会計更新 2026.10.18
役員借入金とは?社長が会社に貸すときの契約書・利息・返し方と相続の注意
役員借入金は、社長などの役員が個人のお金を会社に貸したときの会社側の借入金です。無利息でもよく、元本の返済に税金はかかりませんが、相続では額面で社長の財産になります。契約書・印紙・利息・返し方・融資審査での見え方を説明します。
初めての方へファクタリングを使う前に知る5つのこと・申込みから入金まで →
フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

入金より先に給与や仕入の支払いが来て、社長が自分の口座から会社にお金を入れる。小さな会社では、よくあることです。このとき会社の帳簿に残るのが「役員借入金」です。
この記事は、会社にお金を貸している、またはこれから貸そうとしている中小企業の社長に向けて書いています。貸すときの契約書と利息、返し方、決算書と融資の審査での見え方、相続のときの注意を、法律・国税庁の資料と計算例で説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:役員借入金は「書面で残し、返し方を決め、ため込まない」
会社のお金が足りなくて、自分のお金を入れたんだけど……。
それが役員借入金です。会社から見れば借金で、社長から見れば返してもらう権利です。書面で残し、返し方を決め、ため込まないこと。相続では社長の財産になる点にも注意します。
役員借入金とは、社長などの役員が個人のお金を会社に貸したときに、会社の側で記録する借入金です。会社から見れば借金で、社長から見れば会社に対する貸付金(返してもらう権利)です。扱いの要点は次の4つです。
- 契約書を作る:口約束でも貸し借りは成り立ちますが、金額・返す時期・利息を書面に残すと、税務調査や相続のときに説明できます。契約書には印紙税がかかり、1,000万円の契約書なら1万円です。
- 利息は付けなくてもよい:民法では、利息は特約がなければ請求できません。無利息でも、ふつうの規模の貸付けで社長に所得税がかかることは基本的にありません。利息を付けると、会社は経費にでき、社長は雑所得として受け取ります。
- 返すのは会社のお金に余裕があるとき:元本が戻るだけなので、返してもらっても社長に税金はかかりません。ただし、銀行から借りたお金で返すと、融資の使いみちの説明と食い違うことがあります。
- 相続では社長の財産になる:社長が亡くなると、会社への貸付金は相続財産です。会社が返せなくても、原則として額面で評価されます。残高が大きい会社ほど、生前に整理する計画が必要です。
融資の審査では、役員借入金は「返済を急がない借入」として、自己資本に近いものとみなされることがあります。ただしそれは、社長が返済を求めないことがはっきりしている場合の話です。この記事は次の順で説明します。
- 役員借入金とは:出資や役員報酬との違い
- 貸すときの手続き:契約書・印紙・取締役会の承認
- 利息は付けるべきか:無利息の場合と、付けた場合の税金
- 返し方:返す順番と、返すときに注意すること
- 決算書と融資の審査での見え方
- 数字で確かめる:決算書・利息・相続税の計算例
- 相続・事業承継の注意と、残高の整理のしかた
- 社長が貸さない方がよい場合と、ほかの方法
- よくある失敗と注意点
役員借入金とは:出資や役員報酬との違い
貸すのと、出資するのと、何が違うの?
貸せば後で返してもらえ、元本の返済に税金はかかりません。その代わり決算書では負債が増えます。出資は原則として戻らず、増資の登記が要ります。手軽さでは貸す方法がいちばんです。
役員借入金は、会計の上では会社の負債です。貸借対照表(決算書のうち、資産と負債を並べた表)の負債の部に載り、いずれ会社が社長に返すお金として扱われます。勘定科目の名前は会社によって「役員借入金」「代表者借入金」「短期借入金」などで、決まった名前はありません。
役員借入金ができるきっかけは、大きく3つあります。
- 資金が足りない月に、社長が個人の預金から会社の口座へ入金した
- 会社の経費を、社長が個人のカードや現金で立て替え、まだ精算していない
- 創業のときに、資本金とは別に、社長が運転資金を会社に貸した
2つ目の立て替えは、金額が小さくても積み重なります。精算しないまま決算を迎えると、その残高が役員借入金として決算書に残ります。
会社にお金を入れる3つの方法の違い
社長が会社にお金を入れる方法は、貸すことだけではありません。出資(増資)と、役員報酬を減らすことも、会社の手元のお金を増やします。違いを表にします。
| 方法 | 会社の決算書 | あとで社長に戻るか | 手間と費用 |
|---|---|---|---|
| 会社に貸す(役員借入金) | 負債が増える | 返してもらえる。元本の返済に税金はかからない | 契約書と印紙税。登記は不要 |
| 出資する(増資) | 資本金などの純資産が増える | 原則として戻らない(配当や株式の価値で返ってくる) | 増資の登記。登録免許税は増えた資本金の1,000分の7(最低3万円) |
| 役員報酬を減らす | 費用が減り、利益が増える | 戻らない(受け取らなかったことになる) | 減らせる時期に決まりがある(下で説明) |
表からわかるのは、貸す方法がいちばん手軽で、あとで取り戻せるということです。その代わり、決算書では負債が増えて見えます。資本の厚さを見せたいなら出資、毎月の資金不足が続くなら役員報酬の見直し、と使い分けます。
役員報酬は、法人税で経費(損金)にするためには、原則として事業年度の中で毎月同じ額にする決まりがあります(定期同額給与)。変えられるのは、原則として事業年度が始まってから3か月以内などに限られます。業績が大きく悪くなったときは途中で減らせますが、国税庁は、一時的な資金繰りの都合はこれに含まれないとしています。※1月の途中で足りなくなったお金は、報酬で調整するのではなく、貸付けで入れることになるのはこのためです。
「役員貸付金」とは向きが逆
名前が似ている「役員貸付金」は、会社が社長に貸したお金です。会社から社長への貸付けは、利息を取らないと税務上の問題が出やすく、融資の審査でも厳しく見られます。この記事が扱う役員借入金は逆向きで、社長から会社へのお金です。
この章の根拠(1件)
- 法人税法34条1項1号
社長が会社に貸すときの手続き:契約書・印紙・取締役会の承認
社長と会社の間でも、契約書は要るの?
口約束でも成り立ちますが、貸付けか出資か贈与かを後で説明できるよう書面にします。印紙税は300万円なら2,000円、1,000万円なら1万円です。振込で入金すると記録が残ります。
お金の貸し借りは、法律では「金銭消費貸借」といいます。返す約束をしてお金を受け取れば、口約束でも成り立ちます。※1書面で契約すれば、お金を渡す前の約束の段階から効力が生じます。※2
社長と会社のあいだでは、口約束のまま入金だけをすることが多いです。それでも、次の3つの理由から書面を作ります。
- 入金が「貸付け」なのか「出資」や「贈与」なのかを、あとで説明できる
- 返す時期と利息を決めておくと、返済したときに理由を示せる
- 社長が亡くなったとき、相続人が会社への貸付金の額と条件を確かめられる
手順:貸すときにやること
- 貸す額を決める:資金繰り表で足りない額と月を出し、その額だけを貸します。生活費に使う予定のお金は入れません。
- 条件を決める:返す時期(一括か分割か)、利息の有無と利率、遅れたときの扱いを決めます。
- 会社の承認を取る:利息を付ける場合は、取締役会(取締役会のない会社は株主総会)の承認が必要になることがあります。下で説明します。
- 契約書を2通作る:会社と社長が1通ずつ持ちます。会社の側は代表取締役が署名するので、社長が両方の立場で署名することになります。
- 印紙を貼る:金銭消費貸借契約書は印紙税の第1号文書です。
- 振込で入金する:現金で渡すより、社長の個人口座から会社の口座へ振り込む方が、記録が残ります。
印紙税はいくらか
金銭消費貸借契約書の印紙税は、契約書に書いた金額で決まります。国税庁の一覧表から、よく使う金額の区分を抜き出すと次のとおりです。
| 契約書に書いた金額 | 印紙税 |
|---|---|
| 10万円を超え50万円以下 | 400円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 1,000円 |
| 100万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
| 金額の記載がないもの | 200円 |
300万円を貸す契約書なら2,000円、1,000万円なら1万円です。何度も貸すことが見込まれるなら、上限の額と、借りるたびの記録の方法を決めた契約にする方法もあります。この場合の印紙の扱いは、税務署か税理士に確かめます。
利息を付けるなら取締役会の承認
取締役が会社と取引をするときは、会社の利益を守るため、取締役会(取締役会のない会社は株主総会)の承認を受ける決まりがあります。※3ただし最高裁は、取締役が会社に無利息・無担保でお金を貸す行為は、この承認が必要な取引に当たらないとしています。※4会社にとって不利益にならないからです。
反対に、利息を付けたり、会社の財産を担保に取ったりする場合は、会社に負担が生じるので、承認を受けておきます。社長が1人で株主も1人の会社でも、議事録を残しておくと後で説明しやすくなります。
- 貸す人と借りる会社社長個人の氏名と、会社の名前・代表者
- 金額と貸した日振り込んだ日と額。振込の記録と一致させる
- 返す時期と方法一括か分割か。毎月の額と最終の返済日
- 利息の有無と利率無利息なら「利息は付さない」と書く
- 早く返せること会社に余裕があるときは期日前に返せる
- 承認の記録利息を付けるなら取締役会などの議事録
- 入金だけで書面がない出資や贈与と区別できなくなる
- 立て替えを精算しない残高の内訳がわからなくなる
この章の根拠(4件)
- 民法587条
- 民法587条の2第1項
- 会社法356条1項2号・365条1項
- 最高裁昭和38年12月6日判決
利息は付けるべきか:無利息でもよい場合と、付けたときの税金
利息って、付けなきゃいけないの?
特約がなければ利息は生じないので、無利息でもかまいません。付けると会社は経費、社長は雑所得になります。1,000万円を年1%で貸すと、利息は年10万円です。
民法では、貸した人は、特約がなければ利息を請求できません。※1社長が会社に貸すときも、利息を付けるかどうかは当事者が決めます。
無利息の場合
会社にとっては、利息の負担がなく、資金繰りがいちばん楽です。社長にとっても、利息を受け取らないので、その分の所得税はかかりません。会社の側は、受け取った額を役員借入金として記録するだけです。
注意したいのは、金額が極端に大きく、無利息にする理由が説明できない場合です。同族会社(少数の株主が支配する会社)の社長が、会社に3,455億円を超える額を無利息・無期限・無担保で貸した事件では、税務署が利息相当額を社長の所得として所得税を増額しました。最高裁は、この貸付けは経済的に不合理・不自然だとして、過少申告加算税を免れる正当な理由はないと判断しています。※2ふつうの中小企業の運転資金の貸付けとは規模が違う例ですが、「会社のため」という理由が説明できる貸し方にしておくことが大事です。
利息を付ける場合
利息を付けると、会社が払う利息は経費(損金)になり、社長が受け取る利息は雑所得になります。国税庁は、雑所得の例として「非営業用貸金の利子」を挙げています。利率は、会社が銀行から借りている利率を目安にすると、説明しやすくなります。
会社員と同じように給与(役員報酬)を1か所から受け取っている社長は、給与以外の所得の合計が20万円以下なら、所得税の確定申告をしなくてよいとされています。1,000万円を年1%で貸すと利息は年10万円、年2%なら年20万円です。ほかの所得と合わせて20万円を超えるなら、確定申告が必要です。
| 無利息 | 利息を付ける | |
|---|---|---|
| 会社の負担 | なし | 利息を払う(経費になる) |
| 社長の税金 | 基本的にかからない | 利息が雑所得になる |
| 取締役会などの承認 | 不要(無担保なら) | 受けておく |
| 向いている場面 | 一時的な不足を埋める、会社の資金繰りを優先したい | 長い期間・大きな額を貸す、ほかの株主がいる |
ほかに株主がいる会社では、社長だけが高い利息を受け取ると、ほかの株主の利益を損ないます。利率は、会社が外から借りるより高くならない水準にします。
この章の根拠(2件)
- 民法589条1項
- 所得税法157条、最高裁平成16年7月20日判決
役員借入金の返し方:返す順番と、返すときに注意すること
貸したお金は、いつ返してもらえばいい?
銀行・税金・取引先への支払いを済ませ、資金繰り表で余裕が見えてからです。元本の返済は社長の所得になりません。融資で借りたお金で社長に返すのは避けましょう。
返す時期を決めていなかった場合、貸した社長は、相当の期間を決めて返すよう求めることができます。借りた会社の側は、返す時期の決まりがあってもなくても、いつでも返せます。※1返す時期は、会社の資金繰りに合わせて決められるということです。
返してもらうお金は、貸した元本が戻るだけなので、社長の所得にはなりません。この点が、役員報酬を増やしてお金を受け取る方法との大きな違いです。報酬なら所得税と社会保険料がかかりますが、元本の返済にはかかりません。
返す順番の考え方
- 資金繰り表で余裕を確かめる:3か月先まで、支払いを全部済ませても手元に残る額を出します。残る額の中から返します。
- 外の借入の返済を先にする:銀行・公庫の返済、税金、社会保険料、取引先への支払いを優先します。社長への返済は後回しにできる支払いです。
- 少しずつ返す:大きな額を一度に返すと、急な支払いに対応できなくなります。毎月の額を決めて返す方が、決算書の動きも説明しやすくなります。
- 記録を残す:返すたびに会社の口座から社長の口座へ振り込み、帳簿の残高と一致させます。
資金繰り表の作り方と、銀行に見せられる書き方は、資金繰り表の作り方と無料テンプレートの使い方で説明しています。
融資を受けたお金で社長に返さない
銀行・信用保証協会・日本政策金融公庫の融資は、申込みのときに伝えた使いみち(運転資金・設備資金など)に使うのが前提です。運転資金として借りたお金で社長への返済をすると、使いみちの説明と食い違います。返済に充てたいなら、申込みの段階で金融機関に伝えて相談します。保証付き融資の仕組みは信用保証協会の保証付き融資の仕組みと保証料、公庫の融資の申込みは日本政策金融公庫の融資の申込み手順と必要書類にまとめています。
会社が苦しいときに、社長だけ先に返してもらわない
支払いが滞っている会社が、取引先や金融機関より先に社長への返済をすると、ほかの債権者から見て不公平です。会社の倒産手続きに入ったときに、その返済が問題にされることもあります。苦しい時期の役員借入金は、返さずに据え置くのが基本です。
この章の根拠(1件)
- 民法591条1項・2項
決算書と融資の審査での見え方
役員借入金が多いと、銀行の審査で不利になる?
社長が返済を求めないことがはっきりしていれば、自己資本に近いものと見られることがあります。勘定科目内訳明細書には貸した人の名前が載るので、自分から説明しましょう。
役員借入金は、決算書の上では銀行の借入と同じ負債です。ただし、中小企業の融資の審査では、別の見方をされることがあります。
勘定科目内訳明細書に、貸した人の名前が載る
法人税の申告書には、勘定科目内訳明細書(決算書の科目ごとの中身を書く書類)を付けます。その中の「借入金及び支払利子の内訳書」には、借入先、法人・代表者との関係、期末の残高、期中に払った利子、利率を書きます。国税庁のe-Taxの資料では、借入先が役員・株主・関係会社のものは、期末の残高が50万円未満でも、すべて分けて書くこととされています。
つまり、決算書を受け取った金融機関は、借入金のうちいくらが社長からのものかを見分けられます。役員借入金の額が隠れることはありません。
金融機関は「自己資本に近いもの」とみなすことがある
金融庁が以前に使っていた金融検査マニュアルの別冊(中小企業融資編)には、中小企業の融資先を見るときの考え方が書かれていました。2014年の改定後の文書には、次の趣旨の記述があります。
- 中小・零細企業は、会社と代表者の業務・経理・資産が実質的に一体になっていることが多い
- 代表者などからの借入金は、原則として、会社の自己資本に相当する額に加えることができる
- ただし、代表者が返済を求めることが明らかな場合は、この限りでない
- 会社に代表者への貸付金などがあれば、回収できない額は自己資本に相当する額から差し引く
金融検査マニュアルは2019年12月に廃止されました。廃止にあたって金融庁が示した文書でも、中小・零細企業の債務者区分は、会社の財務だけでなく、代表者などの収入の状況や資産の内容も総合的に見て判断するとされています。今は金融機関ごとに審査の方針を決めていますが、役員借入金を「会社の外の借金」とだけは見ない考え方は、広く残っていると考えられます。
決算書どおり役員借入金を負債に数える
- 負債の合計
- 3,500万円
- 純資産
- マイナス500万円(債務超過)
- 自己資本比率
- マイナス16.7%
自己資本とみなす社長が返済を求めない場合
- 負債の合計
- 2,500万円
- 純資産
- プラス500万円
- 自己資本比率
- 16.7%
金融機関に見せるときに用意するもの
役員借入金を自己資本に近いものとして見てもらうには、社長が当面は返済を求めないことを示せるかが要になります。金融機関から求められたら、返済を求めない旨の確認書を出せるようにしておきます。社長個人の収入と預金の状況を聞かれることもあります。
一方で、役員借入金が毎年増え続けている会社は、「社長のお金で赤字を埋めている」と見られます。マニュアルの別冊にも、代表者への報酬や家賃の支払いで赤字になり、金融機関への返済のお金を代表者から入れている場合がある、として、赤字の原因と返済の原資を確かめるよう書かれていました。増え続けているなら、借入の前に、事業の収支そのものを見直す時期です。
経営者保証に関するガイドラインは、社長個人の保証を外す条件の一つに、会社と経営者の資金のやりとりを社会通念上適切な範囲にとどめることを挙げています。ガイドラインがやりとりの例として挙げているのは、役員報酬・配当・オーナーへの貸付けなどです。会社と社長のお金の出入りを、記録で説明できる状態にしておくことが、どちらの向きでも大事です。
社長の資金ではなく、金融機関から自己資本とみなせるお金を借りる方法としては、資本性劣後ローンがあります。
数字で確かめる:決算書・利息・相続税の計算例
相続のとき、どれくらい影響があるの?
ほかの財産1億円・子1人の例では、会社への貸付金3,000万円があるだけで、相続税が900万円増えます。しかも子が受け取るのは現金ではなく、会社に返してもらう権利です。
ここまでの話を、数字の例で確かめます。計算はすべて単純化した例で、実際の税額は会社と家族の状況で変わります。
例1:決算書の見え方
資産が3,000万円、負債が銀行借入2,200万円・買掛金など300万円・役員借入金1,000万円の会社を考えます。負債の合計は3,500万円で、純資産はマイナス500万円の債務超過です。
役員借入金1,000万円を自己資本とみなすと、純資産はプラス500万円になり、自己資本比率(資産のうち返さなくてよいお金の割合)はマイナス16.7%からプラス16.7%に変わります。決算書の数字は同じでも、金融機関の見方しだいで、債務超過の会社かどうかが分かれます。
例2:利息を付けたとき
1,000万円を年1%で1年貸すと、利息は10万円です。会社はこの10万円を経費にでき、社長は10万円の雑所得を受け取ります。年2%なら利息は20万円で、給与以外の所得がほかになくても、給与を1か所から受け取る人が確定申告をしなくてよい目安(20万円以下)の上限に届きます。
例3:相続税がいくら増えるか
相続人が子1人で、社長のほかの財産が1億円、会社への貸付金が3,000万円ある場合を考えます。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」なので、この例では3,600万円です。
| ほかの財産だけ | 貸付金3,000万円を足す | |
|---|---|---|
| 財産の合計 | 1億円 | 1億3,000万円 |
| 基礎控除 | 3,600万円 | 3,600万円 |
| 課税遺産総額 | 6,400万円 | 9,400万円 |
| 相続税(速算表:30%・控除700万円) | 1,220万円 | 2,120万円 |
会社への貸付金があるだけで、相続税は900万円増えます。しかも子が受け取るのは現金ではなく、会社に返してもらう権利です。会社に返す余力がなければ、相続税の納税資金を別に用意しなければなりません。
例4:3,000万円の残高を整理する方法の比べ方
| 方法 | 計算の例 | 注意 |
|---|---|---|
| 毎月返してもらう | 月25万円で120回(10年) | 会社の資金繰りに余裕が必要 |
| 債務を免除する | 免除益3,000万円−繰越欠損金2,000万円=所得1,000万円 | 会社に法人税がかかることがある |
| 資本に振り替える(DES) | 増える資本金3,000万円×1,000分の7=登録免許税21万円 | 税務の扱いが複雑。専門家と相談する |
| 後継者に少しずつ贈与する | 年110万円なら28年かかる | 相続前の贈与は相続財産に加算されることがある |
表を見ると、どの方法にも時間か税金がかかります。早く始めるほど選べる方法が増える、というのが計算からわかることです。
相続・事業承継の注意:役員借入金は社長の財産になる
会社が赤字なら、貸付金の評価は下がるよね?
いいえ、原則は額面のままです。外せるのは破産などで回収できないことがはっきりしている場合です。債務を免除すると、会社に債務免除益が出て法人税がかかることもあります。
相続税の財産の評価では、貸付金は「返済されるべき金額」と、亡くなった日までの利息の合計で評価します。※1会社の業績が悪くても、評価は原則として額面のままです。
額面から外せるのは、会社が破産・民事再生・会社更生などの手続きに入ったとき、手形の取引停止処分を受けたとき、業況不振で事業をやめたり6か月以上休業したりしているときなど、回収できないことがはっきりしている場合です。※2「赤字だから返ってこないだろう」というだけでは、外せません。
債務免除で整理するときの2つの税金
社長が生前に「返さなくてよい」と会社の債務を免除すると、相続財産から貸付金はなくなります。その代わり、会社の側では免除された額が利益(債務免除益)になります。※3過去の赤字(繰越欠損金)が残っていれば、その範囲で相殺できます。国税庁によると、繰越欠損金は10年間繰り越せ、中小法人等はその年の所得の範囲まで差し引けます。
もう1つは、ほかの株主への贈与税です。同族会社で債務が免除されて株式の価値が上がると、ほかの株主は、上がった分を免除した社長から贈与されたものとして扱われます。※4ただし、会社が資力を失って法的な整理などに入っている場合、債務超過の部分はこの扱いから除かれます。※5後継者や家族が株主になっている会社では、免除の前に株式の評価を確かめます。
贈与で移すときの加算期間
会社への貸付金を後継者に贈与する方法もあります。暦年の贈与は1年110万円までなら贈与税がかかりませんが、亡くなる前の一定の期間の贈与は相続財産に足し戻されます。国税庁によると、足し戻す期間は、2027年1月1日以後の相続から段階的に延び、2031年1月1日以後の相続では亡くなる前7年以内です。
事業承継の前にやること
- 役員借入金の残高と、貸した時期・契約書を一覧にする
- 会社が返せる額と期間を、資金繰り表で出す
- 返す・免除する・資本に振り替える・贈与するのどれを組み合わせるかを、税理士と決める
- 決めた内容を、取締役会などの議事録と契約書に残す
どの方法が合うかは、繰越欠損金の額、株主の構成、ほかの財産で大きく変わります。数字で比べたうえで決めることが大事で、計算は顧問の税理士に頼みます。
この章の根拠(5件)
- 財産評価基本通達204
- 財産評価基本通達205
- 法人税法22条2項
- 相続税法9条、相続税法基本通達9-2
- 相続税法基本通達9-3
社長が貸さない方がよい場合と、ほかの方法
社長が貸すのを、やめたほうがいいときは?
生活費まで入れることになる、毎月の赤字を埋めるために毎月入れている、といった場合です。1か月以上先の不足なら、公庫や保証付き融資を先に考えます。
社長が貸す方法は、審査も手数料もなく、その日のうちに使えます。それでも、次の場合は貸す前に立ち止まります。
- 生活費まで入れることになる:会社が行き詰まると、貸したお金は戻らず、家計も同時に苦しくなります。
- 毎月の赤字を埋めるために、毎月入れている
- 銀行や公庫の返済のために、社長が入れている
- 税金や社会保険料を滞納したまま、社長のお金で給与を払っている
- 足りないのは一時的(入金予定がある)?はい → 社長が貸すか、入金を早める方法を比べるいいえ → 毎月の赤字。貸す前に収支を見直す
- 貸すお金は生活費と分けてある?はい → 契約書を作って貸すいいえ → 融資や支払いの相談を先にする
- 1か月以上先の不足?はい → 公庫・保証付き融資を申し込むいいえ → 支払先・税務署への相談、売掛金の現金化も検討
- 役員借入金の残高が毎年増えている?はい → 返し方と整理の計画を税理士と立てるいいえ → 返済の予定を契約書に書いておく
社長が貸す以外の方法は、早さと費用で選びます。1か月以上先の不足なら、日本政策金融公庫や信用保証協会の保証付き融資が候補です。資金調達の方法を早さ・費用・返済の要否で並べた一覧は、資金調達の方法15選にあります。
支払日まで日がないときは、支払先への支払日の相談、税金や社会保険料の猶予の申請が先です。順番と手続きは資金繰りが苦しいときの対処の順番で説明しています。売掛金がある会社は、入金を早める方法もありますが、費用は年率に直すと融資より高くなります。費用の比べ方はファクタリングと融資の違いを見てください。どの方法が合うか迷うときは、資金調達診断で条件から絞り込めます。
よくある失敗と注意点
やりがちな失敗って何?
入金だけして何の記録もない、立て替えた経費を何年も精算しない、会社が苦しいときに社長への返済を先にする、などです。相続のことを考えずにため込むのも避けましょう。
失敗1:入金だけして、何の記録もない
社長の口座から会社の口座への振込だけが残り、契約書も議事録もない状態です。税務調査や相続のときに、それが貸付けなのか出資や贈与なのかを説明できません。今からでも、残高と条件を確かめた書面を作ります。
失敗2:立て替えた経費を何年も精算しない
社長のカードで払った経費をまとめて役員借入金にすると、内訳がわからなくなります。月ごとに精算するか、立て替えの一覧を残します。
失敗3:会社が苦しい時期に、社長への返済を先にする
取引先や金融機関への支払いより先に社長が返してもらうと、ほかの債権者との関係が悪くなります。返済は、外の支払いを済ませて余裕が出てからにします。
失敗4:役員報酬を受け取って、そのまま会社に貸し戻している
報酬には所得税と社会保険料がかかります。毎月その一部を会社に貸し戻しているなら、受け取りと貸付けの両方で手間と負担が生じています。翌期の役員報酬を決めるときに、報酬の額そのものを見直します。報酬を変えられる時期には決まりがあるので、期首から3か月以内などのタイミングを逃さないようにします。
失敗5:相続のことを考えずに残高をため込む
計算例のとおり、3,000万円の貸付金で相続税が900万円増えることがあります。会社から返ってこないお金に、相続人が税金を払うことになります。残高が大きくなったら、早めに整理の計画を立てます。
失敗6:金融機関に役員借入金の説明をしない
決算書では債務超過に見えても、役員借入金を自己資本とみなせば、見え方が変わることがあります。融資を申し込むときは、役員借入金の残高と、当面は返済を求めないことを、自分から説明します。
出典(21件)公的機関の資料・法令。2026.10.18に確認
- 民法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 会社法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 法人税法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 最高裁判所第二小法廷 昭和38年12月6日判決(昭和37(オ)437)www.courts.go.jp
- 最高裁判所第三小法廷 平成16年7月20日判決(平成11(行ヒ)169)www.courts.go.jp
- No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで(国税庁)www.nta.go.jp
- No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)www.nta.go.jp
- No.5211 役員に対する給与(国税庁)www.nta.go.jp
- No.1500 雑所得(国税庁)www.nta.go.jp
- No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人(国税庁)www.nta.go.jp
- No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(国税庁)www.nta.go.jp
- 財産評価基本通達 第8章第3節(貸付金債権の評価 204・205)(国税庁)www.nta.go.jp
- 相続税法基本通達 第9条関係(9-2・9-3)(国税庁)www.nta.go.jp
- No.4152 相続税の計算(国税庁)www.nta.go.jp
- No.4155 相続税の税率(国税庁)www.nta.go.jp
- No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)(国税庁)www.nta.go.jp
- No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)www.nta.go.jp
- 勘定科目内訳明細書(借入金及び支払利子の内訳書)レコードの内容及び留意事項(令和6年3月1日以後終了事業年度分)(国税庁 e-Tax)www.e-tax.nta.go.jp
- 金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕新旧対照表(金融庁、2014年)www.fsa.go.jp
- 検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方(金融庁、令和元年12月)www.fsa.go.jp
- 経営者保証に関するガイドライン(経営者保証に関するガイドライン研究会、全国銀行協会)www.zenginkyo.or.jp
FAQ
よくある質問
役員借入金とは何ですか?
社長などの役員が、個人のお金を会社に貸したときに、会社の側で記録する借入金です。決算書では負債の部に載り、いずれ会社が社長に返すお金として扱われます。資金が足りない月の入金のほか、社長が立て替えた経費を精算していない分も役員借入金として残ります。
役員借入金に契約書は必要ですか?
口約束でも貸し借りは成り立ちますが、金額・返す時期・利息を書いた金銭消費貸借契約書を作ると、税務調査や相続のときに貸付けだと説明できます。印紙税は契約金額で決まり、300万円なら2,000円、1,000万円なら1万円です。利息を付ける場合は取締役会などの承認も受けておきます。
役員借入金は無利息でも問題ありませんか?
民法では利息は特約がなければ生じないので、無利息でかまいません。最高裁は、取締役が会社に無利息・無担保で貸すことは取締役会の承認がいらない取引だとしています。ただし、極端に大きな額を理由なく無利息で貸した事件では、利息相当額に所得税が課されました。会社のためと説明できる貸し方にします。
役員借入金を返済してもらうと税金はかかりますか?
貸した元本が戻るだけなので、返済を受けても社長の所得にはならず、所得税はかかりません。利息を付けていた場合は、受け取った利息が社長の雑所得になります。給与を1か所から受け取る社長は、給与以外の所得の合計が20万円以下なら確定申告は不要です。
役員借入金は融資の審査でどう見られますか?
決算書では負債ですが、社長が返済を求めないことがはっきりしていれば、金融機関が自己資本に近いものとみなすことがあります。金融庁の旧金融検査マニュアルの別冊にも、その考え方が書かれていました。一方で、毎年増え続けていると、社長のお金で赤字を埋めていると見られます。
社長が亡くなると役員借入金はどうなりますか?
社長の会社への貸付金は相続財産になり、原則として返済されるべき金額(額面)で評価されます。会社の業績が悪いだけでは額面から外せません。相続人が子1人でほかの財産が1億円の例では、貸付金3,000万円があると相続税が900万円増えます。生前に返済・免除・資本への振替などで整理を計画します。
READ NEXT
あわせて読みたい
「会計」の記事から すべて見る →
NEXT
あなたの条件で、使える会社を探す
業種・状況・入金の期限・金額の9つの質問に答えると、使える方法と会社を理由つきで返します。会員登録はいりません。