資金繰り更新 2026.10.17
資本性劣後ローンとは?自己資本とみなされる3つの条件と公庫の金利・期間
資本性劣後ローンは、帳簿では借入金のまま、金融機関の評価で自己資本とみなせる融資です。条件は5年超の期限一括返済・業績連動の金利・倒産時の劣後の3つ。公庫の制度の金利・期間と、決算書と審査への効果を説明します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

赤字が続いて純資産が薄くなった、あるいは債務超過になった。そうなると、銀行に新しい融資を相談しても前向きな返事をもらいにくくなります。そこで名前が挙がるのが「資本性劣後ローン」です。
この記事は、自己資本を厚くしたい中小企業の経営者・個人事業主に向けて書いています。資本性劣後ローンの仕組み、金融機関が自己資本とみなす3つの条件、日本政策金融公庫(以下、公庫)の制度の条件、決算書と融資の審査への効果を、金融庁と公庫の公表資料、計算例で説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:資本性劣後ローンは「帳簿では借入金、金融機関の評価では自己資本」
資本性劣後ローンって、借りると資本が増えるの?
帳簿では借入金のままです。変わるのは金融機関の評価で、条件を満たせば自己資本とみなせます。数年かけて財務を立て直す計画がある会社向けで、来月の支払いを埋める手段ではありません。
資本性劣後ローンの要点は、次の4つです。
- 帳簿の上では借入金のまま:貸借対照表では負債に載ります。変わるのは、金融機関が融資先を評価するときの見方です。条件を満たす借入金は、評価のうえで資本(自己資本)とみなして扱えます。
- 条件は3つ:金融庁は、資本とみなせるかを「償還条件・金利設定・劣後性」の3つの観点で判断するとしています。5年を超える期限一括返済、業績に応じた金利、法的な倒産のときに返済の順番が後になること、の3つです。
- 代表的な制度は公庫の資本性ローン:公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付」は、返済期間5年1か月以上20年以内、元金は最後に一括、無担保・無保証人です。利率は1年ごとの業績で変わり、赤字の年は年0.50%です。
- 残りの期間が5年を切ると効果が減る:資本とみなす額は、残りの期間が5年未満になると1年ごとに20%ずつ減ります。満期には元金を一括で返す必要があります。
向いているのは、創業期・新しい事業への挑戦・経営の立て直しなどで、数年かけて財務を立て直す計画がある会社です。来月の支払いに足りないお金を埋める手段ではありません。申し込むと事業計画書と審査が必要で、借りたあとも経営状況の報告が続きます。
この記事は、次の順で説明します。
- 資本性劣後ローンとは何か:3つの条件
- 決算書と融資の審査にどう効くか
- 公庫の資本性ローンの条件(国民生活事業・中小企業事業)
- 自社で使えるか・向いているかの判断
- 申込みの手順と事業計画書
- 数字で確かめる:3,000万円を10年で借りたとき
- 資本性劣後ローンが合わない場合と、ほかの方法
- よくある失敗と注意点
資本性劣後ローンとは:資本とみなされる借入金の3つの条件
どんな借入金なら「資本」とみなしてもらえるの?
金融庁は償還条件・金利設定・劣後性の3つで判断します。5年を超える期限一括返済、業績に応じた金利、倒産のときに返す順番が後になることです。担保付き・保証付きは基本的に当たりません。
資本性劣後ローンは、2つの言葉を合わせた呼び方です。
- 資本性:貸す条件が出資(資本)に近いため、金融機関の評価で資本とみなせること
- 劣後:会社が倒産したとき、ほかの借入金や買掛金より返済の順番が後になること
金融庁はこの種の借入金を「資本性借入金」と呼び、貸出条件が資本に準じた「十分な資本的性質が認められる借入金」で、債務者の評価において資本とみなして扱えるもの、と説明しています。※1会社の規模や、貸す側が金融機関か事業会社か個人か、お金の使いみちでは制限されず、借入金の実際の性質で判断するとしています。
資本に近いかどうかは、次の3つの観点で判断します。※2
| 観点 | 求められること(金融庁の考え方) | 出資に近い理由 |
|---|---|---|
| 償還条件 | 契約時の返済期間が5年を超える。期限一括返済が原則(長い据置期間があり、期限一括と同じとみなせる場合も可) | 出資は返す期限がない。長いあいだ返さなくてよい状態が出資に近い |
| 金利設定 | 配当できる利益に応じた金利。業績が厳しい間は金利の負担が抑えられる仕組み(業績連動型など) | 出資は利益が出たときだけ配当する。赤字の年に重い利息がかからないことが出資に近い |
| 劣後性 | 法的な倒産のときに、ほかの債権より返済の順番が後になる | 出資者は、会社の財産からいちばん最後に受け取る |
表のとおり、3つとも「出資と同じように、会社が苦しいときに負担をかけない」ための条件です。※3
「劣後」とは、倒産したときの返済の順番のこと
破産法には、当事者の合意で配当の順番をほかの債権より後にする「約定劣後破産債権」の定めがあります。※4公庫の資本性ローンも、法的な倒産手続きの開始が決まった場合、償還順位が同じかそれ以下とされた債務を除くすべての債務より後になると定めています。
銀行など、ほかの貸し手から見ると、資本性劣後ローンの分は自分より後に回収される「クッション」になります。これが、出資と同じように会社の信用を支える理由です。
担保付き・保証付きの借入金は、基本的に当てはまらない
金融庁は、担保付きの借入金は基本的に資本性借入金に当たらないとしています。担保から先に回収できると、倒産のときの劣後性が保てないためです。※5保証付きの借入金も、保証が実行されると3つの条件が保証人に引き継がれないため、基本的には当たらないとしています。※6
どちらも、条件が保たれる仕組みがあれば例外はあります。ただ、ふつうの担保付き融資や保証付き融資に「資本性」という名前が付くことはない、と考えておけば迷いません。
2011年に条件が明確になり、2020年に改めて確認された
金融庁は2011年11月に、借入金を資本性借入金とみなす条件を明確にしました。それまでは特定の貸付制度を例に示すだけでしたが、明確化後は「償還期間5年超」「事務コスト相当の金利も可」などの条件を直接書く形になりました。※7
2020年5月には、新型コロナの影響を受けた事業者を支えるため、監督指針の改正で考え方が改めて示されました。金融検査マニュアルの廃止後も、資本に近いかを判断する観点は変わらないとされています。※8
この章の根拠(8件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問2
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問3
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問4・問5・問7
- 破産法99条2項
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問8
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問11
- 金融庁「『資本性借入金』の活用を検討してみませんか?」
- 金融庁「資本性借入金の取扱いの明確化に係る監督指針等の一部改正について」(令和2年5月27日)
決算書と融資の審査にどう効くか:帳簿は負債、評価で資本
決算書の数字は変わらないのに、何が良くなるの?
金融機関が評価するときに、その分を負債から外して資本に加えて見られます。ほかの銀行も資本とみなせます。ただし残りの期間が5年を切ると、資本とみなす額は1年ごとに20%ずつ減ります。
よくある誤解が「資本性劣後ローンを借りると、決算書の純資産が増える」というものです。決算書の数字は、ふつうの借入金と同じく負債に載ります。中小企業基盤整備機構の解説も、帳簿上は債務に分類され、金融機関では自己資本の一部とみなされる、と説明しています。
つまり、効果が出るのは決算書を読む側、とくに融資を検討する金融機関の評価です。金融機関は、決算書の数字の形にとらわれず、実態で財務内容を評価します。※1その評価のなかで、資本性借入金の分を負債から外し、資本に加えて見ることができます。
ほかの銀行も、公庫の資本性ローンを資本とみなせる
大事なのは、借りた先以外の金融機関も資本とみなせることです。金融庁は、ほかの金融機関からの借入金でも、3つの条件が確保されていれば、資本とみなして扱えるとしています。※2公庫から資本性ローンを借りた会社を、取引先の銀行が評価するときにも使えます。
ただし、銀行はその条件を自分で確かめる必要があります。金融庁は確かめ方の例として、債務者から契約内容を直接確認する方法を挙げています。※3決算書を出すときに、資本性ローンの契約書の写しを添えて説明すると話が早く進みます。
新しい融資を受けやすくなる理由
金融庁は中小企業向けの案内で、資本性借入金のメリットを2つ挙げています。1つ目は、長期の期限一括返済と業績連動の金利で、資金繰りが楽になること。2つ目は、資本とみなすことで財務内容が改善され、新規融資が受けやすくなることです。※4
債務超過の会社でも、資本性劣後ローンの分を資本に加えると債務超過でなくなる場合があります。金融機関が融資先を評価するとき、債務超過かどうかは大きな材料の一つです。ただし、金融庁は評価にあたって、財務内容だけでなく、収益力の見通しや返す力など多くの材料を合わせて見るとしています。※5資本性ローンを借りれば、ほかの融資が通るわけではありません。
残りの期間が5年を切ると、資本とみなす額が減る
資本とみなす額は、ずっと同じではありません。返済まで5年以上ある間は残高の100%を資本とみなし、残りの期間が5年未満になると、1年ごとに20%ずつ減らします。※6公庫も、資本性ローンについて同じ扱いを案内しています。
| 返済までの残りの期間 | 資本とみなす部分 | 負債とみなす部分 | 3,000万円なら資本とみなす額 |
|---|---|---|---|
| 5年以上 | 100% | なし | 3,000万円 |
| 4年以上5年未満 | 80% | 20% | 2,400万円 |
| 3年以上4年未満 | 60% | 40% | 1,800万円 |
| 2年以上3年未満 | 40% | 60% | 1,200万円 |
| 1年以上2年未満 | 20% | 80% | 600万円 |
| 1年未満 | なし | 100% | 0円 |
返済期間を5年1か月にすると、資本として満額に数えられるのは最初の1か月ほどだけです。資本の厚みを長く保ちたいなら、返済期間を長めに選びます。その分、黒字の年の利率は高くなります(次の章の表)。
もう1つ、返済の遅れなどで期限の利益(期日まで返さなくてよい権利)を失う事由が起きると、それが解消するまで、ふつうの負債とみなして評価されます。※6利息の支払いを遅らせると、資本としての効果ごと消えます。
この章の根拠(6件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問2
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問14
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問15
- 金融庁「『資本性借入金』の活用を検討してみませんか?」
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問20
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問18
日本政策金融公庫の資本性ローンの条件:挑戦支援資本強化特別貸付
公庫の資本性ローンは、いくらまで、どんな金利で借りられるの?
国民生活事業は限度額7,200万円(別枠)、返済期間5年1か月以上20年以内で、無担保・無保証人です。利率は1年ごとの業績で決まり、赤字の年は年0.50%、黒字の年は年3.25〜3.95%です。
公庫は、資本性劣後ローンを「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」という名前で扱っています。小規模事業者・個人事業主向けの国民生活事業と、中小企業向けの中小企業事業の両方にあります。公庫の制度のページの条件は次のとおりです(2026年10月17日に確認)。
| 項目 | 国民生活事業 | 中小企業事業 |
|---|---|---|
| 使える人 | 法人または個人企業で、新規開業・スタートアップ支援資金、新事業活動促進資金、企業再建資金など7つの融資制度のいずれかの対象になり、地域経済の活性化にかかる事業を行う方 | 新規事業・経営改善・企業再建などに取り組む中小企業者で、地域経済の活性化に資する方 |
| 使いみち | 該当する融資制度で定める設備資金・運転資金 | 財務体質の強化のための資本性の資金 |
| 融資限度額 | 7,200万円(別枠) | 15億円 |
| 返済期間 | 5年1か月以上20年以内 | 5年1か月、または6年〜20年の各年 |
| 返済方法 | 期限一括返済(最終回に元金を一括で払い、それまでは利息だけを払う) | |
| 担保・保証人 | 無担保・無保証人 | |
| そのほかの条件 | 事業計画書の提出。完済まで四半期ごとの経営状況の報告などを含む特約を結ぶ | |
国民生活事業の「別枠」とは、ほかの融資制度の限度額とは別に借りられるという意味です。国民生活事業では、税務申告を1期以上している場合、原則として所得税などを完納していることも条件です。中小企業事業は、取扱額に限りがあると案内されています。
利率は1年ごとに、直近の業績で決まる
利率は、融資のあと1年ごとに、直近の決算の税引後当期純利益によって次のどちらかが適用されます。
| 返済期間 | 税引後当期純利益が0円以上の年 | 0円未満の年 |
|---|---|---|
| 5年1か月 | 年3.25% | 年0.50%(期間にかかわらず) |
| 5年1か月超7年以内 | 年3.40% | |
| 7年超10年以内 | 年3.65% | |
| 10年超15年以内 | 年3.80% | |
| 15年超20年以内 | 年3.95% |
赤字の年は利息がかなり軽く、黒字の年は、無担保で税務申告2期済の一般の融資の基準利率(年4.05〜5.65%、令和8年10月1日現在)より少し低い水準です。これが「配当できる利益に応じた金利」の具体的な形です。利率は変わることがあるため、申込みの時点で公庫に確かめます。
民間の金融機関と組むと、最初の3年は年0.50%
次の3つをすべて満たすと、業績にかかわらず、融資後3年間の利率が年0.50%になる特例があります。
- 民間の金融機関の支援を受けて、事業計画書を作っている
- 事業計画に必要な資金から自己資金を引いた額のうち、支援する民間の金融機関の融資額が原則として2分の1を超える
- 融資後3年間、支援する金融機関に計画の進み具合を報告し、経営の指導を受けられる
つまり、取引銀行が計画づくりから関わり、必要な資金の半分超を貸す形です。資本性ローンで自己資本を厚くし、その上で銀行が貸す、という組み合わせが制度の想定だとわかります。
新型コロナ対策の資本性劣後ローンとの関係
新型コロナの影響を受けた事業者向けには、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」という特例の制度が設けられました。金融庁のFAQには、令和5年4月1日時点の概要として、当初3年間は一律0.5%などの条件が載っています。※1ネットで見つかる解説には、この特例の利率や条件のまま書かれているものがあります。今の条件は、公庫の挑戦支援資本強化特別貸付のページか、支店で確かめます。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」別紙1
自社で使えるか・向いているかの判断:問いでたどる
うちの会社でも使えるのか、どう見分ければいい?
足りないのが3か月以内の支払いなら、先に短い資金の手当てをします。対象の融資制度に当てはまり、数年で利益を出す計画を数字で示せて、満期に一括で返す道筋があれば相談に進みます。
資本性ローンは、条件に当てはまれば誰でも借りられる融資ではありません。公庫の審査があり、事業計画書が必要です。次の問いを上から順にたどると、自社に合うかの見当がつきます。
- 足りないのは、3か月以内の支払いのお金ですか?はい → 先に短い資金の手当て(7章)。資本性ローンは間に合わないいいえ → 次へ
- 創業・新しい事業・事業承継・立て直しなど、公庫の対象の融資制度に当てはまりますか?はい → 次へいいえ → ふつうの融資や保証付き融資を検討する
- 数年で利益を出す事業計画を、数字で示せますか?はい → 次へいいえ → 計画づくりから、取引銀行や支援機関に相談する
- 満期に元金を一括で返す道筋(積立・借り換えなど)がありますか?はい → 公庫の支店と取引銀行に相談するいいえ → 返済期間と返し方を計画に入れてから申し込む
向いている場面
金融庁は、資本性借入金が使われる場面として、創業時、事業の拡張や新しい事業への参入時、経営改善の一環を挙げています。※1どれも、すぐには利益が出ないが、数年先に利益が見込める場面です。
- 創業から数年で赤字が続き、純資産がマイナスになっているが、売上は伸びている
- 新しい設備や事業に投資し、回収まで数年かかる
- 過去の赤字で債務超過になっていて、立て直しの計画を銀行と進めている
- 事業を引き継いだあと、財務を整えながら投資をしたい
向いていない場面
- 来月・再来月の支払いが足りない(申込みから審査まで時間がかかる)
- 毎月の収支が赤字で、黒字にする道筋が描けていない(満期に返す財源がない)
- 担保や保証人を付けて、ふつうの融資で低い金利で借りられる(黒字の年の利率は年3.25〜3.95%)
- 計画の報告や経営状況の報告を続ける体制がない
赤字の年の利率が低いのは、利益が出るまでの時間を買う仕組みだからです。利益が出る見込みがないまま借りると、満期の一括返済が重くのしかかります。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問22
申込みの手順と事業計画書:取引銀行と一緒に進める
申し込むとき、何から準備すればいいの?
取引銀行と公庫の支店への相談が先です。中心になるのは事業計画書で、使いみちと利益の見通し、利息を払っても回る資金繰り、満期の一括返済への積立を数字で示します。借りたあとも報告が続きます。
公庫の資本性ローンは、公庫が適切と認める事業計画書の提出が条件です。一般の融資より準備に時間がかかると考えて、次の順に進めます。
- 取引銀行と公庫の支店に相談する:資本性ローンを使いたいこと、何に使うか、今の財務の状況を伝えます。3年間0.50%の特例を使うなら、計画づくりに民間の金融機関の支援が要るため、取引銀行への相談を先にします。相談と申込みの窓口は公庫の支店です。
- 事業計画書を作る:売上・利益・資金繰りの見通しを、返済期間の終わりまで数字で示します。満期に元金をどう返すか(毎年の積立、利益からの返済、借り換え)も入れます。
- 申し込み、審査を受ける:決算書や確定申告書、事業計画書を出し、面談で計画を説明します。公庫は、審査の結果で希望に沿えない場合があると案内しています。
- 特約を結んで借りる:完済まで四半期ごとの経営状況の報告などを含む特約を結びます。
- 借りたあと、報告と説明を続ける:公庫への報告を続けます。取引銀行には、決算書と一緒に資本性ローンの契約内容を伝え、資本として見てもらえるようにします。
公庫の一般の融資の申込み方や必要書類は、日本政策金融公庫の融資の申込み手順と必要書類で説明しています。資本性ローンでは、それに加えて事業計画書が中心になります。
事業計画書で示したいこと
資本性ローンは、数年先の利益を前提にした融資です。金融庁も、資本性借入金を資本とみなして経営を立て直す場合、詳しい経営改善計画までは求められなくても、一定の改善の見通しを持てることが重要だとしています。※1計画では、少なくとも次の4つを数字で示します。
- 何にいくら使い、それで売上と利益がいつ、どれだけ増えるか
- 毎年の利息(黒字の年と赤字の年の両方)を払っても資金繰りが回るか
- 満期の一括返済に向けて、毎年いくら残していくか
- 取引銀行がどう関わるか(協調して貸す額、計画を見る体制)
月ごとの入金と支払いの見通しは、資金繰り表で示すと伝わります。今の不足だけでなく、利息の支払い月も表に入れておきます。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問20
数字で確かめる:3,000万円を10年で借りたときの利息・手元資金・自己資本
3,000万円を借りたら、実際どれくらい楽になるの?
10年で借りてずっと黒字なら、最初の5年で出ていくのは547.5万円。5年返済の一般貸付だと3,308.8万円以上です。ただ返すのを先に延ばしているだけで、10年目に3,000万円を一括で返します。
公庫の国民生活事業の資本性ローンで、3,000万円を返済期間10年で借りた場合を計算します。10年は「7年超10年以内」の区分なので、黒字の年は年3.65%、赤字の年は年0.50%です。計算は年単位の単純計算で、実際の利息は公庫の計算方法で少し変わります。
例1:毎年の利息と、10年間の利息の合計
| 場合 | 1年の利息 | 10年間の利息の合計 |
|---|---|---|
| 黒字の年(年3.65%) | 109.5万円(月あたり約9.1万円) | 10年ずっと黒字なら1,095万円 |
| 赤字の年(年0.50%) | 15万円(月あたり1.25万円) | 10年ずっと赤字なら150万円 |
| 最初の3年が赤字(または特例で0.50%)、残り7年が黒字 | 3年は15万円、7年は109.5万円 | 811.5万円 |
赤字の年と黒字の年で、利息は7倍以上違います。業績が苦しい年ほど負担が小さいのが、この融資の特徴です。そのうえで、満期の10年目には元金3,000万円を一括で返します。10年で積み立てるなら、毎年300万円を利益から残していく計算です。
例2:最初の5年で出ていくお金を、ふつうの融資と比べる
比べるために、同じ3,000万円を公庫の一般貸付(運転資金は5年以内)で、5年・元金均等で返す場合を計算します。利率は、無担保・税務申告2期済の基準利率の下限と上限を使います(月割りの単純計算)。
| 借り方 | 毎年の元金の返済 | 5年間の利息 | 5年で出ていくお金 |
|---|---|---|---|
| 資本性ローン 10年(ずっと黒字・年3.65%) | なし(10年目に一括) | 547.5万円 | 547.5万円 |
| 一般貸付 5年・元金均等(年4.05%) | 600万円 | 308.8万円 | 3,308.8万円 |
| 一般貸付 5年・元金均等(年5.65%) | 600万円 | 430.8万円 | 3,430.8万円 |
元金は10年目に一括元金を毎年600万円同じく上限の利率
最初の5年に限れば、資本性ローンは手元に残るお金が約2,800万円多くなります。ただしこれは、返すのを先に延ばしているだけです。利息の総額は、黒字が続けば資本性ローンの方が多くなります。手元のお金を投資や立て直しに回し、そこから利益を生めるかが分かれ目です。
例3:金融機関から見た自己資本の変わり方
総資産8,000万円・負債8,400万円で、純資産がマイナス400万円(債務超過)の会社を考えます。この会社が3,000万円を借りて、手元に置いたとします。
ふつうの借入金帳簿どおりに評価
- 負債とみなす額
- 1億1,400万円
- 純資産(自己資本)
- マイナス400万円
- 自己資本比率
- マイナス3.6%
- 債務超過か
- 債務超過のまま
資本性劣後ローン評価で資本とみなす
- 負債とみなす額
- 8,400万円
- 純資産(自己資本)
- 2,600万円
- 自己資本比率
- 23.6%
- 債務超過か
- 債務超過でなくなる
帳簿の上では、どちらも総資産1億1,000万円・負債1億1,400万円・純資産マイナス400万円で同じです。資本性劣後ローンの3,000万円を資本とみなすと、金融機関から見た自己資本は2,600万円になります。自己資本比率(総資産のうち返さなくてよいお金の割合)は、マイナス3.6%から23.6%に変わります。
ただしこれは、返済までの残りの期間が5年以上ある間の話です。10年で借りた場合、残りの期間が5年を切ると資本とみなす額は2,400万円、1,800万円と減っていきます(3章の表)。その間に利益を積み上げて、本当の純資産を増やしておく必要があります。
資本性劣後ローンが合わない場合と、ほかの方法
来月の支払いが足りないときは、どうすればいいの?
資本性ローンは間に合わないので、運転資金の融資や保証付き融資、支払いの延期や猶予の相談を先に考えます。社長のお金を入れるなら役員借入金や増資、つなぎなら売掛金を早く現金にする方法もあります。
資本性劣後ローンは、財務を数年かけて立て直すための道具です。目的が違うときは、別の方法を選びます。
| 状況 | 先に考える方法 |
|---|---|
| 1〜2か月先の支払いが足りない | 公庫・銀行の運転資金の融資、信用保証協会の保証付き融資、支払先との交渉 |
| 今月・来月の支払いに間に合わない | 支払いの延期の相談、税・社会保険料の猶予、返済条件の変更、売掛金を早く現金にする方法 |
| 社長が個人の資金を会社に入れられる | 役員借入金(社長から会社への貸付け)、増資 |
| 毎月の収支が赤字で、立て直しの計画がない | 中小企業活性化協議会などへの相談 |
運転資金をふつうの融資で借りるなら、公庫の一般の融資のほか、銀行の保証付き融資があります。保証付き融資の流れと保証料は、信用保証協会の保証付き融資で説明しています。支払いに間に合わないときに何から手をつけるかは、資金繰りが苦しいときの対処の順番にまとめています。
社長のお金を入れるなら:役員借入金と増資
社長が会社に貸したお金(役員借入金)も、社長が返済を求めないことがはっきりしていれば、金融機関が自己資本に近いものとして見ることがあります。手続きと決算書での見え方は、役員借入金の契約書・利息・返し方で説明しています。増資は返す必要のないお金で、帳簿の純資産も増えますが、株主の持分が変わります。調達方法の全体は資金調達の方法15選で比べています。
短い期間のつなぎ:売掛金を早く現金にする
資本性ローンの審査を待つ間に支払い日が来るなら、売掛金を期日前に現金にする方法もあります。ファクタリングは借入金が増えない一方、手数料の分だけ利益と純資産が減るため、財務を厚くする目的には合いません。決算書への影響はファクタリングのメリット・デメリットで、融資との総額で比べています。手取りと実質年率はシミュレーターで、自社に合う調達方法は資金調達診断で確かめられます。
よくある失敗と注意点
借りたあとに、やってしまいがちな失敗はある?
純資産が増えると思い込む、満期の一括返済を計画に入れない、黒字になった年の利息の上がり方を見込まない、の3つが代表です。銀行には契約書の写しを添えて、資本性ローンだと自分から説明します。
失敗1:決算書の純資産が増えると思い込む
資本性劣後ローンは帳簿の上では負債です。決算書を見た相手が、資本性ローンの存在と条件を知らなければ、ふつうの借入金と同じに見えます。銀行に決算書を出すときは、契約書の写しを添え、資本性ローンであることを自分から説明します。
失敗2:満期の一括返済を計画に入れていない
期限一括返済は、途中の負担が軽い代わりに、最後に元金をまとめて返す方式です。3,000万円を10年なら、10年目に3,000万円が要ります。残りの期間が5年を切ると資本とみなす額も減るため、その頃から返済の準備(積立・借り換えの相談)を始めます。
失敗3:黒字になった年の利息を見込んでいない
赤字の年に年0.50%でも、黒字になれば翌年から年3.25〜3.95%に上がります。10年で3,000万円なら、年15万円から109.5万円への変化です。利益が出始めた年の資金繰りに、上がった利息を入れておきます。
失敗4:返済期間を短くしすぎる
返済期間が短いほど黒字の年の利率は低くなりますが、資本とみなせる期間も短くなります。5年1か月なら、借りてすぐに逓減が始まります。財務を厚く見せたい期間から逆算して、返済期間を選びます。
失敗5:利息の支払いや報告を遅らせる
期限の利益を失う事由が起きると、解消するまでふつうの負債として評価されます。資本性ローンは完済まで四半期ごとの報告などの特約があり、これを怠れば公庫との信頼も損ないます。利息の支払い日と報告の期限は、資金繰り表と予定表に入れておきます。
失敗6:「資本性」をうたう別の融資の条件を確かめない
民間の金融機関にも、資本性借入金として扱える融資があります。ただし、金融庁は、貸し手の意思で期限前に回収できる契約が付いた借入金は、資本性借入金とみなせないとしています。※1担保や保証が付く場合も、基本的には当てはまりません。名前ではなく、返済期間・金利の決まり方・劣後の定め・期限前の回収の条項を契約書で確かめます。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「資本性借入金関係FAQ」問12
出典(9件)公的機関の資料・法令。2026.10.17に確認
- 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン):国民生活事業(日本政策金融公庫)www.jfc.go.jp
- 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン):中小企業事業(日本政策金融公庫)www.jfc.go.jp
- 金利情報:国民生活事業(日本政策金融公庫、令和8年10月1日現在)www.jfc.go.jp
- 一般貸付(日本政策金融公庫)www.jfc.go.jp
- 資本性借入金の取扱いの明確化に係る「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正について(金融庁、令和2年5月27日・令和5年6月13日更新)www.fsa.go.jp
- 資本性借入金関係FAQ(金融庁、令和5年6月13日更新)www.fsa.go.jp
- 中小企業の皆様へ「資本性借入金」の活用を検討してみませんか?(金融庁)www.fsa.go.jp
- 破産法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 資本性劣後ローンとは(J-Net21・中小企業基盤整備機構)j-net21.smrj.go.jp
FAQ
よくある質問
資本性劣後ローンとは何ですか?
金融機関が融資先を評価するとき、資本(自己資本)とみなして扱える借入金です。金融庁は、契約時の返済期間が5年を超える期限一括返済、業績に応じた金利、法的な倒産のときに返済の順番が後になる劣後性の3つの観点で判断するとしています。代表的な制度は、日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特別貸付です。
資本性劣後ローンを借りると、決算書の純資産は増えますか?
増えません。帳簿の上では、ふつうの借入金と同じく負債に載ります。変わるのは金融機関の評価で、資本性ローンの分を負債から外して資本に加えて見ることができます。決算書だけでは区別がつかないため、銀行に出すときは契約書の写しを添えて、資本性ローンであることを説明します。
日本政策金融公庫の資本性ローンの金利はいくらですか?
融資後1年ごとに、直近の決算の税引後当期純利益で決まります。0円以上の年は返済期間に応じて年3.25〜3.95%(10年なら年3.65%)、0円未満の年は期間にかかわらず年0.50%です。民間の金融機関の支援で計画を作るなどの要件を満たすと、融資後3年間は年0.50%になる特例があります。
資本性ローンの返済期間と返し方は?
国民生活事業では5年1か月以上20年以内で、元金は最終回に一括で返し、それまでは利息だけを払います。無担保・無保証人です。資本とみなす額は、残りの期間が5年以上なら100%で、5年未満になると1年ごとに20%ずつ減ります。満期の一括返済に向けた積立や借り換えの準備が必要です。
個人事業主でも資本性ローンは使えますか?
公庫の国民生活事業の資本性ローンは、法人または個人企業が対象です。ただし、新規開業・スタートアップ支援資金や企業再建資金など7つの融資制度のいずれかの対象になり、地域経済の活性化にかかる事業を行うことが条件です。事業計画書の提出と審査があり、完済まで四半期ごとの経営状況の報告などの特約を結びます。
資本性劣後ローンは来月の支払いに使えますか?
向いていません。資本性ローンは、数年かけて財務を立て直すための融資で、事業計画書の提出と公庫の審査が必要です。1〜2か月先の不足なら公庫や銀行の運転資金の融資、今月・来月の支払いなら支払いの延期の相談や税・社会保険料の猶予など、短い資金の手当てを先に考えます。
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