倒産を意味するものではありません。ただ、×を付けた4つは、相手が「払いたくても払えない」ときに出やすいサインです。1つでも当てはまれば、5章の段階2として扱います。
前兆が出る順番と、その理由
支払いのサインは、相手が自分で選ぶ「先送り」です。苦しい会社は、まず支払いを待ってくれそうな相手に頼みます。そのため、取引先のなかでも立場の弱い仕入先や外注先が、最初に気づくことがよくあります。
人と登記のサインは、相手が隠したくても隠せない「結果」です。経理の担当者が辞める、税金を滞納して不動産を差し押さえられる、といったことは、資金繰りの悪化がかなり進んでから起きます。後に出るサインほど、倒産に近い段階だと考えます。
ただし、いつも順番どおりに出るとは限りません。急な大口の注文のように、支払いの遅れより先に出るサインもあります。順番はあくまで目安として、複数のサインを合わせて見ます。
取引に出るサイン:注文が増えても喜べないとき
いつもの何倍もの注文が急に来たら、まず理由を聞きます。新しい大口の仕事を取った、という正当な理由もあります。一方で、掛けで仕入れた品をすぐに安く売って、目先の現金を作る動きのこともあります。
見分ける手がかりは、8つ目のサインとの組み合わせです。相手が相場より安い値で商品や在庫を売り出していると聞いたら、仕入れた品を現金に換えている可能性があります。大口の注文は、前払いか、小分けの出荷で受けます。
注文が急に減ったときは、相手の売上そのものが減っているかもしれません。とくに、相手の大きな取引先が倒産した、撤退した、と聞いたときは注意します。相手が売掛金を回収できず、連鎖して支払いが止まることがあるためです。
人に出るサイン:窓口の変化は記録に残す
経理の担当者や幹部が急に辞める、支払いの窓口が何度も替わる、というのは、社内で支払いの調整が限界に来ているときに起きやすいことです。替わったときは、支払いを決めているのが誰かを確かめ直し、新しい窓口にも支払いの予定を確認します。
社長に連絡がつかない、約束していた面談に来ない、というのは重いサインです。電話をかけた日時、訪問した日、相手の返事を記録に残しておきます。後で回収の手続きに進むとき、いつから連絡が取れなくなったかが大切になります。
なお、ここで挙げたのは取引先に出るサインです。自社が黒字のまま資金不足に陥らないかを確かめるサインは、見るところが違います。自社の前兆は黒字倒産とは(原因と自社の前兆)で説明しています。
支払いに出るサイン:遅れ・一部入金・延長の頼み方で読み分ける
入金が1回遅れただけでも、危ないと思ったほうがいい?
1回で決めつけず、理由と続き方を見ます。理由があいまい、2か月続く、一部だけ入る、という形なら要注意です。一部入金なら、残りの日付と額を書面でもらいましょう。
支払いの変化は、自社の帳簿に最初に表れます。入金の記録を見れば、だれでも確かめられます。ただし、遅れには担当者のうっかりもあります。次の5つの点で読み分けます。
| 見ること | 心配が小さい例 | 心配が大きい例 |
|---|---|---|
| 遅れの理由 | 担当者の休み、振込の手続きの誤りと、具体的 | 「入金が遅れていて」「来週には」と、あいまい |
| 遅れの続き方 | 1回だけで、翌月は期日どおり | 2か月続く、遅れる日数が延びていく |
| 入る額 | 遅れても全額が入る | 一部だけ入る、端数が入る |
| 頼むタイミング | 期日の前に、日付と額を示して頼む | 期日の当日や過ぎた後に、電話で頼む |
| 頼んでいる範囲 | 自社との取引だけの事情(検収の遅れなど) | ほかの仕入先にも、同じ頼みをしている |
右の列に当てはまるものが多いほど、相手の手元のお金が足りなくなっていると考えます。1回の遅れで決めつけず、2回目、3回目の動きを見ます。
一部入金は、2か月分が積み上がる入口
一部入金は、とくに注意します。払う気はあっても、全額を用意できなかったということだからです。残りをいつ払うかを、日付と額で書面にしてもらいます。メールでの返事でもかまいません。
口約束のまま次の締め日を迎えると、前の月の残りと今月の分が重なり、未回収が2か月分近くに積み上がります。7章の計算例で、6月30日の一部入金を見過ごした場合に、20日後の未回収が650万円まで増えたのはこのためです。
延長や分割の頼みに応じるとき
延長の頼みにすぐ応じるかは、取引の大きさで変えます。応じるときは、延ばした分の支払日と額を決めます。あわせて、その間の新しい出荷は量を減らすか前払いにする、という条件を付けます。延長には応じたのに出荷は今までどおり、という形がいちばん未回収を増やします。
分割を受け入れるときは、何回に分けるか、1回でも遅れたら残りを一度に払ってもらうか、を書面で決めます。書面があれば、払われなかったときに、催促や裁判所の手続きへ進みやすくなります。
手形や期日の長いでんさいに変えたいと言われたら
振込を手形に変えたい、期日の長いでんさいで払いたい、という頼みは、入金をさらに先に延ばしたいということです。2026年1月からの取適法(旧下請法)では、対象の取引で手形を使って払うことは禁止されました。期日までに満額の現金に換えにくい支払い方法も同じ扱いです。※1
対象の取引かは、取引の内容と両者の規模で決まります。判定のしかたは取適法とは(対象の判定と60日ルール)で説明しています。対象外の取引で手形を受け取る場合は、不渡りになったときの扱いを先に確かめます。手形が期日に払われないときの流れは手形の不渡りとはにあります。
振込の名義や口座が変わったとき
入金の名義が、取引先とは別の会社や社長個人に変わることがあります。グループ会社で支払いをまとめただけ、ということもあります。一方で、取引先の口座がほかの債権者に差し押さえられ、別の口座から払っている、ということもあります。
理由を聞き、請求書の宛先と、実際に払っている者が一致しているかを確かめます。名義が変わった月からほかのサインも出ていないか、2章の一覧で見直します。
この章の根拠(1件)
- 取適法5条1項2号
登記と官報に出るサイン:だれでも確かめられる公的な記録
相手に聞かずに確かめる方法はある?
登記と官報です。本店の移転が続く、役員がまとめて辞める、減資、会社分割、不動産の差押えが載っていないかを見ます。減資の催告書が届いたら、期間内に異議を述べられます。
登記と官報は、相手に聞かなくても確かめられる記録です。支払いのサインが出たときの裏付けとして見ます。登記事項証明書の取り方と手数料は与信管理とはの信用調査の章にまとめているので、ここでは「何が載っていたら危ないか」に絞ります。
会社の登記(履歴事項全部証明書)で見るところ
- 本店の移転が短い間に続く:事業の拡大でも移転はありますが、相手の説明と合わないときは理由を聞きます。
- 役員の多くが同じ時期に辞める・代表者が替わる:経営の立て直しで代表者が替わることもあります。辞めた役員の顔ぶれと時期を、支払いのサインが出た時期と比べます。
- 資本金の額が減っている(減資):次の項で説明する官報の公告と合わせて見ます。
- 会社分割の登記がある:事業の一部を別の会社に移したことを示します。どの事業と財産が移ったかを確かめます。
減資の催告書が届いたら
株式会社が資本金を減らすときは、官報に公告し、知れている債権者には1社ずつ知らせなければなりません。異議を述べられる期間は、1か月以上と決まっています。※1取引先から「資本金の額の減少」についての催告書が届いたら、この手続きです。
期間内に異議を述べないと、減資を認めたものとみなされます。異議を述べれば、会社は支払うか、担保を出すなどの手当てをしなければなりません。※2売掛金が大きいなら、期間内に異議を述べて、支払いか担保を求めることを考えます。
減資は、赤字を帳簿の上で消すために行うこともあり、それだけで倒産が近いとはいえません。また、官報に加えて日刊新聞や電子公告でも公告した会社は、1社ずつの催告を省けます。※3催告書が届かなくても減資は起こりうるので、気になる取引先は官報も見ます。
会社分割で、借金だけが残されることがある
会社分割は、事業の再編のためによく使われる手続きです。ただ、もうかる事業と財産を新しい会社に移し、借金だけを元の会社に残す、という使われ方をされることがあります。
元の会社が、残された債権者を害すると知って分割したときは、債権者は移した先の会社にも、移った財産の額を限度に支払いを求められます。※4取引先の会社分割を知ったら、自社の売掛金がどちらの会社に残ったかを確かめます。
不動産の登記で見るところ
取引先が本社や工場の土地・建物を持っているなら、その不動産の登記事項証明書も見ます。所有権に関すること(甲区)と、それ以外の権利(乙区)に分かれています。
| 欄 | 載っていたら | 読み取れること |
|---|---|---|
| 甲区 | 「差押」で、差し押さえた者が税務署・都道府県・市町村など | 税金や社会保険料を滞納している |
| 甲区 | 「差押」で、差し押さえた者が会社や個人 | ほかの債権者が、裁判などを経て取り立てに入っている |
| 甲区 | 「仮差押」 | ほかの債権者が、裁判の前に財産を押さえている |
| 乙区 | 抵当権・根抵当権が、短い間に次々と付いている | 新しい借入のために担保を差し出している |
税金を滞納すると、税務署は不動産を差し押さえ、その登記を法務局に頼みます。※5厚生年金保険料なども、国税と同じやり方で取り立てられます。※6そのため、甲区に役所の名前で差押えが載っていれば、税金や保険料を払えていないことがわかります。
税金や社会保険料は、取引先への支払いより後回しにしにくいお金です。それが払えていないのは、資金繰りがかなり苦しい段階だと考えます。12のサインのうち、この差押えの登記は段階3として扱います。
官報で見るところ
官報には、破産や民事再生の手続きが始まったことが公告されます。※7インターネット版の官報は、直近90日分を無料で見られます。
ただし、ここに載るのは倒産の手続きが始まった後です。前兆ではなく結果なので、載っていたら、倒産した後の手順(債権の届出など)に移ります。官報で前兆として見るのは、減資・合併・会社分割の公告と、決算公告です。決算公告の貸借対照表で、純資産がマイナス(債務超過)になっていないかを見られます。
取引先が自分の売掛金をほかの会社に譲った登記(債権譲渡登記)も、資金を急いでいるサインのことがあります。事業のための資金調達として普通に使われるものなので、それだけで判断せず、ほかのサインと合わせて見ます。
この章の根拠(7件)
- 会社法449条2項
- 会社法449条4項・5項
- 会社法449条3項
- 会社法759条4項・764条4項
- 国税徴収法68条3項
- 厚生年金保険法89条
- 破産法10条1項・32条1項、民事再生法35条1項
気づいたときの判断のしかた:サインの数と重さで3段階に分ける
サインに気づいたら、まず何を決めればいい?
今がどの段階かです。1つだけなら段階1で理由を聞く。2つ以上か×が1つなら段階2で出荷の条件を変える。支払いを止める通知や差押えがあれば段階3です。迷ったら重い方で扱います。
サインに気づいたら、まず今がどの段階かを決めます。段階によって、打つ手と急ぐ度合いが変わります。迷ったときは、重い方の段階として扱います。
| 段階 | 目安 | やること |
|---|---|---|
| 段階1 注意 | 12のサインのうち1つだけ(×のサインではない) | 理由を聞く、入金の記録を見直す、登記を取る |
| 段階2 警戒 | サインが2つ以上重なる、または×のサインが1つ | 次の出荷から条件を変える、担保や保証を相談する、契約書を読み直す |
| 段階3 危険 | 支払いを止める通知、弁護士からの連絡、差押えの登記 | 新しい出荷を止める、相殺できる額を出す、弁護士に相談する |
- 「支払いを止める」「弁護士に任せた」という連絡や、差押えの登記があったか?はい → 段階3。新しい出荷を止め、相殺できる額を出し、専門家に相談するいいえ → Q2へ
- ×のサインが1つでもあるか、サインが2つ以上重なっているか?はい → 段階2。次の出荷から条件を変え、担保や保証を相談するいいえ → Q3へ
- サインが1つだけあるか?はい → 段階1。理由を聞き、入金の記録と登記で確かめるいいえ → 毎月の入金の確認と、年1回の見直しを続ける
段階3の「弁護士に任せた」という連絡は、相手が支払いを止めたことを意味することが多いものです。法律では、支払いを止めた会社は、払えない状態(支払不能)にあると推定されます。※1支払不能とは、払う力がなく、期日の来た借金などを広く続けて払えない状態のことです。※2
この段階に入ると、既にある売掛金を払ってもらったり、担保を付けてもらったりしても、後で取り消されることがあります(6章)。打てる手が多いのは段階2までです。相手との付き合いが長いほど判断が遅れがちなので、段階の目安は、取引を始めるときに社内で決めておきます。
相手に聞くときの聞き方
段階1と2では、相手に事情を聞くのが先です。決めつけた言い方をすると、相手は本当のことを話しにくくなります。「支払いの予定を、来月の分まで日付で教えてもらえますか」のように、確かめたいことを具体的に頼みます。
大きな取引先なら、直近の試算表(月ごとの決算の数字)や、先の数か月の資金繰り表を見せてもらえるか頼みます。断られること自体も、判断の材料になります。聞いた内容と日付は、社内の記録に残します。
この章の根拠(2件)
- 破産法15条2項
- 破産法2条11項
気づいたときに打つ手:取引条件の見直し・担保・回収の準備
売掛金を守るには、何から手を付ければいい?
先にやるのは、これからの未回収を増やさないことです。前払いや出荷の小分けに切り替えます。すでにある売掛金に担保を付けてもらう相談は、段階2のうちに始めるのが目安です。
打つ手は、「これからの取引」を守る手と、「すでにある売掛金」を守る手に分かれます。先にやるのは、これからの未回収を増やさないことです。すでにある売掛金を守る手は、時期を誤ると後で取り消されるので、段階を見て選びます。
1. これからの取引の条件を変える
- 前払い・代金引換にする:次の出荷から、代金を受け取ってから納めます。未回収をそれ以上増やさない、いちばん確かな方法です。
- 出荷を小分けにする:1回の出荷を小さくし、入金を確かめてから次を出します。相手が前払いに応じないときの代わりになります。
- 締め日と支払日を近づける:月末締め・翌月末払いを、15日締め・月末払いにするなど、相手の手元にある代金の期間を短くします。
- 取引の上限を下げる:売掛金の残高の上限を決め直し、超える分は前払いにします。上限の計算のしかたは与信管理の記事にあります。
これらは、これから始める取引の条件です。相手が後で破産しても、新しい取引の代金を引き換えに受け取ることは、取り消しの対象になりにくいとされます。破産法で取り消しの対象になるのは、既にある借金などについての担保の提供や支払いに限られるためです。※1
2. すでにある売掛金に、担保や保証を付けてもらう
代表者の連帯保証や、取引先が持つ不動産・売掛金を担保にもらう方法があります。保証の契約は、書面でしないと効力がありません。※2続いていく取引の代金を個人に保証してもらうときは、保証の上限額(極度額)を決めないと無効になります。※3
注意したいのは時期です。相手が支払不能になった後に、そのことを知りながら既にある売掛金に担保を付けてもらうと、後で破産したときに取り消されることがあります。※4支払不能になる前の30日以内に、相手に義務のない担保を出してもらった場合も同じです。※5担保の相談は、段階2のうちに始めるのが目安です。
3. 契約書を読み直す
取引の基本契約に、次の決めがあるかを確かめます。無ければ、次の更新のときに入れるよう相談します。
- 期限の利益を失う決め:期限の利益とは、支払期日まで払わなくてよいという相手の利益です。法律で期日前でも請求できるのは、相手が破産手続の開始決定を受けたときなどに限られます。※6支払いの遅れや差押えがあれば期日前でも全額を請求できる、と契約で決めておくと、早く動けます。
- 出荷を止められる・契約を解除できる決め:相手の信用が悪くなったときに、注文を受けなくてよい根拠になります。
- 所有権留保:代金を払い終えるまで、品物の所有権を売主に残す決めです。
- 相殺の決め:互いの代金を差し引く条件を、前もって決めておきます。
4. 回収の準備をする
段階3に近づいたら、回収の準備を進めます。相手から仕入れている分の買掛金があれば、売掛金と差し引ける場合があります。※7ただし、相手の売掛金がほかの債権者に差し押さえられた後に生まれた債権では、原則として差し引けません。※8相殺できる額を、早めに出しておきます。
契約書・注文書・納品書・受領書・請求書・メールの記録もそろえます。納めた品物を引き取るときは、相手と合意し、書面に残します。相手の倉庫から無断で持ち出すと、自社の品物でも罪に問われるおそれがあります。倒産しそうな相手からの回収の注意点と、仮差押えなどの裁判所の手続きは、売掛金の回収方法(催促・内容証明・裁判の手順)の「倒産しそうなとき」の章にまとめています。
この章の根拠(8件)
- 破産法162条1項
- 民法446条2項
- 民法465条の2第2項
- 破産法162条1項1号
- 破産法162条1項2号
- 民法137条
- 民法505条1項
- 民法511条1項
数字で確かめる:気づいた時期で、未回収が650万円から150万円まで変わる
早く動くと、そんなに違うものなの?
月300万円を納める取引先の計算例では、何もしないと未回収は650万円。1つ目のサインで前払いにすると150万円で、500万円少なくなりました。
サインに気づいてから動くまでの時間で、損がどれだけ変わるかを計算します。数字は説明のために置いたもので、図鑑の掲載データは使っていません。計算は編集部で検算しています。
前提:取引先Aに、毎月300万円(税込)の品を納めています。条件は月末締め・翌月末払いで、1か月を30日として、1日10万円ずつ納めるものとします。Aには、次のことが起きました。
| 日付 | 起きたこと | 何もしない場合の未回収 |
|---|---|---|
| 4月30日 | 3月分が期日どおり入る | 300万円(4月分) |
| 5月31日 | 4月分の入金が遅れ、6月5日に入る(1つ目のサイン) | 600万円 |
| 6月30日 | 5月分のうち150万円だけ入り、残りは「来月末に」と頼まれる(2つ目のサイン) | 450万円 |
| 7月20日 | Aの弁護士から、支払いを止めるという通知が届く | 650万円 |
何もしなかった場合の7月20日の未回収は、5月分の残り150万円、6月分300万円、7月1〜20日の納品分200万円の合計で650万円です。次に、動いた時期を変えて比べます。
| 動いた時期 | 打った手 | 7月20日の未回収 |
|---|---|---|
| A 動かない | いつもどおり納める | 650万円 |
| B 2つ目のサイン(6月30日) | 7月の納品から前払いにする | 450万円 |
| C 1つ目のサイン(6月5日) | 6月の納品から前払いにする | 150万円 |
いつもどおり納品6月30日から前払い6月5日から前払い
1つ目のサインで動いたCは、何もしないAより500万円(77%)少なくなりました。2つ目のサインで動いたBでも、200万円減っています。遅れが1回出た時点で、相手の手元には、すでに2か月分近い代金があります。その後に納める分を止められるかで、損が大きく変わります。
取引が止まる損と比べる
前払いを頼むと、相手が注文をやめるかもしれません。その損と比べてみます。6月から7月20日までの売上は500万円です。粗利率(売上から仕入れなどを引いた利益の割合)を25%とすると、失う粗利は125万円です。
一方、Cで守った未回収は500万円で、失う粗利の4倍です。代金が戻らなければ、品物の仕入れにかかったお金ごと失います。前払いを断られて取引が止まっても、多くの場合は止まった方が損は小さく済みます。
ただし、相手が持ち直す見込みがある、粗利率が高い、といったときは判断が変わります。段階2では、すぐに取引をやめるのではなく、小分けの出荷のように、相手が受け入れやすい条件から始める方法もあります。
自分の取引に当てはめる
月末締め・翌月末払いの取引では、支払日の直前に、月の納品額の約2か月分が未回収として残ります。月300万円なら600万円です。主な取引先ごとに「月の納品額×2」を出し、その額が自社の手元の預金と比べてどれくらいかを見ておくと、どの取引先のサインに敏感になるべきかがわかります。
倒産した後に、未回収のうちどれだけが戻るかは、倒産の種類で違います。法人の破産で配当まで進んだ割合などの統計は、取引先が倒産したらやることの数字の章にあります。
取引を続けるか迷うときの、ほかの備え
売上が大きい取引先だと、すぐにはやめられないよ……。
そのときは、売掛金の保証や取引信用保険、経営セーフティ共済を組み合わせます。ただ、保証は前兆がはっきり出た後だと引き受けてもらいにくく、共済も加入してすぐには使えません。
前兆が出ていても、すぐに取引をやめられないことがあります。売上に占める割合が大きい、代わりの取引先がすぐに見つからない、といった場合です。そのときは、未回収が残ったときの備えを組み合わせます。
- 売掛金の保証・取引信用保険:取引先が払えなくなったときに、保証会社などが代金の全部か一部を払う契約です。保証料がかかり、取引先ごとに審査があります。前兆がはっきり出た後では、引き受けてもらいにくくなります。仕組みと保証料の目安は売掛金保証とはで説明しています。
- 経営セーフティ共済(倒産防止共済):掛金を積み立てておくと、取引先が倒産して代金を受け取れなくなったときに借りられる制度です。加入してすぐには使えないので、平時に入っておく備えです。条件と借りられる額は経営セーフティ共済とはにあります。
- 自社の資金繰りの確認:主な取引先の代金が2か月分入らなかったら、自社の支払いがいつ止まるかを、資金繰り表で一度出しておきます。
ファクタリングを使わない方がよい場合
前兆の出ている取引先の売掛金を、ファクタリングで売って早く現金にしよう、と考えることもあります。ファクタリングは、売掛金を期日前に売って、手数料を引いた額を受け取る取引です。次の場合は、使わない方がよいか、使う前によく確かめます。
- 償還請求権(売掛先が払わなかったときに、利用者が買い戻す義務)のある契約:相手が倒産すれば、結局は自社が代金を返すことになり、損を避ける手になりません。
- 支払いがすでに遅れている売掛金:買い取る側は売掛先の払う力を見るため、断られるか、手数料が高くなりがちです。
- 手数料が高く、期間が長いとき:たとえば手数料10%で30日早めると、実質年率は約135%です。損を避けるための費用として見合うかを、先に計算します。
手取りと実質年率は、ファクタリングの手取り・実質年率の計算で確かめられます。前兆の出ている取引先の分を売るより、まず6章の手で未回収を増やさないことが先です。
取引先の倒産の前兆でよくある失敗と注意点
やってしまいがちな失敗って何?
延長に応じたのに出荷は今までどおり、が未回収をいちばん増やします。うわさだけで取引を止める、無断で品物を引き揚げる、口約束のままにする、にも気をつけましょう。
- うわさだけで取引を止める:確かめないまま取引を止めると、相手が持ち直したときに関係が戻りません。うわさをほかの会社に広めると、相手との争いの種にもなります。入金の記録と登記で確かめてから動きます。
- 付き合いの長さで、延長に応じ続ける:長い付き合いの取引先ほど、頼みを断りにくくなります。延長に応じるたびに、5章の段階を見直します。
- 延長に応じたのに、出荷は今までどおり:未回収がいちばん増える形です。延長と出荷の条件は、同時に決めます。
- 既にある売掛金を、駆け込みで全額取り立てる:相手が支払不能だと知って自社だけ先に払ってもらうと、後で破産管財人から返すよう求められることがあります。
- 無断で品物を引き揚げる:自社が納めた品物でも、相手の合意なく持ち出すと罪に問われるおそれがあります。
- 口約束のままにする:延長・分割・支払いの予定は、日付と額をメールや書面に残します。後の催促や手続きの証拠になります。
- 減資の催告書を読まずに放っておく:期間内に異議を述べないと、減資を認めたものとみなされます。届いたら、期間と自社の売掛金の額を確かめます。
- 自社の資金繰りの手当てを後回しにする:取引先の回収に気を取られ、自社の支払いが止まることがあります。回収の手と並べて、自社の資金の手当ても始めます。
前兆は、早く気づくほど打てる手が多くなります。毎月の入金の確認で支払いのサインを拾い、大きな取引先は年に1回、登記を取り直します。それが、倒産したときの損を小さくするいちばん確かな方法です。
出典(8件)公的機関の資料・法令。2026.10.30に確認
- 破産法(e-Gov法令検索)第2条・第10条・第15条・第32条・第162条laws.e-gov.go.jp
- 民事再生法(e-Gov法令検索)第35条laws.e-gov.go.jp
- 民法(e-Gov法令検索)第137条・第446条・第465条の2・第505条・第511条laws.e-gov.go.jp
- 会社法(e-Gov法令検索)第449条・第759条・第764条laws.e-gov.go.jp
- 国税徴収法(e-Gov法令検索)第68条laws.e-gov.go.jp
- 厚生年金保険法(e-Gov法令検索)第89条laws.e-gov.go.jp
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法、e-Gov法令検索)第5条laws.e-gov.go.jp
- 官報(国立印刷局 官報発行サイト)www.kanpo.go.jp
FAQ
よくある質問
取引先の倒産の前兆にはどんなものがありますか?
いちばん早く出るのは、支払いの遅れ・一部だけの入金・延長や手形への変更の頼みです。次に、急な大口注文や注文の急減、経理担当の退職や社長に連絡がつかないといった変化が出ます。最後に、不動産の差押えの登記や減資の公告のように、登記や官報に記録が残ります。
支払いが1回遅れただけで、取引を止めるべきですか?
1回の遅れだけで止める必要はありません。理由が具体的か、全額が入ったか、翌月は期日どおりかを確かめます。一部だけの入金や、遅れが続く、ほかのサインと重なるといった場合は、次の出荷から前払いや小分けに切り替えて、未回収を増やさないようにします。
取引先が危ないと感じたら、まず何をすればよいですか?
まず相手に支払いの予定を日付で聞き、入金の記録と登記を確かめます。サインが2つ以上重なるか、一部入金のような重いサインがあれば、次の出荷を前払いにする、量を減らす、担保や保証を相談するなどの手を打ちます。支払いを止める通知が来たら、出荷を止めて専門家に相談します。
倒産しそうな取引先から、売掛金を先に回収してもよいですか?
回収すること自体はできますが、時期に注意が要ります。相手が支払不能だと知りながら既にある売掛金を払ってもらったり担保を付けてもらったりすると、後で破産したときに取り消されることがあります。新しい取引を前払いにするなど、これからの未回収を増やさない手を先に打ちます。
取引先の登記を見れば、倒産の前兆はわかりますか?
一部はわかります。会社の登記では本店の移転・役員の入れ替え・減資・会社分割を、不動産の登記では差押え・仮差押え・担保の追加を見ます。役所の名前で差押えが載っていれば、税金や社会保険料を滞納しています。ただし登記に出るのは悪化が進んだ後なので、支払いの変化と合わせて見ます。
取引先から減資の催告書が届きました。危ないのでしょうか?
減資は赤字を帳簿の上で消すために行うこともあり、それだけで倒産が近いとはいえません。ただ、異議を述べられる期間は1か月以上あり、期間内に異議を述べないと減資を認めたものとみなされます。売掛金が大きいなら、期間内に異議を述べて支払いか担保を求めることを考えます。
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