法律更新 2026.10.17
支払督促とは?売掛金を書類だけで請求する流れと、2026年5月からの費用
支払督促は、簡易裁判所の書記官が書類だけで相手に支払いを命じる手続きで、相手が争わない売掛金の回収に向いています。申立ての書き方、2026年5月からの手数料、異議が出たとき、少額訴訟との選び方を計算例で説明します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

取引先が売掛金を払ってくれず、催促しても返事がない。そんなときに使える裁判所の手続きのひとつが「支払督促(しはらいとくそく)」です。裁判所に出向かず、書類だけで「払いなさい」という命令を出してもらえます。この記事では、仕組みと流れ、申立ての書類、2026年5月に変わった費用、相手が異議を出したときの動き方、少額訴訟との選び分けを順に説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:支払督促は、相手が争わない売掛金を「差し押さえできる書面」に変える手続き
払ってくれない取引先に、裁判所から請求してもらえるの?
支払督促なら、簡易裁判所の書記官が書類だけで相手に支払いを命じます。相手が中身を争わず、ただ払わない売掛金に向いています。異議が出なければ、差押えに進めます。
支払督促は、お金を払ってもらう側(債権者)が申し立て、簡易裁判所の裁判所書記官が、払う側(債務者)に支払いを命じる手続きです。相手の言い分を聞かず、申立書の中身だけで判断されます。※1
相手が2週間以内に異議を出さなければ、申立てによって「仮執行宣言」が付き、相手の預金や売掛金を差し押さえる強制執行に進めます。※2反対に、相手が異議を出すと、通常の訴訟に切り替わります。
使うかどうかは、次の3点で決まります。
- 向いている:請求の中身(納品した事実・金額・支払日)を相手が争っておらず、ただ払わない・連絡がつかないとき。
- 向いていない:「納品物に不具合がある」など相手が中身を争っているとき。異議が出て訴訟に移り、時間も費用も余分にかかります。
- 使えない:相手の住所や本店がわからず、書類を届けられないとき。支払督促は、届けられる相手にしか出せません。※3
この記事は、仕組みと効力、申立てから差押えまでの流れ、申立書の書き方、費用の計算、異議が出たとき、少額訴訟などとの違い、使わない方がよい場合とほかの方法、よくある失敗の順に進みます。催促や内容証明を含む回収の段取り全体ではなく、支払督促という手続きそのものを詳しく扱います。
- 1日目申し立てる相手の住所地の簡易裁判所へ。電子か書面で
- 審査のあと相手に届く裁判所書記官が支払督促を出し、相手に送達される
- 届いてから2週間異議を待つ異議が出たら通常の訴訟へ移る
- その後30日以内仮執行宣言を申し立てる忘れると支払督促が効力を失う
- 宣言が届いたら差押えができるさらに2週間、異議がなければ確定する
この章の根拠(3件)
- 民事訴訟法382条・386条1項
- 民事訴訟法391条1項・民事執行法22条4号
- 民事訴訟法382条ただし書
支払督促の仕組み:誰が出し、どんな効力があるか
裁判みたいに、裁判所へ行かなきゃいけないの?
行く日はありません。申立書の中身だけで判断されます。金額が決まったお金の請求ならほぼ使え、請求額の上限もありません。申立先は、原則として相手の住所地の簡易裁判所です。
支払督促を出すのは、裁判官ではなく簡易裁判所の裁判所書記官です。申立書に書いた言い分から、請求に理由があると認められれば出されます。証拠を出して審理を受ける場はなく、裁判所に行く日もありません。※1
使える請求:一定の金額を払えという請求
対象は「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付」を求める請求です。※2売掛金・請負代金・業務委託の報酬・立替金など、金額が決まっているお金の請求はほぼ当てはまります。請求額の上限はなく、140万円を超える売掛金にも使えます。
一方で、「納めた商品を返してほしい」「契約を取り消したい」といったお金以外の請求には使えません。
どこに申し立てるか:相手の住所地の簡易裁判所
申立先は、原則として相手(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所です。相手が会社なら本店の所在地です。※3相手の支店や営業所との取引なら、その所在地の簡易裁判所にも申し立てられます。※4
自社の近くの裁判所を選べない点が、少額訴訟や通常の訴訟と違います(訴えなら、売掛金の支払いを受ける場所=原則として自社の住所地でも起こせます)。※5ただし、督促手続オンラインシステムを使う場合は、ほかの地域の事件でも東京簡易裁判所の書記官に申し立てられます。※1
どんな効力があるか:差押えの根拠と、時効の止まり
- 強制執行の根拠になる:仮執行宣言が付いた支払督促は「債務名義」(強制執行をするための公的な書面)になります。※6判決と違い、強制執行のための執行文も要りません。※7
- 確定すると判決と同じ重さ:仮執行宣言の後も異議が出ずに期間が過ぎると、確定判決と同一の効力を持ちます。※8
- 時効が止まる:支払督促を申し立てると、手続きが終わるまで時効は完成しません。権利が確定すれば、そこから時効を数え直します。※9売掛金の時効は、支払日を知っていればそこから5年です。※10
注意したいのは、手続きが途中で終わった場合です。たとえば仮執行宣言の申立てを忘れて支払督促が効力を失うと、時効が止まるのは終わった時から6か月だけになります。※11
この章の根拠(11件)
- 裁判所「支払督促」
- 民事訴訟法382条
- 民事訴訟法383条1項
- 民事訴訟法383条2項1号
- 民事訴訟法5条1号・民法484条1項
- 民事執行法22条4号
- 民事執行法25条ただし書
- 民事訴訟法396条
- 民法147条
- 民法166条1項1号
- 民法147条1項
支払督促の流れ:申立てから差押えまでの6段階
申し立ててから、どんな順番で進むの?
相手に届いてから2週間、異議がなければ30日以内に仮執行宣言を申し立てます。30日を過ぎると支払督促は効力を失います。宣言が届けば差押えができます。
手続きは、裁判所の案内にそって6つの段階で進みます。待ち時間のうち法律で決まっているのは、相手が異議を出せる2週間が2回と、仮執行宣言を申し立てる30日の期限です。審査や送達にかかる日数は、裁判所や相手の受け取り方で変わります。※1
- 申し立てる:申立書を、電子(mints=民事裁判書類電子提出システム、または督促手続オンラインシステム)か書面で出し、手数料を納めます。
- 書記官の審査と発付:申立書の中身から請求に理由があると認められると支払督促が出され、自社には発付の通知、相手には支払督促が送達されます。効力は相手に届いた時に生じます。※2
- 2週間、異議を待つ:相手は受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てられます。出されたら通常の訴訟に移ります(次の次の章)。
- 仮執行宣言を申し立てる:異議が出なければ、申立てができる時から30日以内に仮執行宣言を申し立てます。この期限を過ぎると、支払督促は効力を失います。※3
- 仮執行宣言付支払督促が届く:書記官が審査して宣言を付け、双方に送達します。※4ここから強制執行を申し立てられます。
- さらに2週間で確定:相手は受け取ってから2週間以内なら、もう一度異議を出せます。出なければ確定します。※5
日付で見る:11月2日に相手へ届いた場合
裁判所の案内では、仮執行宣言を申し立てられるのは「支払督促送達日の翌日から起算して2週間目の翌日~30日以内」です。※111月2日に相手へ届いたなら、次のようになります。
| 日付 | 起きること | 自社がすること |
|---|---|---|
| 11月2日 | 支払督促が相手に届く | 発付の通知を受け取る |
| 11月16日まで | 相手が異議を出せる期間 | 入金や連絡がないか確かめる |
| 11月17日〜12月16日 | 仮執行宣言を申し立てられる期間 | 早めに申し立てる。過ぎると失効 |
| 宣言が届いてから2週間 | 相手が再び異議を出せる期間 | 差押えの準備をしてよい |
申立てから差押えまで、早くても1か月以上はかかると考えておきます。日の数え方に迷ったら、申立先の簡易裁判所の書記官に確かめると確実です。
差押えへ進むとき
仮執行宣言付支払督促を得ても、相手が自分から払うとは限りません。払わなければ、相手の住所地の地方裁判所に、預金や相手の売掛金の差押え(債権執行)を申し立てます。手数料は原則4,000円で、郵便料は別にかかります。※6
差押えには、相手の銀行名・支店名など、どの財産を押さえるかを特定する必要があります。取引の中で振込先の口座を控えておくと役に立ちます。わからないときは、財産開示や、銀行などからの情報取得の手続きを使える場合があります。※7
この章の根拠(7件)
- 裁判所「支払督促」
- 民事訴訟法388条2項
- 民事訴訟法392条
- 民事訴訟法391条
- 民事訴訟法393条
- 裁判所「債権執行(債務名義に基づく差押え)」
- 民事執行法197条・207条
申立ての書類と書き方:売掛金の場合
申し立てるには、何をそろえればいいの?
申立書と、法人なら登記事項証明書です。電子でも書面でも出せます。申し立てる前に、金額が確定しているか、支払日が過ぎているか、相殺されていないかを確かめましょう。
裁判所の案内で求められる書類は、申立書と、当事者が法人なら登記事項証明書1通です。電子で出す場合は、mintsの入力フォームで申立書を作れ、PDFでの提出もできます。※1
そろえるもの
- 申立書:表紙にあたる部分、当事者目録、請求の趣旨及び原因で構成します。書式は裁判所のサイトの「支払督促で使う書式」にあります。
- 登記事項証明書:自社が法人の場合と、相手が法人の場合に、それぞれ必要です。相手の正しい商号・本店・代表者を確かめる意味もあります。
- 手元に残す証拠:申立ての時には出しませんが、注文書・契約書・納品書・請求書・催促のメールは整理しておきます。異議が出て訴訟に移れば、すぐに使います。
電子で出すか、書面で出すか
2026年5月21日からは、紙の申立書と督促手続オンラインシステムに加えて、mintsでも申し立てられるようになりました。弁護士などの代理人は電子での申立てが義務ですが、自社で申し立てる会社はどちらでも選べます。※1
- 電子(mints):事前にアカウント登録が必要です。手数料は書面より200円安く、届け出れば裁判所からの書類もオンラインで受け取れます。
- 電子(督促手続オンラインシステム):相手の住所地がどこでも、東京簡易裁判所の書記官に申し立てられます。
- 書面:紙の申立書を、相手の住所地を管轄する簡易裁判所に出します。アカウントの登録をせずに出せます。
どの簡易裁判所が相手の住所地を受け持つかは、裁判所のサイトの「申立書提出先一覧(簡易裁判所)」で調べられます。
申し立てる前に確かめること
- 請求できる金額が確定しているか:検収前で金額が決まっていない、値引きの話し合いが続いている、という状態で申し立てると、異議が出る原因になります。
- 支払日が過ぎているか:支払日前の売掛金は、まだ払えと言えません。
- 相殺されていないか:相手からも買っている取引なら、買掛金と差し引かれていないか、相手の言い分を確かめます。
- 書面で一度は催促したか:請求額と期限を書いた書面を送っておくと、相手が「請求を受けていない」と言う余地を減らせます。
- 相手の登記を取ったか:商号・本店・代表者を登記で確かめます。本店移転や商号変更は意外と多くあります。
当事者目録:相手の名前と住所を正確に
相手が会社なら、登記事項証明書の商号・本店所在地・代表者名をそのまま書きます。名刺や請求書の宛名に使っている営業所の住所と、登記上の本店が違うことはよくあります。
書いた場所に相手がいなくて届かないと、書記官から通知が来ます。その日から2か月以内に別の送達場所を申し出ないと、申立てを取り下げたとみなされます。※2
請求の趣旨及び原因:何を、なぜ払えと言うか
「請求の趣旨」は払ってほしい金額、「請求の原因」はそのお金が生まれた取引の中身です。売掛金100万円・支払日8月31日の例なら、次のように書きます。
- 請求の趣旨:金100万円、及びこれに対する令和8年9月1日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金、並びに督促手続費用。
- 請求の原因:債権者は、債務者に対し、令和8年7月10日、商品〇〇を代金100万円(消費税込み)、支払期日同年8月31日の約定で売り渡し、同日引き渡した。しかし債務者は、支払期日を過ぎても代金を支払わない。
いつ・何を・いくらで・支払日はいつか、の4つがそろっていれば足ります。一部が払われているなら、払われた日と金額を書き、残りを請求します。
遅延損害金の書き方
支払日を過ぎた分の損害金は、契約で利率を決めていなければ法定利率の年3%で請求できます。※3令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も年3%です。※4契約書に年3%より高い遅延損害金の利率があれば、その利率で書けます。
損害金は、支払日の翌日から数えます。期限の到来した時から遅れの責任が生じるためです。※5
この章の根拠(5件)
- 裁判所「支払督促」
- 民事訴訟法388条3項
- 民法404条・419条1項
- 法務省「法定利率」
- 民法412条1項
支払督促の費用:2026年5月21日からの手数料を計算で確かめる
費用は、いくらかかるの?
2026年5月21日から、郵便費用は手数料に一本化されました。電子なら100万円で7,500円、訴えは11,400円です。ただし20万円以下は、電子なら訴えの方が安くなります。
民事裁判のデジタル化にともない、2026年5月21日から費用の納め方が変わりました。これまで手数料とは別に納めていた郵便切手(郵便費用)は、申立手数料に一本化されています。納め方は、原則としてペイジーによる電子納付です。※1検索で出てくる「印紙代+郵便切手」の説明は、変わる前のものが多いので注意します。
手数料の決まり方
支払督促の手数料は、訴えを起こすときの基本の手数料の半分に、郵便費用にあたる定額を足した額です。定額は書面なら2,700円、電子なら2,500円です。※2訴え(少額訴訟・通常の訴訟)は、基本の手数料に、書面なら2,500円、電子なら1,400円を足します。※3
請求額は元本で数えます。遅延損害金は、請求額の計算に入れません。※4
| 請求額 | 支払督促(書面) | 支払督促(電子) | 訴え(電子) |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 3,200円 | 3,000円 | 2,400円 |
| 30万円 | 4,200円 | 4,000円 | 4,400円 |
| 50万円 | 5,200円 | 5,000円 | 6,400円 |
| 60万円 | 5,700円 | 5,500円 | 7,400円 |
| 100万円 | 7,700円 | 7,500円 | 11,400円 |
| 200万円 | 10,200円 | 10,000円 | 16,400円 |
| 300万円 | 12,700円 | 12,500円 | 21,400円 |
| 500万円 | 17,700円 | 17,500円 | 31,400円 |
表は裁判所の手数料額早見表から写したもので、計算式とも一致することを確かめています。請求額が大きいほど、支払督促と訴えの差は広がります。100万円なら、電子で支払督促は7,500円、訴えは11,400円です。300万円なら支払督促は12,500円、訴えは21,400円で、差は8,900円になります。
支払督促訴え(少額訴訟・通常の訴訟)
20万円以下は、電子なら訴えの方が安い
表を見ると、請求額が20万円以下のときは、電子で比べると訴えの手数料の方が支払督促より安くなります。郵便費用にあたる定額が、訴え(電子)は1,400円、支払督促(電子)は2,500円と差があるためです。書面で出す場合は、どの請求額でも支払督促の方が安くなります。
差は数百円なので、少額の売掛金では費用より「裁判所に行く手間」「異議が出る見込み」で選ぶ方が大事です。
異議が出ると、訴えの手数料との差額を追加で納める
異議が出て訴訟に移ると、訴えの手数料から、支払督促で納めた額(基本の手数料の半分の部分まで)を引いた額を追加で納めます。※5100万円を電子で申し立てた例で計算します。
- 支払督促の手数料:7,500円(基本の半分5,000円+定額2,500円)
- 異議で訴訟に移ったときの追加:訴え(電子)11,400円−5,000円=6,400円
- 合計:13,900円。最初から訴えを起こした場合(11,400円)より2,500円多くなります。
差は郵便費用にあたる定額の分だけで、大きくはありません。それより、異議が出ると訴訟の分だけ時間が延びる点が負担です。相手が争いそうなら、最初から訴えを選ぶ理由になります。
そのほかにかかるお金
- 登記事項証明書:法人の当事者ごとに必要です。法務局で取ります。
- 差押えの手数料:債権執行は原則4,000円と郵便料。100万円の例なら、支払督促(電子)と合わせて11,500円+郵便料です。
- 弁護士・司法書士の費用:自分で申し立てれば要りません。頼む場合は事務所ごとに違うので、見積りを取ります。
自分でやるか、専門家に頼むか
相手が争わない売掛金の支払督促は、書類の手続きなので自社だけでも進められます。異議が出て訴訟に移る見込みがある、請求額が大きい、相手が複数いる、といった場合は、最初から専門家に頼む方が手戻りが少なくなります。
請求額が140万円以下なら、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)も、支払督促や簡易裁判所の訴訟の代理ができます。※6140万円を超える場合や、地方裁判所の訴訟・強制執行まで任せたい場合は、弁護士に頼みます。
相手が払わなかった遅延損害金は、100万円が90日遅れると年3%で約7,397円です。手続きの費用より小さいことも多いので、損害金のためだけに急ぐより、元本を確実に取ることを優先します。
払う力が乏しい場合は、手数料の支払いを猶予する「訴訟上の救助」や、法テラスの立替えの制度もあります。※7
この章の根拠(7件)
- 裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」
- 民事訴訟費用等に関する法律 別表第二 11の項
- 裁判所「手数料額早見表」
- 民事訴訟法9条2項
- 民事訴訟費用等に関する法律3条3項
- 司法書士法3条1項6号・2項
- 裁判所「支払督促」
相手が異議を出したとき:通常の訴訟に移る
相手が異議を出してきたら、どうなるの?
申し立てた時に訴えたものとみなされ、訴訟に移ります。140万円以下は簡易裁判所、超えると地方裁判所で、相手の地元の裁判所です。分割払いの相談で異議が出ることもあります。
相手が督促異議を出すと、支払督促は異議の範囲で効力を失い、申立ての時に訴えを起こしたものとみなされます。※1手続きのやり直しではなく、そのまま訴訟に引き継がれます。
どこの裁判所で、何をするか
訴訟になる裁判所は、支払督促を出した簡易裁判所か、その所在地の地方裁判所です。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、超えれば地方裁判所になります。※2つまり、相手の住所地の近くの裁判所に出向くことになります。
移ったあとは、裁判所の案内に従って、追加の手数料を納め、言い分を書いた書面と証拠(注文書・契約書・納品書・請求書・やり取りの記録)を出します。期日に出席して主張し、判決か、話し合いによる和解で終わります。
異議の中身を読む:払う気がないのか、争っているのか
異議が出ても、相手が請求の中身を本気で争っているとは限りません。「分割にしてほしい」「少し待ってほしい」という理由で出されることもあります。
- 中身は認めていて、払い方の相談:訴訟の中で分割払いの和解をまとめる道があります。和解調書は確定判決と同じ効力があり、守られなければ差押えに進めます。
- 納品や金額を争っている:証拠の勝負になります。請求額が大きい、争点が多いときは、弁護士に相談します。相談先の選び方はトラブルの相談先でも触れています。
分割払いで和解するときに入れておく条項
分割払いで話をまとめるなら、和解の条項に「期限の利益の喪失」を入れておきます。支払いが遅れたら、残りの分割の期日を待たずに全額を請求できるようにする定めです。たとえば「2回分の支払いを怠ったら、残りを一括で払う」と決めます。
あわせて、遅れたときの損害金の利率と、振込手数料をどちらが持つかも決めておきます。和解調書に書かれた約束が守られなければ、改めて訴えなくても差押えに進めます。
仮執行宣言のあとに異議が出た場合
仮執行宣言が付いた後の異議でも、訴訟には移ります。ただし、すでに出た仮執行宣言で強制執行はでき、相手が止めるには、別に執行停止を申し立てて認められる必要があります。※3相手が異議を出してきても、差押えの準備は進めてかまいません。
この章の根拠(3件)
- 民事訴訟法390条・395条
- 民事訴訟法395条・裁判所法33条1項1号
- 民事訴訟法403条1項3号
少額訴訟・通常の訴訟・民事調停との違い
少額訴訟とは、どう使い分ければいい?
支払督促は請求額の上限がなく、裁判所に行きません。少額訴訟は60万円以下で原則1回の期日に出ますが、支払いを受ける場所の裁判所にも起こせます。相手が争っているかで選びます。
売掛金を裁判所の手続きで請求する方法は、支払督促のほかに、少額訴訟・通常の訴訟・民事調停があります。違いは「裁判所に行くか」「相手が争ったらどうなるか」「どこの裁判所か」です。
| 手続き | 請求額 | 裁判所に行くか | 相手が争うと | 申し立てる裁判所 |
|---|---|---|---|---|
| 支払督促 | 上限なし | 行かない(書類だけ) | 異議で通常の訴訟へ | 相手の住所地の簡易裁判所 |
| 少額訴訟 | 60万円以下 | 原則1回の期日に出る | 相手の申出で通常の訴訟へ | 相手の住所地か、支払いを受ける場所の簡易裁判所 |
| 通常の訴訟 | 上限なし(140万円超は地方裁判所) | 期日ごとに出る | 証拠で判決 | 相手の住所地か、支払いを受ける場所 |
| 民事調停 | 上限なし | 話し合いの期日に出る | まとまらなければ終わり | 原則、相手の住所地の簡易裁判所 |
少額訴訟は、60万円以下のお金の請求について、原則1回の審理で判決まで出す手続きです。同じ簡易裁判所で使えるのは1年に10回までです。※1判決では、分割払いや支払猶予が命じられることがあります。※2
支払督促書類だけで命令を出してもらう
- 請求額
- 上限なし
- 出頭
- しない
- 相手の言い分
- 聞かずに出す
- 相手が争うと
- 異議で通常の訴訟へ
- 申立先
- 相手の住所地の簡易裁判所
- 100万円の手数料(電子)
- 7,500円
少額訴訟1回の期日で判決まで
- 請求額
- 60万円以下
- 出頭
- 原則1回
- 相手の言い分
- 期日に聞いて判断
- 相手が争うと
- 相手の申出で通常の訴訟へ
- 申立先
- 支払いを受ける場所でもよい
- 60万円の手数料(電子)
- 7,400円(支払督促なら5,500円)
選び方:3つの問いで決める
- 相手の住所(会社なら本店)はわかっていて、書類が届きますか?はい → 次へいいえ → 支払督促は使えない。通常の訴訟を弁護士に相談
- 相手は、納品や金額を争っていますか?はい → 通常の訴訟(60万円以下で争点が単純なら少額訴訟)いいえ → 次へ
- 相手の住所地は遠いですか?はい → まず支払督促。異議が出たら遠くの裁判所で訴訟になる点は覚悟するいいえ → 支払督促。60万円以下で1回で決めたいなら少額訴訟も候補
相手が遠くにいて、しかも争いそうな場合がいちばん悩ましい組み合わせです。支払督促に異議が出ると訴訟は相手の地元で進みますが、最初から訴えるなら自社の住所地の裁判所を選べます。※3契約書に「管轄裁判所」の定めがあれば、それも確かめます。
関係を続けたい取引先で、払い方の話し合いをしたいなら民事調停も選べます。少額訴訟の手順を詳しく知りたいときは、裁判所の案内を見るのが確実です。
この章の根拠(3件)
- 民事訴訟法368条1項・裁判所「少額訴訟」
- 裁判所「少額訴訟」
- 民事訴訟法5条1号・民法484条1項
支払督促を使わない方がよい場合と、ほかの方法
支払督促を使わない方がいいのは、どんなとき?
相手が中身を争っている、所在がわからない、破産などの手続きに入った、差し押さえる財産の見当がつかないときです。入金まで1か月以上かかるので、その間の資金繰りは分けて考えます。
支払督促は安く手軽ですが、どんな未払いにも合うわけではありません。次の場合は、別の方法を先に考えます。
- 相手が中身を争っている:異議が出る見込みが高く、遠回りになります。最初から訴訟か調停を選びます。
- 相手の所在がわからない:支払督促は届かなければ出せません。訴訟なら公示送達という方法がありますが、手続きは重くなります。弁護士に相談します。
- 相手が破産などの手続きに入った:個別に回収する手続きより、倒産の手続きの中で債権を届け出ることが中心になります。届いた通知をよく読み、期限を守ります。
- 差し押さえる財産の見当がつかない:書面を取っても回収できないことがあります。取引口座や相手の取引先を、わかる範囲で控えておきます。
- 支払督促の前に、まだ書面で催促していない:電話やメールだけなら、期限を区切った書面の催促で払われることもあります。裁判所の手続きは、その後でも間に合います。
回収まで待てないときの資金繰り
支払督促は、うまく進んでも入金まで1か月以上かかります。その間の支払いが心配なら、回収と資金繰りを分けて考えます。
- 支払先に相談する:仕入先や外注先に、支払日を少し待ってもらえないか頼みます。理由が「売掛先の未払い」とはっきりしているほど話しやすくなります。
- 税金・社会保険料の猶予や融資を当たる:手順と順番は資金繰りが苦しいときの対処の順番にまとめています。取引先の倒産で売掛金が回収できないときは、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の貸付けが使える場合もあります。
- ほかの売掛金を早くお金にする:払ってくれている取引先の請求書なら、早く現金にする方法があります。方法ごとの比較は売掛金を早く現金にする方法を見てください。
支払いが遅れている売掛金そのものを売るのは、難しいと考えておきます。買い手は「売掛先が期日に払うか」をいちばん重く見るため、すでに払っていない売掛金は条件が合わないことが多いからです。買い手が見る点はファクタリングの審査で見られることにまとめています。どの方法が今の状況に合うかは、資金調達診断で絞り込めます。
すでにファクタリングで売った売掛金が払われないとき
売掛金を売ったあとは、その売掛金の持ち主(債権者)は買い取った会社です。自社の名前で支払督促を出す前に、契約書で「売掛先が払わないときに誰が何をするか」を確かめます。買い戻しの義務があるかどうかは償還請求権の定めで決まります。契約書のどこを読むかはファクタリングの契約書で確かめる箇所で説明しています。
支払督促でよくある失敗と注意点
やってしまいがちな失敗って何?
仮執行宣言の30日の申立て忘れ、相手の本店を登記で確かめないこと、差押え先の口座を控えていないことです。書類だけで進むぶん、小さなミスがそのまま結果に響きます。
支払督促は書類だけで進むぶん、書類と期限の小さなミスがそのまま結果に響きます。よく見る失敗を挙げます。
- 仮執行宣言の申立てを忘れる:申し立てられる時から30日を過ぎると、支払督促は効力を失います。※1発付の通知が来たら、すぐに日付を手帳に書きます。
- 相手の商号や本店を、請求書の宛名のまま書く:登記と違うと届かず、2か月以内に送達場所を申し出ないと取下げとみなされます。登記事項証明書で確かめます。
- 請求額に、払われた分を含めてしまう:一部入金や相殺があったのに全額で請求すると、異議の理由を与えます。入金の記録と突き合わせます。
- 遅延損害金の起算日や利率を間違える:起算日は支払日の翌日、利率は契約になければ年3%です。
- 争っている相手に使う:異議で訴訟に移り、相手の地元の裁判所に通うことになります。最初から訴えた方が早く、近い裁判所を選べたかもしれません。
- 差押え先を調べないまま進める:書面を取っても、押さえる口座がわからなければ回収は進みません。取引のうちに振込元の口座を控えます。
- 時効の直前に慌てる:支払督促を申し立てれば時効は止まりますが、申立書の準備にも日数がかかります。支払日から5年が近い売掛金は、早めに動きます。
- 自社に届いた「支払督促」を放っておく:逆の立場の話ですが、支払督促を装った架空請求もあります。届いたら、書類にある番号ではなく、自分で調べた裁判所の番号に問い合わせます。本物なら、身に覚えがなくても2週間以内に異議を出します。※2
支払督促は、相手が争わない売掛金をいちばん安く、裁判所に行かずに差押えまで進められる手続きです。相手の正しい住所、請求の中身を示す書類、期限の管理の3つがそろっていれば、自社だけでも十分に使えます。
この章の根拠(2件)
- 民事訴訟法392条
- 京都地方裁判所「『支払督促』を利用した架空請求に御注意ください」
出典(13件)公的機関の資料・法令。2026.10.17に確認
- 支払督促(裁判所)www.courts.go.jp
- 手数料額早見表(裁判所)www.courts.go.jp
- 改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要(裁判所)www.courts.go.jp
- 少額訴訟(裁判所)www.courts.go.jp
- 債権執行(債務名義に基づく差押え)(裁判所)www.courts.go.jp
- 「支払督促」を利用した架空請求に御注意ください(京都地方裁判所)www.courts.go.jp
- 民事訴訟法(第5条・第9条・第368条・第382条〜第396条・第403条)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民事訴訟費用等に関する法律(第3条・別表第一・別表第二)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民事執行法(第22条・第25条・第197条・第207条)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民法(第147条・第166条・第404条・第412条・第419条・第484条)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 裁判所法(第33条)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 司法書士法(第3条)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 令和8年4月1日以降の法定利率について(法務省)www.moj.go.jp
FAQ
よくある質問
支払督促とは何ですか?
お金を払ってもらう側の申立てで、簡易裁判所の裁判所書記官が相手に支払いを命じる手続きです。申立書の中身だけで判断され、裁判所に行く必要はありません。相手が受け取ってから2週間以内に異議を出さなければ仮執行宣言を申し立てられ、預金などの差押えに進めます。
支払督促の費用はいくらですか?
2026年5月21日からは郵便費用が手数料に一本化され、訴えの基本の手数料の半分に、書面なら2,700円、電子なら2,500円を足した額です。売掛金100万円なら書面7,700円、電子7,500円です。異議が出て訴訟に移ると、訴えの手数料との差額を追加で納めます。
支払督促はどのくらいの期間で終わりますか?
法律で決まっている待ち時間は、相手が異議を出せる2週間が2回と、仮執行宣言を申し立てる30日の期限です。これに書記官の審査と送達の日数が加わるので、申立てから差押えができるまで、早くても1か月以上かかると考えておきます。異議が出れば訴訟に移り、さらに時間がかかります。
支払督促に異議を出されたらどうなりますか?
支払督促は異議の範囲で効力を失い、申し立てた時に訴えを起こしたものとみなされて通常の訴訟に移ります。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、超えれば地方裁判所で、相手の住所地の近くの裁判所です。訴えの手数料との差額を追加で納め、証拠を出して主張します。
支払督促と少額訴訟はどちらがよいですか?
相手が請求の中身を争っておらず、住所もわかっているなら支払督促が向いています。裁判所に行かずに済み、請求額の上限もありません。60万円以下で相手が争いそうなら、原則1回の期日で判決が出る少額訴訟が候補です。少額訴訟は支払いを受ける場所の簡易裁判所にも起こせます。
支払督促を無視されたらどうなりますか?
相手が2週間以内に異議を出さなければ、仮執行宣言を申し立てられます。宣言が付いた支払督促で相手の預金や売掛金を差し押さえられ、さらに2週間異議がなければ確定判決と同じ効力を持ちます。仮執行宣言の申立ては30日以内にしないと支払督促が効力を失うので注意します。
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