会計更新 2026.10.18
与信管理とは?取引先の信用調査のやり方と、与信限度額の決め方・計算例
与信管理とは、取引先ごとに「いくらまで掛けで売るか」を決め、代金の焦げ付きを小さくする仕組みです。登記・決算書・公的なデータベースでの調べ方、与信限度額の3つのものさしと計算例、取引後に見るサインを説明します。
初めての方へファクタリングを使う前に知る5つのこと・申込みから入金まで →
フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

「初めての取引先から大きな注文が来たけれど、本当に払ってもらえるのか」。掛けで売る商売では、だれもが一度は抱く不安です。その不安を、勘ではなく手順で小さくする方法が与信管理です。
この記事は、社内に審査の部署を持たない中小企業の経営者・個人事業主に向けて書きました。取引先の信用調査のやり方と、与信限度額(いくらまで掛けで売るかの上限)の決め方を、計算例つきで説明します。
この記事を6枚で
1 / 6結論:与信管理は「調べる・上限を決める・見張る」の3つ
与信管理って、うちみたいな小さい会社にも要るの?
要ります。やることは「調べる・上限を決める・見張る」の3つです。上限を超える注文が来たら、断るか、支払条件を短くする・前受金をもらうなど、取引の形を変えて受けるのが基本です。
与信管理とは、取引先ごとに「いくらまで、どんな条件で掛けで売るか」を決め、代金が払われないときの損を小さくする仕組みです。やることは3つに分かれます。
- 調べる:取引の前に、相手が実在するか、払う力があるかを確かめます。法人番号・登記・決算公告・決算書など、無料か数百円で手に入る情報で、かなりのことがわかります。
- 上限を決める:取引に要る額、相手の体力、自社が失っても耐えられる額の3つを比べ、いちばん小さい額を与信限度額にします。
- 見張る:取引を始めた後も、入金の遅れや注文の変化を毎月確かめ、年に1回は決算書で上限を見直します。
上限を超える注文が来たときは、断るか、支払条件を短くする・前受金をもらうなど、取引の形を変えて受けるのが基本です。黙って上限を超えると、管理をしていないのと同じになります。
この記事は、次の順で説明します。
- 与信管理とは何か、なぜ中小企業にこそ要るのか
- 新しい取引先と取引するまでの6つの手順
- 取引先の信用調査のやり方(公的情報・決算書・信用調査会社)
- 数字で確かめる:無料の公的情報でどこまでわかるか
- 与信限度額の決め方と計算例
- 取引を始めた後の見張り方と、危ないサイン
- 与信管理だけでは守りきれないときの備え
- よくある失敗と注意点
与信管理とは:掛けで売る上限を決めて、焦げ付きを小さくする仕組み
そもそも「与信」って、どういう意味?
「信用を与える」という意味です。掛けで売るのは、相手にお金を貸しているのと同じ状態。その額に取引先ごとの上限を設けて管理します。売上を少数の取引先に頼る中小企業ほど大切です。
与信は「信用を与える」という意味です。商品やサービスを先に渡し、代金を後で受け取る掛け取引は、相手を信用してお金を貸しているのと同じ状態です。その貸している額に、取引先ごとの上限を設けて管理するのが与信管理です。
与信限度額(与信枠)とは
与信限度額は、その取引先に対して、払ってもらう前に積み上がってよい代金の上限です。与信枠とも呼びます。売掛金だけでなく、納品したがまだ請求していない分や、受け取った手形で期日が来ていない分も含めて数えます。
上限を決めるのは、相手が払えなくなったときに失う額を、あらかじめ自社が耐えられる範囲に収めるためです。売掛金とは何か、どう管理するかの記事で書いたとおり、利益の割合が小さい会社ほど、1件の貸倒れを取り戻すのに大きな売上が要ります。
債権管理・信用調査との違い
似た言葉に、債権管理と信用調査があります。与信管理はこの2つを含む、いちばん広い言葉として使われます。
| 言葉 | 何をするか | いつ |
|---|---|---|
| 信用調査 | 取引先の実在・規模・財務・評判を調べる | 取引の前と、見直しのとき |
| 与信限度額の設定 | 調べた結果から、掛けで売る上限と支払条件を決める | 取引の前と、年1回の見直し |
| 債権管理 | 請求・入金の確認・催促など、売掛金を回収するまでを管理する | 取引の後、毎月 |
| 与信管理 | 上の3つをまとめて回す仕組み全体 | 取引の前から回収の後まで |
大きな会社では審査部や与信の担当がこれを受け持ちます。中小企業では、社長か経理の担当者が兼ねるのがふつうです。だからこそ、手間をかけすぎずに回せる手順にしておくことが大切です。
なぜ中小企業にこそ要るのか
中小企業は、売上の多くを少数の取引先に頼っていることが少なくありません。その1社の支払いが止まると、仕入や給料の支払いに回すお金がそのまま足りなくなります。
また、掛けで売っている間は、仕入や人件費を自社が先に払って立て替えています。どれだけ立て替えているかは支払いサイトと入金サイトの差で決まります。与信管理は、その立て替えを「いくらまでなら耐えられるか」で区切る作業でもあります。
与信管理のやり方:新しい取引先と取引するまでの6つの手順
新しい取引先と取引するときは、何から始めるの?
法人番号とインボイスの登録番号で実在を確かめ、登記を取り、決算書を見ます。そのうえで上限と支払条件を決めて書面に残し、取引後も見張ります。小口なら最初の2つで足りることもあります。
新しい取引先から注文を受けたときは、次の6つの順に進めます。小口の取引なら1と2だけで足りることもあります。大口になるほど、3以降を省かないようにします。
- 相手が実在するかを確かめる:会社名と所在地を、国税庁の法人番号公表サイトで照らします。請求書をやりとりする相手なら、インボイスの登録番号も公表サイトで確かめます。名刺やウェブサイトの住所と違えば、理由を聞きます。
- 登記を取って読む:登記事項証明書は、手数料を払えばだれでも取れます。設立の日、資本金、役員、本店の移り変わりを読みます。読むところは次の章の表にまとめました。
- 決算書を見る:決算公告や官報を探し、見つからなければ直近2期分の決算書をもらえるよう頼みます。大口の取引で決算書を出してもらえない場合は、それ自体を判断の材料にします。
- 与信限度額と支払条件を決める:取引に要る額、相手の体力、自社が失っても耐えられる額の3つを比べて決めます。計算のしかたは「与信限度額の決め方」の章にあります。
- 書面に残す:締め日・支払日・支払方法を、注文書か取引基本契約書に書きます。支払いが遅れたときや相手の信用が大きく崩れたときに、残りの代金をすぐ請求できる条項(期限の利益の喪失)も入れておきます。
- 取引を始めた後も見張る:入金を台帳で毎月確かめ、年1回は決算書と登記で上限を見直します。
期限の利益とは、支払日まで払わなくてよいという、払う側の利益のことです。法律では、相手が破産したときなどに、この利益が失われると決まっています。※1ただ、支払いの遅れなどで失われるようにするには、契約書に書いておく必要があります。
- 5分実在を確かめる法人番号・インボイスの登録番号で、名前と所在地を照らす
- 当日登記を取る設立日・資本金・役員・本店の移り変わりを読む
- 数日決算書を見る公告・官報を探し、なければ直近2期分をもらう
- 当日上限を決める3つのものさしで与信限度額と支払条件を決める
- 契約前書面に残す支払条件・期限の利益の喪失・譲渡の扱いを契約書に
- 毎月見張る入金の遅れを台帳で確かめ、年1回は上限を見直す
社内で決めておくこと
手順を毎回の判断にしないために、次の3つを先に決めて紙に書いておきます。担当者が替わっても、同じ基準で判断できるようにするためです。
- どこからを大口とするか:たとえば「1社への掛けの残高が月の売上の1割を超える取引」は、手順3以降まで必ず進めるなど。
- だれが上限を決めるか:担当者が決めてよい額と、社長の承認が要る額を分けます。
- 見直しの時期:決算書をもらう月、登記を取り直す月を、取引先ごとに台帳に書いておきます。
この章の根拠(1件)
- 民法137条
取引先の信用調査のやり方:公的情報・決算書・信用調査会社の使い分け
取引先の調べ方って、お金がかかるんじゃない?
お金をかけない順に進めます。法人番号の公表サイトは無料、登記事項証明書は書面で600円です。登記は「履歴事項全部証明書」を選びます。判断しきれない大口だけ、信用調査会社に頼みます。
信用調査は、お金をかけない順に進めるのが基本です。まず無料か数百円で手に入る公的な情報を見ます。それで判断しきれない大口の取引先だけ、決算書をもらったり、民間の信用調査会社に頼んだりします。
| 調べ方 | わかること | 費用 |
|---|---|---|
| 法人番号公表サイト(国税庁) | 商号・本店の所在地・法人番号と、その変更の履歴 | 無料 |
| インボイス公表サイト(国税庁) | 登録番号が実在するか | 無料 |
| 登記事項証明書(法務局) | 設立の日・目的・資本金・役員・本店の移り変わり | 書面で600円、オンライン請求で送付なら520円 |
| 登記情報提供サービス | 登記と同じ内容を画面で見る(証明書としては使えない) | 330円 |
| 決算公告・官報 | 貸借対照表(またはその要旨) | 官報は直近90日分が無料 |
| EDINET(金融庁) | 上場会社などの有価証券報告書 | 無料 |
| gBizINFO(経済産業省) | 補助金・認定・表彰・国との取引の記録など | 無料 |
| 決算書を直接もらう | 売上・利益・純資産・借入・売掛金と買掛金 | 無料(頼む手間) |
| 民間の信用調査会社 | 調査員の取材による報告書・評点 | 有料(会社と調べ方で違う) |
登記と手数料は法務省の案内で確かめた額です(2025年4月1日からの額)。登記情報提供サービスの料金は、運営する団体の案内によります。※1
法人番号とインボイスの登録番号で、実在を確かめる
登記された会社には、国税庁が13桁の法人番号を指定し、商号・本店の所在地と一緒に公表しています。法人番号公表サイトでは、2015年10月の制度開始より後の、商号や所在地の変更の履歴も見られます。
見るのは、名乗っている会社名と所在地が、公表されている内容と合っているかです。合わないときは、最近移転したのか、別の会社なのかを本人に聞きます。インボイスの登録番号は、請求書に書かれた番号が実在するかを公表サイトで照らします。
登記事項証明書で読むところ
登記事項証明書は、だれでも手数料を払って請求できます。※2最寄りの法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できます。取引先の本店が遠くにあっても、ふつうは近くの法務局で取れます。
取引先を調べるときは、「履歴事項全部証明書」を選びます。今の内容に加えて、請求した日の3年前の年の1月1日から後に変わった内容も載るためです。※3
| 欄 | 見るところ | 気をつけたい例 |
|---|---|---|
| 会社成立の年月日 | どのくらい続いている会社か | 名乗る業歴より新しい |
| 商号・本店 | 名前と所在地の変更の回数と時期 | 短い間に何度も変わっている |
| 目的 | 取引の内容が事業の目的に入っているか | 本業と関係のない目的が多く並ぶ |
| 資本金の額 | 規模の目安(ただし体力そのものではない) | 最近大きく減った |
| 役員 | 代表者・取締役の顔ぶれと交代の時期 | 取引の直前に代表者が替わった |
株式会社は、目的・商号・本店・資本金の額・役員などを登記しなければなりません。※4そのため登記を見れば、相手の話と記録が合っているかを確かめられます。資本金は会社をつくったときなどに出したお金で、今の体力を示すものではない点に気をつけます。
なお、取引先が自分の売掛金を他社に譲る登記(債権譲渡登記)をしているかも確かめられます。登記情報提供サービスで、1件140円の概要を見る方法です。仕組みは債権譲渡登記とはの記事にまとめています。
決算公告・官報・EDINETで、決算書を探す
株式会社は、毎年の株主総会の後、貸借対照表を公告しなければなりません。※5公告の方法は、官報・日刊新聞・電子公告のどれかを定款で決めます。決めていない会社は官報です。※6
官報や新聞で公告する会社は、貸借対照表の要旨を載せれば足ります。※7官報は、インターネット版の直近90日分を無料で見られます。会社のウェブサイトに「決算公告」のページがあれば、そこに数年分が載っていることもあります。
有価証券報告書を出す上場会社などは、この公告の決まりから外れます。※8その代わり、金融庁のEDINETで、決算書を含む有価証券報告書を無料で読めます。
公告が見つからない会社も珍しくありません。その場合は、決算書を直接もらうように頼みます。
決算書をもらったら見る5つの数字
決算書を読み慣れていなくても、次の5つを2期分並べるだけで、相手の様子はかなりわかります。
- 純資産:資産から負債を引いた額です。マイナス(債務超過)なら、払う力に強い注意が要ります。
- 売上高:前の期より大きく減っていないか。急に増えている場合も、無理な受注をしていないかを見ます。
- 営業利益と経常利益:本業で利益が出ているか。2期続けて赤字なら、上限を低めにします。
- 現金・預金と借入金:手元のお金に比べて、借入が急に増えていないか。
- 売掛金と買掛金:売上に比べて売掛金が膨らんでいれば、相手も回収に苦しんでいるかもしれません。買掛金が膨らんでいれば、支払いを遅らせている可能性があります。
1期だけでは良し悪しが見えにくいので、2期を比べて「どちらへ動いているか」を見ることが大切です。
民間の信用調査会社に頼むとき
公的な情報と決算書で判断しきれない大口の取引先は、民間の信用調査会社の報告書を使う方法があります。調査員が取材した内容や、会社の状態を点数にした評点などが載っています。
費用は調査会社と調べ方で違い、公表されていないことも多いため、見積もりを取ってから頼みます。すべての取引先に使う必要はありません。上限の大きい数社に絞ると、費用に見合いやすくなります。
数字に出ない情報も集める
相手の事務所や現場を訪ねると、書類ではわからないことが見えます。看板と登記の住所が合っているか、人がいて仕事が回っているか、在庫や設備が話と合っているかを見ます。
相手の取引先や同業者から聞く評判も材料になります。ただし、うわさだけで判断せず、登記や決算書の記録と合わせて考えます。
この章の根拠(8件)
- 法務省「登記手数料について」・登記情報提供サービス「はじめての方へ」
- 商業登記法10条1項
- 商業登記規則30条1項2号
- 会社法911条3項
- 会社法440条1項
- 会社法939条1項・4項
- 会社法440条2項
- 会社法440条4項
数字で確かめる:無料の公的情報で、会社のどこまでがわかるか
無料の情報だけで、どこまでわかるの?
図鑑が調べた会社では、116社中79社が本店を移していました。ただ、gBizINFOで資本金などの規模がわかったのは144社中21社だけ。無料の情報は入り口として速い一方、見える範囲に限りがあります。
無料の公的情報だけで、取引先のどこまでがわかるのでしょうか。図鑑では、掲載しているファクタリング会社の運営会社を、法人番号で公的情報と突き合わせています。この記録を、取引先を調べるときと同じ目で数え直しました。
対象は、図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、法人番号を確かめた165サービスの運営会社144社です。gBizINFOの法人情報と、法人番号の変更の履歴(2026年10月16日に取り直したもの)を使いました。集計の方法は build/stats/yoshin-kanri.py にあります。
法人番号の変更履歴(履歴を取れた116社)gBizINFOの法人情報(144社)
この結果から、3つのことがわかります。
1. 移転や名前の変更は、珍しくない
変更の履歴を取れた116社のうち、本店の所在地を1回以上変えた会社は79社(68%)、2回以上は39社でした。名称・商号を変えた会社は24社、合併の記録がある会社は13社です。
移転そのものは、事業の拡大などでもよくあることです。回数や時期を、相手の説明と照らすことに意味があります。「創業以来ずっと同じ場所」と聞いていたのに移転が続いているなら、理由を確かめます。
2. 法人番号の履歴は、2015年10月より前を映さない
116社のうち55社は、法人番号の登録が2015年でした。制度が始まった年で、それより前からある会社です。こうした会社の古い移転や名前の変更は、法人番号の履歴には出ません。
昔のことまで確かめたいときは、登記の閉鎖事項証明書など、法務局の記録を当たる必要があります。無料の情報は入り口として速い一方、見える範囲に限りがあります。
3. gBizINFOだけでは、中小企業の規模はほとんどわからない
144社のうち、gBizINFOに資本金・従業員数・設立日のどれかが載っていた会社は21社(15%)でした。資本金が載っていたのは9社だけです。補助金・認定・表彰・国との取引のどれかの記録があった会社は24社でした。
gBizINFOは、国が持つ法人の情報をまとめたサイトです。補助金や認定などの記録は便利ですが、中小企業の財務や人数は空欄が多いと考えておきます。規模や体力は、登記と決算書で確かめるのが確実です。
この数字の読み方
対象はファクタリング会社の運営会社で、新しい会社や小さな会社が多い業界です。ほかの業界の取引先にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、無料の情報で「わかること」と「わからないこと」の線引きは、どの取引先を調べるときも同じです。
与信限度額の決め方:3つのものさしと計算例
いくらまで掛けで売っていいか、どう決めるの?
相手の純資産の1割と、自社が失っても耐えられる額の小さいほうを限度額にします。例では500万円。取引に要る額600万円が超えるなら、翌月末払いや前受金で500万円の内側に収めます。
与信限度額には、法律で決まった計算式はありません。実務では、いくつかの目安を組み合わせて決めます。ここでは、中小企業でも手元の数字だけで出せる3つのものさしを使います。
3つのものさし
- 取引に要る額:今の取引の量と支払条件で、支払日の直前に最大いくら残るか。計算の考え方は売掛金の記事の与信枠の目安にあります。
- 相手の体力から見た額:相手の純資産の1割を上限の目安にします。純資産がマイナスの相手には、掛けでは売らないか、ごく小さくします。
- 自社が失っても耐えられる額:手元資金から、固定費(人件費・家賃など)の2か月分を残した額です。この額を失っても、すぐに支払いが止まらない範囲です。
与信限度額は、2と3のうち小さいほうにします。そのうえで、1の取引に要る額が限度額に収まるかを確かめます。収まらなければ、取引の量か支払条件を変えます。
2の「純資産の1割」と、3の「固定費2か月分」は、この記事で使う目安です。業種や取引の長さで、自社に合う割合に置き換えてかまいません。大事なのは、毎回同じ基準で決めることです。
計算例:月200万円の注文を受けるとき
次のような取引を考えます。
- 新しい取引先:決算書の純資産は6,000万円。自社への注文の見込みは月200万円。支払条件は月末締め翌々月末払い。
- 自社:手元資金は1,500万円。月の固定費は500万円。
| ものさし | 計算 | 額 |
|---|---|---|
| 1. 取引に要る額 | 月200万円×(2か月+1か月) | 600万円 |
| 2. 相手の体力 | 純資産6,000万円×10% | 600万円 |
| 3. 自社が耐えられる額 | 手元資金1,500万円−固定費500万円×2か月 | 500万円 |
| 与信限度額 | 2と3の小さいほう | 500万円 |
取引に要る額は600万円で、限度額の500万円を100万円超えます。このまま受けると、相手が払えなくなったとき、自社が耐えられる額を超えて失うことになります。
限度額に収めるための4つの案
超えた分は、取引をやめるのではなく、条件を変えて収めることを先に考えます。この例なら、次のどれかで限度額の500万円に収まります。
| 案 | 変えること | 取引に要る額 |
|---|---|---|
| 支払いを早めてもらう | 月末締め翌月末払いにする | 200万円×2=400万円 |
| 前受金をもらう | 毎月の注文の3割(60万円)を先に受け取る | 140万円×3=420万円 |
| 取引の量を抑える | 最初の数か月は月160万円までにする | 160万円×3=480万円 |
| 担保・保証をもらう | 超えた100万円分に、保証や担保を付けてもらう | 600万円(うち100万円は保全) |
支払いを早めてもらう交渉は、相手にとっても負担です。「最初の半年だけ」「実績ができたら翌々月払いに戻す」など、期間を区切って頼むと受け入れられやすくなります。
相手の評価で、上限に掛け率をかける
3つのものさしで出した額は、相手が健全なときの上限です。調べた結果に気になる点があれば、評価に応じて上限を小さくします。この例の500万円を基準にすると、次のようになります。
| 評価 | 目安 | 掛け率 | 与信限度額 |
|---|---|---|---|
| A | 2期とも黒字、純資産が増えている、支払いの遅れがない | 100% | 500万円 |
| B | 1期だけ赤字、または初めての取引 | 70% | 350万円 |
| C | 2期続けて赤字、決算書を出してもらえない | 40% | 200万円 |
| D | 債務超過、支払いの遅れがすでにある | 0% | 掛けでは売らない |
評価の区切りと掛け率も、自社で決めてよい目安です。初めての取引先をBから始め、半年から1年、遅れなく払ってもらえたらAに上げる、という運用がしやすい形です。
取引を始めた後の見張り方:見直しの時期と、危ないサイン
取引が始まった後は、何を見ればいい?
入金の遅れは毎月、上限は年1回、新しい決算書と登記で見直します。支払いの延長や手形への変更を頼まれたら、年1回を待たずにその場で見直します。
与信管理でいちばん抜けやすいのが、取引を始めた後です。一度決めた上限が、何年も前の決算書のまま残っていることは珍しくありません。見直しの時期を、あらかじめ決めておきます。
定期的な見直し
- 毎月:売掛金の台帳で、期日どおりに入金されたか、一部だけの入金がないかを確かめます。上限に対して今の残高がいくらかも見ます。
- 年1回:新しい決算書をもらい、純資産と売上の増減で上限を計算し直します。登記も取り直し、役員や本店に変わりがないかを見ます。
- 取引が大きく変わるとき:注文が急に増える、支払条件を変えたいと言われるなど、取引の形が変わるときは、その場で見直します。
すぐに見直すサイン
次のようなことが起きたら、年1回の見直しを待たずに、上限と支払条件を見直します。倒産の前に出やすいサインはほかにもありますが、ここでは与信の見直しにつながるものに絞りました。
- 入金が期日どおりか台帳で毎月、遅れと一部入金を確かめる
- 注文の量が急に変わっていないか急な大口・急な減少のどちらも理由を聞く
- 決算書を毎年もらえているか年1回、純資産と売上の増減で上限を見直す
- 登記に変化がないか本店・役員・商号の変更を年1回確かめる
- 支払いの延長や分割を頼まれた理由を聞き、上限を下げて残高を減らす
- 支払方法を手形などに変えたいと言われた入金がさらに先になる。条件を見直す
- 担当者や経理の窓口が急に替わり、連絡がつきにくい社内の事情を聞き、出荷を小分けにする
- 相手の売掛金を譲る登記が増えた資金繰りを急いでいることがある。理由を確かめる
支払方法を手形に変えたいと言われた場合は、入金がさらに先になります。手形の期日や、不渡りになったときの扱いは手形とはの記事にまとめています。
サインに気づいたときにやること
- まず事実を確かめる:担当者に理由を聞き、決算書や試算表をもらえるか頼みます。うわさだけで取引を止めると、相手との関係を壊すことがあります。
- 新しい出荷を小分けにする:上限を下げ、今の残高が減るまで、大口の出荷を控えます。
- 支払条件を短くする・前受金をもらう:これからの取引で、積み上がる額を減らします。
- 保証や担保を相談する:代表者の保証や、担保を付けてもらえるかを相談します。
- 相殺できるかを確かめる:相手に払う代金(買掛金)があれば、互いの代金を差し引ける場合があります。※1
相手が実際に倒産したときの回収の手順は、この記事の範囲を超えます。弁護士など専門家への相談も早めに考えます。
倒産の前に出やすいサインの全体(支払い・取引・人・登記の12項目)と、気づいた時期で損がどう変わるかは取引先の倒産の前兆12のサインにまとめています。
この章の根拠(1件)
- 民法505条1項
与信管理だけでは守りきれないときの備えと、ほかの方法
それでも取引先が倒産したら、どうするの?
経営セーフティ共済や、売掛金の保証・取引信用保険で備えます。償還請求権のあるファクタリング契約は、売掛先が払えなければ自社が買い戻すので、焦げ付きの備えにはなりません。
どれだけ丁寧に調べても、取引先の倒産を完全に避けることはできません。与信管理で損を小さくしたうえで、残ったリスクに備える方法を組み合わせます。
取引先が倒産したときに借りられる備え
中小企業向けの経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、掛金を積み立てておく制度です。取引先が倒産して代金を受け取れなくなったときに、お金を借りられます。借りられる額の計算や条件は経営セーフティ共済とはの記事にまとめています。
売掛金の焦げ付きそのものを保証してもらう
民間の保証会社や保険会社には、取引先が払えなくなったときに代金の一部や全部を払ってもらう、売掛金の保証や取引信用保険があります。保証料がかかり、保証してもらえる取引先や額には審査があります。大口の1社に頼っている場合に、検討する価値があります。
売掛金を売って、回収を早める
入金を待たずに売掛金を売るファクタリングも、取引先の信用と関わります。ファクタリング会社の審査では、申し込む会社よりも、請求書の先にいる売掛先の支払い能力が主に見られます。審査で見られる点はファクタリングの審査で見られることに書いています。
図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、償還請求権なしと明記しているのは100サービスでした。償還請求権は、売掛先が払わなかったときに、利用者が買い戻す義務のことです。これがない契約なら、売った後に売掛先が払えなくなった損は、ファクタリング会社が負います。くわしくは償還請求権とはの記事で説明しています。条件で会社を探すときはファクタリング会社の図鑑で絞り込めます。
ファクタリングを使わない方がよい場合
- 相手の支払いがすでに遅れている売掛金:審査で通りにくいうえ、通っても手数料が高くなりがちです。まずは催促と回収の手順を進めます。
- 与信の不安を消すためだけに使う:手数料がかかり続けます。毎月の大口の取引なら、支払条件の交渉や保証のほうが費用を抑えられることがあります。
- 償還請求権のある契約:売掛先が払えなくなれば、結局は自社が買い戻すので、焦げ付きの備えにはなりません。
与信管理をやりすぎない
すべての取引先に同じ手間をかけると、営業が止まります。小口の取引先は法人番号と登記だけ、大口だけ決算書と信用調査、というように、取引の大きさで手間を変えます。手間をかける相手を絞ることも、与信管理の一部です。
与信管理でよくある失敗と注意点
与信管理で、ありがちな失敗は?
上限を決めたまま見直さない、大口の注文を営業の勢いで先に受ける、資本金の大きさや知名度で安心する、などです。サインに気づいたら、関係を気にせず早めに理由を聞きましょう。
- 上限を決めたまま見直さない:数年前の決算書で決めた上限のままでは、相手の今の体力を映しません。決算書をもらう月を台帳に書いておきます。
- 大口の注文を、営業の勢いで先に受けてしまう:受けた後に上限を超えるとわかっても、条件を変える交渉は難しくなります。見積もりの段階で上限を確かめます。
- 資本金の大きさで安心する:資本金は体力そのものではありません。純資産と利益を決算書で見ます。
- 有名な会社だから調べない:知名度は払う力の保証になりません。名前の似た別の会社と取引していた、という失敗もあります。法人番号で照らします。
- 支払条件を口約束にする:締め日・支払日・支払方法が書面になければ、遅れたときに催促の根拠が弱くなります。
- 相手の売掛金の譲渡を禁じる特約を見落とす:自社の売掛金を早く現金にしたいとき、契約書の譲渡を制限する特約が制約になることがあります。
- 1社への集中を放っておく:上限の中に収まっていても、売上の大半が1社なら、その1社の遅れがそのまま自社の資金不足になります。取引先を分ける・備えを持つ、の両方を考えます。
- サインに気づいても、関係を気にして何も言わない:理由を聞くのは失礼ではありません。早く聞くほど、取れる手が多く残ります。
与信管理は、取引先を疑うための作業ではなく、取引を長く続けるための作業です。調べる・上限を決める・見張るの3つを、取引の大きさに合った手間で回していきます。
出典(13件)公的機関の資料・法令。2026.10.18に確認
- 会社法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 商業登記法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 商業登記規則(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 登記手数料について(法務省)www.moj.go.jp
- 会社・法人の登記事項証明書等を請求される方へ(法務省)www.moj.go.jp
- 登記情報提供制度の概要について(法務省)www.moj.go.jp
- はじめての方へ(登記情報提供サービス)www1.touki.or.jp
- 国税庁法人番号公表サイトwww.houjin-bangou.nta.go.jp
- 国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトwww.invoice-kohyo.nta.go.jp
- 官報(国立印刷局)www.kanpo.go.jp
- EDINET(金融庁)disclosure2.edinet-fsa.go.jp
- gBizINFO(経済産業省)info.gbiz.go.jp
FAQ
よくある質問
与信管理とは何ですか?
取引先ごとに、いくらまで・どんな条件で掛けで売るかを決め、代金が払われないときの損を小さくする仕組みです。取引の前に相手を調べ、与信限度額を決め、取引を始めた後も入金の遅れや決算書の変化を見張ります。社内に審査の部署がない中小企業でも、取引の大きさに合わせて手間を変えれば回せます。
取引先の信用調査は自分でできますか?
できます。国税庁の法人番号公表サイトで名前と所在地を照らし、法務局で登記事項証明書(書面で600円、オンライン請求で送付なら520円)を取って、設立の日・資本金・役員・本店の移り変わりを読みます。決算公告や官報を探し、なければ決算書を2期分もらいます。判断しきれない大口の相手だけ、民間の信用調査会社に頼みます。
与信限度額はどうやって決めますか?
法律で決まった式はなく、目安を組み合わせます。この記事では、相手の純資産の1割と、自社の手元資金から固定費2か月分を残した額のうち小さいほうを限度額にします。そのうえで、今の取引量と支払条件で最大いくら残るかが限度額に収まるかを確かめ、超えるなら支払条件や前受金で調整します。
与信限度額を超える注文が来たらどうすればいいですか?
断る前に、取引の形を変えて限度額に収められないかを考えます。支払いを翌々月末から翌月末に早めてもらう、注文の一部を前受金でもらう、最初の数か月は量を抑える、超えた分に保証や担保を付けてもらう、といった方法です。期間を区切って頼むと、相手も受け入れやすくなります。
gBizINFOで取引先の財務はわかりますか?
中小企業の財務はほとんどわかりません。図鑑が法人番号を確かめた運営会社144社のうち、gBizINFOに資本金・従業員数・設立日のどれかが載っていたのは21社、資本金は9社だけでした。補助金や認定の記録を見るには便利ですが、規模や体力は登記と決算書で確かめます。
取引先の与信を見直すのはいつですか?
毎月、売掛金の台帳で入金の遅れを確かめ、年1回は新しい決算書と登記で上限を計算し直します。支払いの延長や分割を頼まれた、支払方法を手形などに変えたいと言われた、注文が急に増えたといったときは、年1回を待たずにその場で見直します。上限を下げるときは、新しい出荷を小分けにして残高を減らします。
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