会計更新 2026.10.18
売掛金が回収不能になったら?貸倒損失の3つの条件と、諦める前に取れる手段
売掛金が回収不能かどうかは、債権の切り捨て・全額回収不能の明確化・取引停止後1年のどれかが起きたかで決まり、その年に貸倒損失にできます。判断の基準、引当金、330万円の計算例、諦める前に取れる手段を示します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

取引先からの入金が止まり、催促しても払われない。この売掛金は、いつ「回収できない」と決めて帳簿から落としてよいのか、税金はどうなるのか。判断の基準と税務の条件、最後まで使える手段を、中小企業の経営者・個人事業主に向けて順にまとめました。
この記事を6枚で
1 / 6結論:回収不能は「自分で決める」のではなく、3つの事実のどれかで決まる
入金がずっと止まっている売掛金は、もう損にしていい?
回収不能は自分で決めるのではなく、切り捨て・全額回収不能・取引停止後1年のどれかの事実で決まります。それまでは、売掛金は「まだ取れる財産」として残ります。
売掛金が回収不能かどうかは、払ってもらえない期間の長さや、経営者の感覚では決まりません。税金の計算で貸倒損失(回収できない売掛金を費用にすること)になるのは、切り捨て・全額回収不能・取引停止後1年のどれかが起きたときです。※1
裏返すと、条件を満たすまでは売掛金は「まだ取れる財産」として残ります。その間にできることは2つです。
1つは相殺・保証人・時効の管理などで、取れる分を取り切ること。もう1つは、相手が破産を申し立てたなどの事情があれば、決算で貸倒引当金(将来の損失の見込み)を積むことです。
この先は、判断の基準(2章)、法人の3つの条件(3章)、個人事業主の場合(4章)、貸倒引当金(5章)の順に進みます。そのあと、330万円の計算例(6章)、諦める前の手段(7章)、穴埋めの資金繰り(8章)、よくある失敗(9章)です。
- 期日の翌日から取りに行く催促・内容証明・裁判所の手続き。時効も止めておく
- 回収の途中で減らす相殺・保証人・担保・商品の引き揚げで、残りを小さくする
- 決算日に見込む破産の申立てなどがあれば、貸倒引当金で損失を先に計上
- 事実が起きた年に落とす切り捨て・全額回収不能・取引停止1年のどれかで貸倒損失
- 同じ年の申告で税金を戻す含まれていた消費税を、売上の消費税から引く
この章の根拠(1件)
- 法人税基本通達9-6-1〜9-6-3、国税庁タックスアンサーNo.5320
売掛金が回収不能と判断する基準:まだ取れるか、もう取れないか
「もう取れない」って、どう判断すればいいの?
まず相手への買掛金があれば相殺し、残った額だけを考えます。担保や連帯保証人がいれば、処分や請求をしてから判断します。相手が営業を続けているなら、まだ回収の途中です。
「回収不能」には、2つの意味が混ざりがちです。「実際にもう取れない」という事実と、「税金の計算で損失にできる」という扱いです。前者だけで後者になるわけではなく、税務では取れないことを書類で示せるかが問われます。
相殺できる債務を先に差し引く
相手から仕入れていて買掛金がある、相手のお金を預かっている。こうした場合は、まず売掛金と差し引く相殺を考えます。どちらも支払期限が来ていれば、相手への意思表示だけでできます。※1
相殺した後に残った額が、本当に心配すべき金額です。相殺できる分を残したまま「回収不能」と考えると、損失を大きく見積もってしまいます。
担保と連帯保証人を当たる
担保がある売掛金は、担保を処分した後でなければ、全額が回収できないとは扱われません。連帯保証人がいる場合は、保証人の資産や支払能力も含めて、取れるかどうかを判断します。※2
代表者が連帯保証人になっているなら、会社が払えなくても代表者個人に請求できます。契約書や取引基本契約書の保証の欄を、もう一度確かめます。
「取れない」と言える材料
次のような事実がそろうほど、回収不能の判断に近づきます。逆に、相手が営業を続けている、代表者と連絡が取れるといった状態では、まだ回収の途中です。
- 裁判所の手続き:更生・再生・破産・特別清算の申立てや開始の通知が届いた。
- 相手の実態:事務所が閉鎖され、代表者も行方がわからない。差し押さえる財産も見つからない。
- 回収の記録:内容証明や裁判所の手続きを使っても払われなかった。
- 時間:取引を止めてから、1年以上入金がない。
- 相手に、払う予定の買掛金や預かっているお金がありますか?はい → まず相殺。残った額だけを考えるいいえ → 次へ
- 担保や連帯保証人がいますか?はい → 担保を処分し、保証人にも請求してから判断するいいえ → 次へ
- 更生・再生・特別清算などで、債権が切り捨てられましたか?はい → 切り捨てられた額は、その年に貸倒損失いいえ → 次へ
- 相手の財産や支払能力から、1円も取れないことがはっきりしましたか?はい → 全額をその年に貸倒損失(一部だけは不可)いいえ → 次へ
- 続けていた取引を止め、最後の入金から1年以上たちましたか?はい → 1円を残して貸倒損失にできるいいえ → まだ回収不能ではない。取りに行きながら、引当金を検討
図の最後で「いいえ」になった売掛金は、まだ税務上の回収不能ではありません。回収を続けながら、決算で引当金を積めるかを5章で確かめます。
相手の状態ごとの扱い
相手の状態がわかれば、税金の計算でどう扱うか、今なにをすべきかがおおよそ決まります。下の表は、よくある6つの状態を並べたものです。
| 相手の状態 | 税金の計算での扱い | 今できること |
|---|---|---|
| 支払いは遅れているが、営業を続けている | まだ回収不能ではない。一括評価の引当金の対象 | 催促・出荷の停止・時効の管理 |
| 取引を止め、その後の入金がない | 最後の入金などから1年以上で、1円を残して損失 | 保証人への請求、催促の記録を残す |
| 手形・でんさいで取引停止処分を受けた | 決算日に、売掛金の50%まで引当金 | 相殺・商品の引き揚げを急ぐ |
| 民事再生・会社更生を申し立てた | 申立ての年は50%まで引当金。計画の認可で切り捨て分を損失 | 債権を届け出て、計画案を確かめる |
| 破産を申し立てた・手続きが始まった | 申立ての年は50%まで引当金。回収不能が明らかな年に損失 | 債権を届け出て、配当を待つ |
| 債権者集会や金融機関のあっせんで整理 | 合理的な基準で切り捨てが決まった額を損失 | 協議に加わり、合意の書面を残す |
表を上から見ると、相手の状態が悪くなるほど、損失として扱える額が増えていきます。一方で「今できること」は、状態が悪くなるほど限られます。回収の手を打てるのは、表の上の段にいるうちです。
相手が手続きに入っていなくても、事業を止めたまま連絡がつかないことはよくあります。この場合は、2行目の「取引停止から1年」を待つか、財産が無いことを調べて「全額回収不能」の材料をそろえるかです。
この章の根拠(2件)
- 民法505条1項・506条1項
- 法人税基本通達9-6-2、国税庁タックスアンサーNo.5320 Q&A「連帯保証人がいる場合の貸倒れの判断」
貸倒損失にできる3つの条件:切り捨て・全額回収不能・取引停止後1年
貸倒損失にできるのは、どんなとき?
債権が切り捨てられた、全額が取れないと明らかになった、取引を止めて1年以上たった、の3つの型です。型によって落とせる額と年が違い、1年の型は1円などの備忘価額を残します。
法人が売掛金を貸倒損失にできる場面は、国税庁の通達で3つの型に分けられています。型によって、落とせる額と、いつ落とすかが違います。
| 型 | どんなとき | 落とせる額 | いつ |
|---|---|---|---|
| 1. 債権が切り捨てられた | 更生計画・再生計画の認可、特別清算の協定の認可、債権者集会の協議などで切り捨てが決まった。事情のある相手に書面で債務を免除した | 切り捨て・免除した額 | その事実が起きた年(経理しなくても損金) |
| 2. 全額が回収できないと明らか | 相手の資産・支払能力から、全額が取れないことがはっきりした。担保は処分した後 | 全額(一部だけは不可) | 明らかになった年に、損金経理する |
| 3. 取引停止後1年など | 続けていた取引を、相手の悪化で止めてから1年以上入金がない。または取立ての費用の方が多く、督促しても払わない | 売掛金から備忘価額(1円など)を引いた額 | 条件を満たした後に、損金経理する |
表の右の列が大事です。1の型は事実が起きた年に自動的に損失になり、翌年に回すことはできません。2と3の型は、会社が帳簿で損失として処理(損金経理)して初めて認められます。
1. 法的な手続きや協議で切り捨てられたとき
相手の会社更生や民事再生で計画が認可された、特別清算で協定が認可された、といったときに、切り捨てが決まった部分を損失にします。裁判所を通さない整理でも、債権者集会や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準で決めたものは同じ扱いです。※1
もう1つが、債務超過の状態が相当期間続き、払ってもらえない相手に、書面で債務を免除した場合です。この免除の額も損失にできます。※2
免除するときは、免除する日付と金額を書いた通知を、内容証明郵便と配達証明で送るのが確実です。相手の決算書や、ほかの債権者への支払いが止まっている事実など、「相当期間の債務超過」と「払えない状態」を示す資料も一緒に残します。
相手の一部の財産から少し払ってもらい、残りを免除する、という形もあります。その場合も、免除した残りの額について同じ条件で判断します。
注意したいのは、破産です。破産は上の切り捨ての一覧に入っていません。手続きが始まっただけでは損失にせず、配当が終わるなどで「全額が取れないと明らか」(2の型)になった時点で判断します。
2. 全額が回収できないことが明らかになったとき
相手の資産の状況や支払能力から見て、全額が取れないことがはっきりした年に、損失として処理できます。この型は「全額」が条件で、半分は取れそうだから半分だけ落とす、という使い方はできません。※3
また、明らかになった年に処理するのが原則です。利益の多い年まで待ってから落とす、という調整は認められないと考えておきます。
3. 取引を止めて1年以上たったとき、取立ての費用の方が高いとき
続けて取引していた相手の資産や支払能力が悪くなり、取引を止めた。そのときから1年以上、入金がない。この場合は、売掛金から1円などの備忘価額(帳簿に記録を残すための最低の額)を引いた残りを損失にできます。※4
1年の数え始めは、取引を止めた時・最後の支払期日・最後に入金された時のうち、いちばん遅い時です。止めた後に少しでも入金があれば、そこから数え直します。担保がある売掛金や、不動産の売買のように1回だけの取引の代金には使えません。
もう1つは、同じ地域の相手への売掛金の合計が、取り立てに行く旅費などの費用より少なく、督促しても払われない場合です。たとえば遠方の取引先への売掛金が20,000円で、取り立てに行くと30,000円かかるなら、この型に当たりえます。※5
3の型は、売掛金・未収の請負代金などに限られます。取引先に貸したお金(貸付金)には使えません。仕訳の書き方そのものは売掛金の仕訳(貸倒れの例つき)で扱っています。
この章の根拠(5件)
- 法人税基本通達9-6-1(1)〜(3)
- 法人税基本通達9-6-1(4)
- 法人税基本通達9-6-2
- 法人税基本通達9-6-3(1)
- 法人税基本通達9-6-3(2)
個人事業主・フリーランスの場合:必要経費にできる条件
個人事業主でも、回収できない分は経費にできる?
法人とほぼ同じ3つの型で、貸倒金として必要経費にできます。青色申告なら、年末の売掛金などの5.5%までを貸倒引当金にでき、年末の売掛金が400万円なら22万円までです。
個人事業主の売掛金でも、考え方は法人とほぼ同じです。回収できない売掛金は「貸倒金」として、事業所得の必要経費にできます。条件は、所得税の通達に法人と同じ3つの型で書かれています。※1
取引を止めて1年以上入金がない売掛金や、取立ての旅費の方が高く督促しても払われない売掛金は、1円以上の備忘価額を残して経費にできます。国税庁の確定申告書等作成コーナーの説明も同じです。※2
違いは、年の区切りです。個人は1月1日〜12月31日の1年で考えるので、「明らかになった年」は暦の年です。12月に相手が夜逃げした売掛金は、その年の確定申告で扱います。
青色申告なら引当金も使える
青色申告の個人事業主は、年末の売掛金などの合計の5.5%までを、貸倒引当金として必要経費にできます(金融業は3.3%)。年末の売掛金が400万円なら、22万円までです。※3
これとは別に、相手の破産の申立てなど個別の事情がある売掛金は、事情ごとの上限まで引当金にできます(個別評価)。白色申告では引当金は使えないので、貸倒れの条件を満たした年に経費にします。
フリーランスの場合、取引先が個人で連絡が途絶えることもあります。メールやメッセージの履歴、請求書、催促の記録を、時効まで消さずに残しておきます。
取引先が個人の場合、相手が亡くなったり、自己破産したりすることもあります。自己破産で免責が決まると、原則として請求できなくなります。※4 裁判所から通知が届いたら、まず期限までに債権を届け出ます。
この章の根拠(4件)
- 所得税基本通達51-11〜51-13
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「貸倒金」
- 国税庁タックスアンサーNo.2070
- 破産法253条1項
まだ回収不能と決まらないとき:貸倒引当金で先に損失を見込む
まだ回収不能と決まらないうちは、何もできない?
相手が破産などを申し立てていれば、取れる分を除いた売掛金の50%まで、決算で貸倒引当金にできます。税金の計算で使えるのは、資本金1億円以下の中小法人など一部に限られます。
相手が破産を申し立てたが、配当がいくらになるかはわからない。こうした「ほぼ取れないが、まだ決まらない」売掛金は、決算で貸倒引当金を積んで、損失の見込みを先に費用にできます。
ただし、税金の計算で引当金を費用にできるのは、資本金1億円以下の中小法人など一部の法人に限られます。大法人の完全子会社などは、資本金が小さくても対象外です。※1
個別評価:相手ごとに見込む
特定の取引先に次の事情が起きているときは、その売掛金だけを取り出して、上限まで引当金にできます。上限は事情によって3つに分かれます。
| 相手に起きたこと(決算日の時点) | 引当金にできる上限 |
|---|---|
| 更生・再生計画の認可などで、支払いが先に延びた | 5年を超えて払われる部分(担保などで取れる分を除く) |
| 債務超過が続き事業の好転の見通しがない、災害で大きな損害が出たなど | 取れる見込みがない部分の額 |
| 更生・再生・破産・特別清算の申立て、手形交換所や電子債権記録機関の取引停止処分 | 売掛金の50%(相手から受け入れた額や、担保・保証で取れる分を除く) |
実務でいちばん使うのは表の3行目です。相手が破産などを申し立てた、手形の不渡りで取引停止処分を受けた、という事実が決算日までにあれば、売掛金の半分まで引当金にできます。※2
50%を掛ける前に、相手から受け入れた額(買掛金・預かり保証金など)と、担保や保証で取れる見込みの額は差し引きます。事実を示す書類を保存していないと、この扱いは受けられません。※3
一括評価:ふつうの売掛金全体に見込む
個別の事情がない売掛金には、全体に一定の率を掛けて引当金を積みます。中小法人は、過去の貸倒れの実績の代わりに業種ごとの法定繰入率を使えます。卸売業・小売業は1,000分の10、製造業は1,000分の8、その他の事業は1,000分の6です。※4
期末の売掛金が3,000万円の卸売業なら、一括評価の上限は30万円です。個別評価の対象にした売掛金は、この合計から除きます。
決算書の引当金と、税金の計算の引当金
決算書(会計)の引当金と、税金の計算で費用にできる引当金は、同じものではありません。決算書では、回収の見込みに合わせて必要な額を積みます。税金の計算では、ここまでの上限を超えた分は費用にならず、申告書で所得に足し戻します。
金融機関に決算書を出している会社では、回収の見込みが低い売掛金を引当金なしで残すと、資産が実際より多く見えます。税金で費用にならない分があっても、決算書には実態に合った額を積む方が、後で説明しやすくなります。
この章の根拠(4件)
- 法人税法52条1項、国税庁タックスアンサーNo.5501
- 法人税法施行令96条1項3号、法人税法施行規則25条の3
- 法人税法施行令96条1項3号・2項
- 国税庁タックスアンサーNo.5501
数字で確かめる:330万円の売掛金が止まった会社の決算
実際の決算では、どう計算するの?
330万円の売掛金から買掛金30万円を相殺し、破産の申立てがあれば150万円を引当金にします。配当のあと2,970,000円を貸倒損失にすると、含まれていた消費税270,000円も減らせます。
ここからは、1社の例で通して計算します。前提は、資本金1億円以下・3月決算の卸売業の会社です。取引先A社への売掛金が税込330万円あり、A社から仕入れている買掛金が30万円あります。
ケース1:A社が破産を申し立てた
まず買掛金30万円と相殺し、残りは300万円になります。決算日までにA社の破産の申立てがあれば、その50%の150万円を個別評価の貸倒引当金として、その期の費用にできます。
翌年以降、破産の手続きで1%の30,000円の配当を受け、残りは取れないことが明らかになりました。この年に2,970,000円を貸倒損失にします。前の期に積んだ引当金は取り崩して戻し入れるので、損失が二重になることはありません。
| 項目 | 金額(円) | 中身 |
|---|---|---|
| A社への売掛金(税込) | 3,300,000 | 卸売の代金 |
| A社への買掛金と相殺(−) | 300,000 | A社から仕入れた分 |
| 相殺後に残る売掛金 | 3,000,000 | ここから先の計算の元 |
| 個別評価の貸倒引当金(50%) | 1,500,000 | 破産の申立てがあった年の決算 |
| 破産の配当で戻った額(1%) | 30,000 | 翌年以降 |
| 貸倒損失 | 2,970,000 | 配当が終わり回収不能が明らかになった年 |
| うち差し引ける消費税(国・地方) | 270,000 | 国の分210,600円+地方の分59,400円 |
表の最後の行のとおり、貸倒損失2,970,000円には消費税270,000円が含まれています。このうち国の分210,600円(110分の7.8)を、貸倒れの年の売上の消費税から差し引けます。地方の分と合わせると、納める消費税が270,000円減ります。※1
消費税の控除は、取引停止から1年で落とした場合や、書面で債務を免除した場合も対象です。どの型でも、貸倒れの事実がわかる書類の保存が条件です。※2
ケース2:A社は営業を続けたまま払わない
A社は倒産の手続きをせず、営業を続けながら支払いだけが止まりました。2026年9月30日に出荷を止め、2026年11月30日に一部の入金があり、その後は止まったままです。
1年の数え始めは、取引を止めた日より遅い最後の入金の日です。2027年11月30日以後に1年以上たったことになり、最初に落とせるのは2028年3月期の決算です。そのとき、相殺後の売掛金から備忘価額1円を残した2,999,999円を貸倒損失にします。
- 取引を止めた2026年9月30日
- 最後の入金2026年11月30日(ここから数える)
- 1年以上たつ2027年11月30日以後
- 落とせる決算2028年3月期(2028年3月31日)
2026年9月2027年2028年3月
ケース1とケース2を比べると、損失を計上できる時期が大きく違います。ケース1では破産の申立てがあった期にまず150万円を引当金にでき、その後に残りを落とします。ケース2では、相手の状態が悪くても、手続きがなければ2028年3月期まで待つことになります。
なお、ケース2でも「全額が取れないと明らか」と言える材料がそろえば、1年を待たずに落とせます。たとえば、裁判所の手続きで判決を取り、差押えをしても財産がまったく見つからなかった、といった場合です。どちらの型で処理するかは、集めた書類を見て税理士と決めます。
この間にA社から数万円でも入金があると、そこから1年を数え直します。入金を断る理由はありませんが、起点が動くことは台帳に記録しておきます。
失った売掛金を、利益で取り戻すには
税金の扱いとは別に、経営への影響も数えておきます。相殺後の300万円のうち、税抜の額は約273万円です。営業利益率5%の会社がこれを利益で取り戻すには、約5,450万円の売上が必要になります。
貸倒損失で税金が減っても、失ったお金がすべて戻るわけではありません。だからこそ、7章の手段で少しでも取り、次の取引では与信の上限を決めて、同じ穴を作らないことが大事です。
この章の根拠(2件)
- 消費税法39条、国税庁タックスアンサーNo.6367
- 消費税法施行規則18条
回収不能と決める前に取れる手段:時効・保証人・裁判所
帳簿から落とす前に、やっておくことは?
時効を止めておくことです。残高確認書に署名してもらえば数え直しになり、一部の入金も承認の証拠になります。連帯保証人への請求、担保の処分、合意のうえでの商品の引き取りも当たります。
帳簿から落とすのは、取りに行く手段を使い切ってからです。催促から差押えまでの段取りは売掛金の回収方法にまとめています。ここでは「もう無理かもしれない」と感じた段階で、見落としやすい手段に絞ります。
時効で権利をなくさない
売掛金は、請求できると知った時から5年使わないと、時効で消えます。※1 時効が近いときは、内容証明などで催告すると、そこから6か月は時効が完成しません。ただし、催告を繰り返しても延びるのは1回だけです。※2
相手に「残高確認書」や「債務の承認書」に署名してもらえば、時効はそこから数え直しになります。※3 一部でも払ってもらうことも、相手が債務を認めた証拠になります。少額でも分割の約束を取り、書面に残します。
保証人・担保・商品
- 連帯保証人に請求する:代表者などが保証していれば、会社と同じように請求できます。
- 担保を処分する:担保の処分が済むまでは、全額回収不能とは扱われません。
- 納めた商品を返してもらう:相手と合意したうえで引き取ります。無断で持ち出してはいけません。
- 相手が持つ売掛金を押さえる:判決などを取れば、相手の取引先への売掛金を差し押さえられます。
裁判所の手続きは費用と見比べて
相手が金額を争っていないなら、書類だけで進む支払督促が使えます。判決などを取っておくと、相手の財産が後で見つかったときに差し押さえられます。
続けるか、打ち切るかの目安
回収を続けるかどうかは、「取れそうな額」から「かかる費用と手間」を引いて考えます。取れそうな額は、相手に残っている財産と、保証人や相殺で埋まる分から見積もります。費用には、裁判所の手数料や郵送代のほか、弁護士に頼むならその報酬、自社の担当者の時間も入ります。
判決などの書面を取っておけば、すぐには取れなくても、相手の財産が見つかったときに差し押さえられます。判決で確定した権利は、時効も10年に延びます。金額が大きい売掛金ほど、打ち切る前に書面だけは取っておく価値があります。※4
一方で、回収にかかる費用が取れる見込みより大きいなら、打ち切るのも判断です。その場合でも、催促した記録を残しておくことが、3章の「取立ての費用の方が高い」型で損失にするときの材料になります。
相手が破産などの手続きに入ったら、個別の取り立てはできません。配当を受けるには、裁判所から届く通知に従い、決められた期間内に債権を届け出ます。※5
承認書に書く項目や、協議の合意で時効を延ばす方法は売掛金の時効と止める方法で説明しています。
この章の根拠(5件)
- 民法166条1項
- 民法150条
- 民法152条1項
- 民法169条1項
- 破産法100条1項・111条1項
回収できない穴を埋める:資金繰りの手当てと、使わない方がよい方法
回収できない分、目の前の支払いはどうしよう……。
経営セーフティ共済の貸付、支払先や金融機関への相談、期日どおり払ってくれる取引先の売掛金を売る方法があります。回収できない売掛金を、事情を隠して売るのはやめましょう。
売掛金が回収不能になると、損益の前に資金繰りが苦しくなります。入るはずのお金が入らないまま、仕入れ先への支払いや給与の日は来るからです。税金の処理とは分けて、目の前のお金を手当てします。
先に考える方法
- 共済の貸付:取引先の倒産に備える経営セーフティ共済(倒産防止共済)に入っていれば、条件を満たすと無担保・無保証人で借りられます。
- 支払先・金融機関への相談:支払日の相談、税や社会保険料の猶予、融資の順番は資金繰りが苦しいときの対処の順番で説明しています。
- ほかの取引先の請求書を早くお金にする:期日どおりに払ってくれている取引先の売掛金なら、ファクタリングで売ることもできます。
どの方法が合うかは、足りない額と日数で変わります。資金調達診断で、条件から候補を絞り込めます。
使わない方がよい方法
回収できない売掛金そのものを、事情を隠してファクタリング会社に売るのはやめます。払われる見込みがないとわかっている債権を売れば、後で契約違反や詐欺を問われるおそれがあります。
ファクタリングで売った後に売掛先が払えなくなったときは、償還請求権(売掛先が払わないとき、利用者が買い戻す義務)の有無で負担が変わります。償還請求権とノンリコースの確かめ方で、契約書を見直します。
毎月の穴埋めに手数料のかかる方法を使い続けるのも避けます。1社の貸倒れで資金が回らないなら、売上がその取引先に偏っていないか、支払条件が長すぎないかを先に見直します。
売掛金が回収不能になったときの、よくある失敗と注意点
税務で問題になりやすい失敗って何?
事情のない相手への債務免除は、贈与(寄附金)と見られます。破産の開始だけで全額を落とす、1回だけの取引に「1年」を使う、消費税の控除を忘れる、にも気をつけます。
最後に、税務調査や決算で問題になりやすい失敗をまとめます。どれも、事実と日付を書類で残すことで防げます。
- 事情のない相手に債務を免除する:債務超過が続いているなどの事情がないのに免除すると、貸倒れではなく相手への贈与(寄附金)と見られ、費用にできる額が限られます。※1
- 破産の開始だけで全額を落とす:破産は切り捨ての型に入っていません。その年は引当金で見込み、回収不能が明らかになってから落とします。
- 担保の処分や保証人への請求の前に落とす:取れる分が残っているうちは、全額回収不能とは言えません。
- 1回だけの取引に「1年」を使う:取引停止後1年の型は、続けて取引していた相手の売掛金だけです。
- 備忘価額を残し忘れる:取引停止後1年の型では、1円などを残して落とします。
- 落とす年を選ぶ:全額回収不能は明らかになった年、切り捨ては事実が起きた年です。後の年に回すと認められないことがあります。
- 消費税の控除を忘れる:税込経理では仕訳に消費税が出てこないので、申告で漏れがちです。
- 落とした後に記録を捨てる:後で配当や入金があれば収益に戻すので、相手の資料は残しておきます。
- 催促の記録内容証明の控え、メール、電話の日付と相手の返事
- 相手の状態がわかる書類裁判所や管財人からの通知、登記、閉鎖の事実
- 取引を止めた日と最後の入金日台帳と通帳で、1年の起点を示せるように
- 保証人・担保を当たった記録保証人への請求、担保を処分した結果
- 事情のない相手への債務免除貸倒れでなく、相手への贈与(寄附金)と見られる
- 都合のよい年にずらす全額回収不能は、明らかになった年にしか落とせない
同じことを繰り返さないためには、取引を始める前と続けている間の信用の確かめ方が要ります。取引先ごとの上限の決め方は与信管理とはで説明しています。判断に迷う売掛金は、書類をそろえて顧問の税理士に相談します。
この章の根拠(1件)
- 法人税法37条7項
出典(15件)公的機関の資料・法令。2026.10.18に確認
- 国税庁タックスアンサーNo.5320 貸倒損失として処理できる場合www.nta.go.jp
- 国税庁 Q&A 連帯保証人がいる場合の貸倒れの判断www.nta.go.jp
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第6節第1款 金銭債権の貸倒れ(9-6-1〜9-6-3)www.nta.go.jp
- 国税庁 所得税基本通達〔貸倒損失〕(51-11〜51-13)www.nta.go.jp
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー よくある質問「貸倒金」www.keisan.nta.go.jp
- 国税庁タックスアンサーNo.2070 青色申告制度www.nta.go.jp
- 国税庁タックスアンサーNo.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定www.nta.go.jp
- 国税庁タックスアンサーNo.6367 貸倒れに係る税額の調整www.nta.go.jp
- 法人税法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 法人税法施行規則(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 消費税法施行規則(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 消費税法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 破産法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
FAQ
よくある質問
売掛金はいつ貸倒損失にできますか?
法人の場合、更生計画の認可などで債権が切り捨てられたとき、相手の資産や支払能力から全額が取れないと明らかになったとき、続けていた取引を止めて最後の入金から1年以上たったとき、のいずれかです。1つ目はその事実が起きた年、2つ目は明らかになった年に処理します。3つ目は1円などの備忘価額を残して落とします。
取引先が破産したら、すぐに売掛金を貸倒損失にできますか?
破産の手続きが始まっただけでは、すぐに全額を落とすことはできません。決算日までに破産の申立てがあれば、中小法人は売掛金の50%を貸倒引当金にできます。相殺できる買掛金や担保で取れる分は先に除きます。配当が終わるなどで全額が取れないと明らかになった年に、残りを貸倒損失にします。
取引停止から1年の「1年」はいつから数えますか?
取引を止めた時、最後の支払期日、最後に入金があった時のうち、いちばん遅い時から数えます。取引を止めた後に一部でも入金があれば、その入金の日が新しい起点になります。担保がある売掛金や、不動産の売買のような1回だけの取引の代金には、この扱いは使えません。
売掛金の債務を免除すれば、貸倒損失になりますか?
相手の債務超過が相当期間続き、払ってもらえないと認められる場合に、書面で免除した額は貸倒損失になります。こうした事情がないのに免除すると、相手への贈与(寄附金)と見られ、費用にできる額が限られます。免除する前に、相手の決算書など事情を示す資料をそろえます。
個人事業主の売掛金が回収できないときは経費にできますか?
できます。法人と同じ3つの型の条件を満たせば、貸倒金として事業所得の必要経費になります。取引を止めて1年以上入金がない売掛金は、1円以上の備忘価額を残して経費にします。青色申告なら、年末の売掛金などの合計の5.5%まで貸倒引当金も使えます。
回収できない売掛金の消費税は戻りますか?
戻ります。貸倒れになった税込の額の110分の7.8を、貸倒れの年の売上の消費税から差し引けます。税込297万円の貸倒れなら国の分は210,600円で、地方の分と合わせて270,000円です。貸倒れの事実がわかる書類の保存が条件で、免税事業者は対象外です。
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