資金繰り更新 2026.11.07
建設業の資金繰り|3,000万円の工事で見る立替の山と、足りない月の埋め方
建設業の資金繰りは、工事ごとに支払いの月と入金の月を並べると、足りない月と額が先にわかります。3,000万円・工期4か月の例では、竣工払いで最大2,280万円だった立替が、出来高払いなら240万円に減りました。埋め方も早さと費用で比べます。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.11.07

この記事は、工事を請け負う建設会社・工務店・一人親方の経営者に向けて書いています。「黒字の工事なのに、竣工の前に口座が空になる」「元請からの入金が遅く、職人の給料が心配」という悩みに、工事1件の記入例で答えます。足りない月の埋め方も、早さと費用で比べます。
この記事を7枚で
1 / 7結論:建設業の資金繰りは「工事ごとの立替の山」を先に読む
建設業の資金繰りが厳しくなりやすいのは、材料費・外注費・職人の給与が工事の進み具合に合わせて先に出ていき、工事代金が後から入るからです。この差を、この記事では「立替」と呼びます。立替は工事ごとに山の形をしていて、多くは竣工の直前にいちばん高くなります。
山の高さと時期は、契約の支払条件でほぼ決まります。要点は次の3つです。
- 山の高さは支払条件で決まる:3,000万円・工期4か月の工事の例では、竣工払いだと最大の立替は2,280万円でした。出来高払いなら240万円、前払金40%なら1,080万円です。
- 下請代金の期日は建設業法が決めている:建設工事は取適法の対象外です。元請は、発注者から支払いを受けた日から1か月以内に下請へ払います。特定建設業者が注文者なら、引渡しの申出から50日以内です。
- 埋める順番は「契約→支払条件→融資→ファクタリング」:費用のかからない手から当てます。ファクタリングは請求書が出てからしか使えず、竣工払いの工事では最後の1か月しか埋まりません。
この先は、工事代金の入金の型(2章)、元請・下請が守る支払いの決まり(3章)、工事ごとの資金繰り表の作り方(4章)と記入例(5章)の順に見ます。続いて、足りない月の埋め方(6章)、ファクタリングを使わない方がよい場合(7章)、よくある失敗(8章)です。
資金繰り表の一般的な項目やテンプレートは資金繰り表の作り方で説明しています。建設業で使えるファクタリング会社の一覧は建設業のファクタリングのページにあります。この記事は、工事ごとのお金の動きに絞ります。
- 職人の給与・経費1月末から毎月(初月60万円)
- 材料費・外注費2月末から前月分を払う
- 立替の山4月末 2,280万円
- 工事代金の入金5月末 3,000万円
着工2月3月4月5月末
工事代金の入金の型:竣工払い・出来高払い・前払金
工事代金の受け取り方は、大きく3つの型に分かれます。どの型かは、請負契約書の支払条件の欄に書かれています。建設業法も、前払いや出来高の支払い、完成後の支払いの時期と方法を、契約書に書く事項として定めています。※1
| 型 | 入金の時期 | 立替が最大になる時 | よく使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 竣工払い(一括払い) | 完成・引渡しの後(例:翌月末) | 竣工の直前 | 小さな工事、住宅・店舗の工事、下請の工事 |
| 出来高払い(部分払い) | 毎月など決めた時期に、それまでに仕上がった分 | 最初の1〜2か月 | 工期の長い工事、継続取引の元請 |
| 前払金(前金払) | 着工の前後に、請負代金の一部 | 前払金を使い切った後 | 公共工事、大きな民間工事 |
表のとおり、型が変わると「いつ山が来るか」も変わります。実際の契約は、前払金と出来高払いを組み合わせることもあります。
出来高とは、その月までに仕上がった分の工事代金のことです。出来高払いでは、元請や発注者が締め日に仕上がり具合を査定し、その分を払います。全額ではなく一部を「保留金」として竣工まで残す契約もよくあります。
契約書・注文書で見る6つの箇所
- 支払条件:「出来高の90%を翌月末」「竣工後30日」など、割合と日付
- 出来高の査定日と締め日:報告をいつまでに出せば、その月の支払いに入るか
- 保留金:何%を残し、竣工後いつ払われるか
- 支払手段:振込か、手形・でんさいか。手形なら満期の日
- 追加・変更工事の決め方:代金をどう決め、いつ払うか※2
- 債権の譲渡の決まり:工事代金を他社に売るとき、相手の承諾が要るか
締め日と査定日は、入金を1か月単位で動かします。月末締めの元請に出来高の報告が1日遅れれば、その分の入金は翌月に回ります。資金繰り表には、この日付をそのまま写します。
公共工事の前払金と中間前払金
公共工事には、請負代金の40%を前払いする前金払の制度があります。工期の半ばに20%を追加する中間前金払と合わせると、60%を先に受け取れます。前払金は、保証事業会社が保証する仕組みです。※3要件と手続きは発注者ごとに違うので、入札の前に発注者の案内で確かめます。
元請が前払金を受けたときは、下請にも着手に必要な費用を前払いするよう配慮する決まりがあります。くわしくは次の章で見ます。
この章の根拠(3件)
- 建設業法19条1項5号・12号
- 建設業法19条1項6号・2項
- 国土交通省 関東地方整備局「資金繰り対策」
支払いの決まり:元請・下請が守る期日(建設業法と取適法)
下請の立場では、入金の時期は元請の支払条件で決まります。ただし建設業法は、元請が下請に払う期日に上限を置いています。建設業者が請け負う建設工事は、取適法(2026年1月に下請法から名前が変わった法律)の対象外で、建設業法が受け持ちます。※1
下請の方へ:払ってもらう期日の決まり
| 場面 | 元請が守ること |
|---|---|
| 元請が発注者から、出来高の支払いや完成後の支払いを受けた | 受けた日から1か月以内で、できる限り短い期間に、下請の出来形に応じた下請代金を払う |
| 下請代金のうち労務費に当たる部分 | 現金で払うよう適切に配慮する |
| 元請が発注者から前払金を受けた | 資材の購入や労働者の募集など、着手に必要な費用を前払金として払うよう配慮する |
| 下請が工事の完成を知らせた | 知らせを受けた日から20日以内に検査を終える。検査の後、下請が申し出れば直ちに引渡しを受ける |
| 元請が特定建設業者で、下請が特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもない | 引渡しの申出の日から50日以内で支払期日を決めて払う。遅れたら遅延利息を払う |
| 同じ場面で、手形で払う | 支払期日までに金融機関で割引を受けるのが難しい手形を渡してはいけない |
※2表の「元請」は、下請契約の注文者で建設業者である会社のことです。1次下請が2次下請に工事を頼むときは、1次下請が元請の立場になります。2次・3次の下請も、同じ決まりで守られます。※3
50日の決まりは、元請が発注者から払ってもらったかどうかに関係なく働きます。期日を決めていなかったときは引渡しの申出の日が、50日を超えて決めていたときは50日を経過する日が、支払期日とみなされます。※4
下請が国や都道府県、公正取引委員会、中小企業庁に違反を知らせたことを理由に、元請が取引を止めるなど不利益に扱うことも禁じられています。※5
元請の方へ:受け取る前に払う期日が来る
元請は、発注者からの入金の後1か月以内に下請へ払います。特定建設業者は、発注者からの入金がまだでも、引渡しの申出から50日以内に払わなければなりません。発注者の支払いが遅い民間工事では、元請が下請代金を立て替える期間が生まれます。
発注者との契約の支払条件を、下請との契約より先に決めることが、元請の資金繰りの出発点です。発注者の支払条件が竣工の翌々月末なのに、下請との約束が翌月末なら、その1か月分は自社で持つことになります。
取適法と手形の扱い
建設工事でない取引、たとえば部材の製造を他社に委託する取引などは、取適法の対象になりえます。対象の判定と60日の支払期日は、取適法(旧下請法)の解説で確かめてください。
手形で受け取ると、入金は振出の日ではなく満期の日です。手形は廃止に向けて切替えが進んでいます。日付と、受け取る側・払う側の手順は手形廃止はいつかにまとめています。
この章の根拠(5件)
- 公正取引委員会「取適法の概要 改正のポイント」
- 建設業法24条の3・24条の4・24条の6、建設業法施行令7条の2
- 建設業法2条5項
- 建設業法24条の6第2項
- 建設業法24条の5
工事ごとの資金繰り表の作り方:6つの手順
会社全体の資金繰り表だけを見ていると、どの工事が山を作っているのかが見えません。建設業では、工事ごとに1枚の表を作り、それを重ねて会社全体の表にします。手順は次の6つです。
- 原価を4つに分ける:工事台帳や実行予算(工事ごとに組んだ原価の見込み)から、材料費・外注費・労務費・経費を拾います。
- 原価を月に割る:工程表を見て、各月にどれだけ仕上がるか(出来高の割合)を置きます。原価は仕上がりに合わせて出ると考えます。
- 支払いの月にずらす:仕入先・外注先との支払条件(月末締め翌月末払いなど)で、原価が出た月から払う月へ動かします。職人の給与は、締め日と支給日で決まります。
- 入金の月を契約から決める:竣工払い・出来高払い・前払金のどれか、保留金、締め日と査定日を、契約書と注文書から写します。
- 差し引きを累計する:月ごとに「入金−出金」を出し、累計します。累計がいちばん低い月が立替の山です。その額と月を表の下に書きます。
- 工事を重ねて会社全体にする:工事ごとの差し引きを足し、事務所の家賃や役員報酬、借入の返済を引きます。月初の残高に足して、残高が足りなくなる月を探します。
表から読む3つの数字
表ができたら、次の3つを書き出します。銀行に融資を相談するときも、この3つを最初に伝えると話が早く進みます。
- 最大の立替額:累計がいちばん低い月の額。足りなくなる額の上限です。
- 山の月:その額になる月。手を打つ期限は、この月の支払日です。
- 立替が続く月数:累計がマイナスの月が何か月続くか。融資なら借りる期間の目安になります。
手順1と2がいちばん手間ですが、実行予算を組んでいる会社なら、その数字を月に割るだけです。実行予算が無い工事は、見積書の内訳を使います。
工事1件分のひな形
次の表をそのまま写して使えます。列は着工の月から6か月です。工期がもっと長い工事は、6か月ごとに表を分けます。
| 項目 | 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 | 4か月目 | 5か月目 | 6か月目 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 出来高の割合 | ||||||
| 材料費(払う月) | ||||||
| 外注費(払う月) | ||||||
| 労務費(払う月) | ||||||
| 経費(払う月) | ||||||
| 出金の計 | ||||||
| 入金(前払金・出来高・竣工) | ||||||
| 入金−出金 | ||||||
| 累計(立替) |
「出来高の割合」の行は、出金の行を埋めるための下書きです。出金の行には、原価が出た月ではなく、実際に払う月の欄に金額を書きます。ここを取り違えると、山の時期が1か月早く見えます。
会社全体の表への足し方や、予定と実績の書き直し、銀行に出すときの書き方は、資金繰り表の作り方の記事に任せます。
記入例:3,000万円の工事(工期4か月・竣工の翌月末払い)で足りなくなる月
ひな形に、例の工事を書き入れます。金額は税込み、原価の割合は説明のために置いた例で、統計の値ではありません。計算は build/stats/kensetsu-shikinguri.py で確かめています。
例の前提
- 請負代金は3,000万円。工期は1月〜4月で、4月末に竣工・引渡し
- 原価は請負代金の90%(材料30%・外注40%・労務15%・経費5%)。粗利は300万円
- 出来高の割合は、1月10%・2月30%・3月40%・4月20%
- 材料と外注は月末締め翌月末払い。職人の給与と経費は、その月の末に払う
竣工払いのときの表(万円)
| 項目 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 材料(翌月末) | − | 90 | 270 | 360 | 180 |
| 外注(翌月末) | − | 120 | 360 | 480 | 240 |
| 労務(当月末) | 45 | 135 | 180 | 90 | − |
| 経費(当月末) | 15 | 45 | 60 | 30 | − |
| 出金の計 | 60 | 390 | 870 | 960 | 420 |
| 入金 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3,000 |
| 累計(立替) | −60 | −450 | −1,320 | −2,280 | +300 |
1月の出金は60万円だけです。2月から前月分の材料費と外注費の支払いが始まり、4月末には累計で2,280万円を立て替えています。粗利300万円の工事のために、その7.6倍のお金を4か月かけて先に出す計算です。
5月末は、3,000万円の入金と、4月分の材料・外注420万円の支払いが同じ日に重なります。入金が1日でも遅れると、その日の立替は2,700万円、つまり原価の全額になります。入金日と支払日を同じ日に置かないことも、資金繰りの工夫の一つです。
出来高払い・前払金に変えると
同じ工事で、入金の型だけを変えて計算し直しました。出金の行は同じです。
| 入金の型 | 入金の時期 | 最大の立替 | その月 |
|---|---|---|---|
| 竣工払い | 5月末に3,000万円 | 2,280万円 | 4月末 |
| 前払金40%+竣工払い | 1月末に1,200万円、5月末に1,800万円 | 1,080万円 | 4月末 |
| 出来高払い(90%・保留金10%) | 毎月の出来高の90%を翌月末、保留金300万円を5月末 | 240万円 | 3月末 |
出来高払いの月ごとの動きも並べておきます。出金の行は竣工払いと同じです。
| 出来高払い(万円) | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 出金の計 | 60 | 390 | 870 | 960 | 420 |
| 入金 | 0 | 270 | 810 | 1,080 | 840 |
| 累計(立替) | −60 | −180 | −240 | −120 | +300 |
5月末の840万円は、4月の出来高の90%(540万円)と保留金300万円の合計です。保留金は請求を忘れると入金が遅れるので、竣工の月に請求の段取りを決めておきます。
同じ工事・同じ粗利でも、支払条件だけで最大の立替は2,280万円から240万円まで、約10分の1に下がります。出来高払いでは、2月末に270万円、3月末に810万円、4月末に1,080万円が入り、支払いを追いかける形になるからです。
前払金は、前半の立替を消してくれます。それでも3月末には残りが120万円の立替に変わり、4月末には1,080万円の山が戻ります。前払金をほかの工事や経費に回すと、この山はさらに高くなります。
竣工払い前払金あり出来高払い
下請の立場で同じ表を作ると
例の外注費1,200万円を受け取る下請の側から見ると、入金は元請の支払条件しだいです。元請が発注者から竣工払いで5月末に受け取るなら、建設業法の上限は「受け取った日から1か月以内」です。元請が特定建設業者で、自社が資本金4,000万円未満の会社などなら、引渡しの申出から50日以内が上限になります。
下請は、元請と発注者の契約の中身を知らないことがほとんどです。だからこそ、自社の注文書の支払条件と出来高の査定日を、受注の前に確かめます。自社の材料・職人への支払いを同じ表に書けば、下請でも同じように山が見えます。
足りない月の埋め方:早さと費用で並べた5つの手
山の月と額が見えたら、費用のかからない手から順に当てます。5つの手を、効く時期と費用で並べると次のとおりです。
| 手 | 効く時期 | 費用 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 1. 出来高払い・前払いの交渉 | 契約の前(契約の後は変更契約) | かからない | 工期2か月以上の工事、大きな工事 |
| 2. 外注先・仕入先との支払条件の見直し | 次の発注から | かからない | 入金より先に払う月がある工事 |
| 3. 融資(つなぎ融資・保証付き・公庫) | 申し込んでから入金まで日数がかかる | 利息・保証料 | 山の月の2か月以上前に気づいたとき |
| 4. 公共工事の代金を使う融資 | 出来高が2分の1以上になった後 | 利息など | 公共工事を受ける中小・中堅の元請 |
| 5. ファクタリング | 請求書や注文書ができた後 | 手数料(年率にすると高い) | 融資が間に合わない1回限りの穴 |
表の上ほど安く、下ほど早く使えます。山が見えるのが早いほど、上の手を選べます。工事ごとの資金繰り表を受注の時点で作る理由はここにあります。
1. 契約で山を下げる
いちばん効くのは、契約の段階で出来高払いや前払いを入れてもらうことです。記入例では、最大の立替が2,280万円から240万円になりました。頼むときは、工程表と出来高の見込みの表を添え、「毎月末締め・翌月末に出来高の90%」のように具体的な案を出します。
元請の方は、発注者と前払い・出来高払いを決めてから下請と契約します。公共工事の標準請負契約約款では、前払金や部分払いを使っても資金が足りないことを受注者が示したとき、発注者は特段の理由がない限り、工事代金の債権の譲渡を認めるとしています。※1
2. 支払条件を見直す
外注先や仕入先への支払いが、元請からの入金より先に来ていないかを確かめます。入金日の後に支払日を置ければ、立替はその分だけ減ります。ただし、自社が元請の立場で下請代金の支払いを延ばせるのは、建設業法の期日の範囲までです。
3. 融資で山の期間をまかなう
工事ごとの運転資金は、銀行の「つなぎ融資」(工事代金の入金で返す短期の融資)、信用保証協会の保証付き融資、日本政策金融公庫の融資が中心です。工事ごとの資金繰り表と請負契約書は、そのまま申込みの資料になります。公庫の申込みから送金までの流れは、日本政策金融公庫の融資で説明しています。
申し込むときは、請負契約書(または注文書)、工程表、実行予算、工事ごとの資金繰り表をそろえます。「どの工事の、いつの支払いに、いくら要り、いつの入金で返すか」が1枚で説明できると、工事の代金で返す短期の融資として話が進みやすくなります。
記入例の竣工払いの工事で、立替を全額融資でまかなったとします。仮に年3%とすると、月末の立替の合計4,110万円(60+450+1,320+2,280)に30日分の利息をかけて、約10万円です。粗利300万円の3%ほどで済みます。
4. 公共工事の代金を担保にする融資
公共工事を受けている中小・中堅の元請は、地域建設業経営強化融資制度を使えることがあります。発注者の承諾を得て工事代金の債権を譲渡し、それを担保に融資を受ける仕組みです。承諾は、出来高が2分の1以上になったと認められた日以降です。
対象は、原則として資本金20億円以下か、従業員1,500人以下の元請です。国土交通省は2026年1月30日の通知で、この制度の期限を令和8年から令和13年に延ばしました。※2
5. ファクタリングで1回だけ埋める
ファクタリングは、請求書(売掛金)を期日の前に売って現金にする方法です。工事なら、出来高の請求書や竣工後の請求書が対象です。竣工払いの工事では請求書が出るのが竣工の後なので、2〜4月の立替はファクタリングでは埋まりません。
記入例で、4月末の2,280万円を、5月末に入る3,000万円の請求書を売って埋めるとします。手数料10%なら、2,280万円を受け取るには約2,533万円分を売ることになり、手数料は約253万円です。粗利300万円の8割以上が消えます。
手数料10%・30日の実質年率は約135%です(手数料額÷手取り額÷日数×365)。出来高払いの工事で240万円の山だけを埋めるなら、手数料は約27万円です。自社の条件での手取りと年率は、手数料シミュレーターで計算できます。
注文書の段階で売る注文書ファクタリングなら、着工の前後にも使えます。まだ工事が終わっていない分、請求書より条件が厳しくなりやすい方法です。仕組みと注意点は注文書ファクタリングで説明しています。
図鑑のデータ:建設業を対象に挙げるサービス
図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、対象業種に建設業を挙げているサービスを数えました。
| 条件 | サービスの数 |
|---|---|
| 対象業種に建設業を挙げる | 17 |
| そのうち2社間(元請に知らせない型)に対応と明記 | 15 |
| そのうち3社間(元請の承諾を得て、元請から直接払ってもらう型)に対応と明記 | 12 |
| そのうち注文書で申し込めると明記 | 4 |
| (参考)197サービス全体で、注文書で申し込めると明記 | 22 |
建設業を名指しするサービスは1割に満たず、注文書で使えると書いているのはさらに少数です。業種を限らないサービスでも、工事の請求書を扱うことはあります。会社ごとの条件は、建設業のファクタリングのページで比べられます。
- まだ契約の前で、支払条件を相談できる?はい → 出来高払い・前払いを入れてもらういいえ → 次へ
- 前払金を受けられる工事(公共工事など)?はい → 前払金を受け、山の月まで残すいいえ → 次へ
- 山の月の2か月以上前に気づいた?はい → 融資(つなぎ融資・保証付き・公庫)を申し込むいいえ → 次へ
- 出来高や竣工の請求書、または注文書がある?はい → ファクタリングで1回だけ埋める(手数料を粗利と比べる)いいえ → 元請・外注先と支払日を相談する
この章の根拠(2件)
- 中央建設業審議会「建設工事標準請負契約約款の実施について」(令和元年12月20日)
- 国土交通省「地域建設業経営強化融資制度の延長について」(令和8年1月30日)
ファクタリングを使わない方がよい場合と、ほかの方法
使わない方がよい4つの場合
- 赤字の工事の穴を埋めるとき:原価が請負代金を超えている工事は、早く現金にしても穴は埋まらず、手数料の分だけ広がります。先に実行予算と出来高を比べ、追加工事の請求や変更契約を確かめます。
- 手数料が粗利に近いとき:記入例では、竣工払いの山をファクタリングで埋めると、手数料が粗利の8割を超えました。粗利率の低い工事ほど、融資か契約の見直しに回します。
- 承諾なしに売ると解除の理由になる契約のとき:建設工事の標準請負契約約款は、譲渡制限特約(債権を売るのに相手の承諾を求める約束)を残し、違反を催告なしの解除の理由にしています。特約の読み方は譲渡制限特約とはで確かめてください。
- 毎月の工事で続けて使うことになりそうなとき:山が毎月来るなら、原因は1件の工事ではなく、受注の量か支払条件にあります。融資の枠を作るか、条件の交渉に時間を使います。
※1下請代金の支払いを遅らせて山を埋めるのも、ほかの方法には入りません。元請の立場では、建設業法の期日に触れるおそれがあります。
下請・資材業者なら:下請債権保全支援事業
国土交通省の下請債権保全支援事業は、下請の建設会社や資材業者が元請に持つ債権(手形・でんさいを含む)を、ファクタリング会社が支払保証する仕組みです。2022年12月からは、金額の決まった債権を期日の前に買い取る事業も始まりました。買い取った後に元請が倒産しても、買い戻す必要はありません。※2
使えるのは、元請が経営事項審査を受けているなど、一定の要件を満たす債権です。保証の仕組みや、民間の売掛金保証との違いは売掛金保証とはにまとめています。
元請なら:前払金と保証付きの融資を先に
公共工事の元請は、前払金・中間前払金と、前の章の地域建設業経営強化融資制度が先です。民間工事の元請は、信用保証協会の保証付き融資や公庫の融資を、山の月から逆算して申し込みます。
この章の根拠(2件)
- 中央建設業審議会「建設工事標準請負契約約款の実施について」(令和元年12月20日)
- 国土交通省「下請債権保全支援事業」リーフレット(令和7年4月)
建設業の資金繰りでよくある失敗と注意点
受注が増えた月に資金が尽きる
工事が重なると、立替の山も重なります。記入例の工事を2か月後にもう1件受けると、4月末の立替は2,730万円になり、6月末にも1,980万円の山が来ます。受注を決める前に、工事ごとの表を足して、会社全体の山を確かめます。
追加工事・変更の請求を後回しにする
現場で口頭の指示のまま追加工事を進めると、代金の決め方が書面に残りません。請求が竣工の後にずれたり、減らされたりします。契約の中身を変えるときは、変更の内容を書面にして交わす決まりです。※1
元請の支払いの遅れを放っておく
期日を過ぎたら、まず書面で支払日を確かめます。そのうえで、3章の期日の決まりを示して話します。解決しないときは、建設業の許可を出した国土交通省(地方整備局)や都道府県の担当窓口に相談できます。
前払金をほかの支払いに回す
前払金で口座に余裕ができても、その工事の後半には山が来ます。記入例では、前払金1,200万円を受けても4月末に1,080万円の立替が残りました。前払金は、その工事の支払いのために残しておきます。
年度末や繁忙期の山を読み落とす
竣工が同じ時期に重なる会社では、外注費の支払いもその前後に集まります。1件ずつは小さな山でも、重なると大きくなります。年に1回、12か月分の工事を並べて、山が重なる月を確かめます。
保留金と精算の請求を忘れる
出来高払いの保留金は、竣工した後に請求して初めて入ることが多いお金です。記入例では保留金が300万円で、粗利と同じ額でした。竣工の後は次の工事に気を取られやすいので、竣工の月に保留金と追加工事の精算をまとめて請求します。
手形・でんさいの満期を入金日と取り違える
手形やでんさいで受け取ると、使えるお金になるのは満期の日です。資金繰り表には、受け取った日ではなく満期の日を書きます。期日の前に現金にすると、割引料がかかります。
受注の前に、次の8つを確かめておくと、ここまでの失敗の多くを防げます。
- 支払条件竣工払いか、出来高払いか、前払金があるか
- 出来高の査定日と締め日報告が1日遅れると入金が1か月ずれる
- 保留金何%を、竣工のいつまで残すか
- 支払手段振込か、手形・でんさいか(満期はいつか)
- 譲渡制限特約工事代金を売るのに承諾が要るか
- 追加・変更工事の決め方書面で金額を決めてから進めるか
- 外注先・仕入先への支払条件入金より先に払う月がないか
- 工期と工程出来高の割合を月ごとに置けるか
この章の根拠(1件)
- 建設業法19条2項
出典(7件)公的機関の資料・法令。2026.11.07に確認
- 建設業法(第2条・第19条・第24条の3〜第24条の6)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 建設業法施行令(第7条の2)(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 資金繰り対策(国土交通省 関東地方整備局)www.ktr.mlit.go.jp
- 取適法の概要 改正のポイント(公正取引委員会)www.jftc.go.jp
- 建設工事標準請負契約約款の実施について(令和元年12月20日 中央建設業審議会):国土交通省www.mlit.go.jp
- 地域建設業経営強化融資制度の延長について(国土交通省、令和8年1月30日)www.mlit.go.jp
- 下請債権保全支援事業(債権支払保証事業・債権買取事業)リーフレット(国土交通省、令和7年4月)www.mlit.go.jp
FAQ
よくある質問
建設業はなぜ資金繰りが厳しいのですか?
材料費・外注費・職人の給与が工事の進み具合に合わせて先に出ていき、工事代金が後から入るためです。3,000万円・工期4か月の工事の例では、竣工の翌月末払いだと、竣工の直前に2,280万円を立て替えていました。粗利300万円の7.6倍にあたります。
出来高払いとは何ですか?
その月までに仕上がった分の工事代金を、締め日ごとに払ってもらう払い方です。元請や発注者が仕上がり具合を査定し、一部を保留金として竣工まで残す契約もあります。記入例では、出来高の90%を翌月末に受け取る形にすると、最大の立替が2,280万円から240万円に下がりました。
建設業の資金繰り表のフォーマットはありますか?
公的に決まった様式はありません。工事ごとに、行に材料費・外注費・労務費・経費・入金・累計を、列に着工からの月を置いた表が使いやすい形です。原価は実際に払う月の欄に書き、累計がいちばん低い月を立替の山として読みます。工事ごとの表を足すと会社全体の表になります。
元請からの入金が遅いときはどうすればいいですか?
まず書面で支払日を確かめ、建設業法の期日を示して話します。元請は発注者から支払いを受けた日から1か月以内に下請へ払う決まりで、特定建設業者が注文者なら引渡しの申出から50日以内です。解決しないときは、許可を出した国土交通省や都道府県の窓口に相談できます。
下請への支払いはいつまでにしなければなりませんか?
元請は、発注者から出来高や完成後の支払いを受けた日から1か月以内で、できる限り短い期間に払います。元請が特定建設業者で、下請が資本金4,000万円未満の会社などなら、引渡しの申出から50日以内です。建設工事の下請は取適法ではなく建設業法の決まりです。
建設業でファクタリングは使えますか?
出来高や竣工後の請求書があれば使えます。図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、建設業を対象に挙げるのは17、注文書で申し込めると明記するのは4です。ただし竣工払いの工事は請求書が竣工後に出るため、それまでの立替は埋まりません。手数料が粗利を食わないかも確かめます。
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