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法律更新 2026.10.17

譲渡制限特約とは?2020年改正後も残る3つの制約と契約書の確かめ方

ハカセ
結論

譲渡制限特約は、売掛金をほかの人に譲らないと取引先と決めておく条項です。2020年4月の民法改正で、特約があっても譲渡は有効になりました。払う先の固定や契約違反の扱いは残るため、契約書の確かめ方と業種ごとの例外を説明します。

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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

譲渡制限特約とは?2020年改正後も残る3つの制約と契約書の確かめ方

取引先との基本契約書に「本契約から生じる債権を第三者に譲渡してはならない」と書いてある。この売掛金をファクタリングで売ってよいのか、と迷う経営者や個人事業主は少なくありません。

この条項を譲渡制限特約といいます。2020年4月の民法改正で、特約があっても売掛金を売ること自体はできるようになりました。ただ、何もかも自由になったわけではありません。この記事では、改正後も残る制約、契約書の確かめ方、業種ごとの例外を、条文と官公庁の資料に沿って説明します。

この記事を7枚で

1 / 7
取引基本契約書 第三者に 譲渡してはならない それでも売れる 2020年4月から

この記事の流れ

譲渡制限特約があっても売掛金は売れる

この記事で何がわかるの?

2020年4月の民法改正で、特約があっても売掛金の譲渡は有効になりました。ただし払う先の固定や、取引先との約束としての特約は残ります。売る前に確かめることを順に見ます。

改正前 改正後 原則として無効 譲渡は有効 預金などは例外

POINT 1

改正前は無効、改正後は有効

改正の前と後で、何が変わったの?

改正前は、特約付きの債権を売っても原則として無効でした。今は有効です。ただし預金・貯金の債権と、譲渡先を制限する記録をしたでんさいは、今も制限が効きます。

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売掛先 あなたの 会社 ファクタリング 会社 いつもの 口座に払う 受け取った 全額を送る 特約があっても2社間で回る 送金が止まると大きな問題になる

POINT 2

払う先は、いつもどおり

特約があっても、2社間で回るの?

特約を知っていた買い手には、売掛先は支払いを拒み、元の会社に払えば済みます。2社間ならあなたの会社が受け取って送る形なので、特約があっても回ります。

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2015年 基本契約 2020年4月1日 改正の施行 2026年10月 売る契約 → 改正後 見るのは「売る契約」の日

POINT 3

見るのは売る契約の日

古い契約だと、どちらの決まりになるの?

新旧どちらの決まりかは、売掛先との基本契約の日ではなく、売掛金を売る契約の日で決まります。2015年の基本契約でも、2026年に売るなら改正後の決まりです。

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法務省の考え方 契約違反に ならないことが多い 解除は権利濫用に 当たりうる 建設工事の約款 特約を残し 違反は催告なしの 解除の理由 承諾を得てから

POINT 4

建設工事は解除の理由になる

特約を破ったら、解除されるの?

法務省は、解除は権利の濫用に当たりうるとします。一方で建設工事の標準約款は、特約違反を催告なしの解除の理由にしています。工事代金は承諾を得てから売ります。

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Q1譲渡を禁じる条がある?Q2例外の相手に入る?Q3違反が解除の理由?Q4承諾を頼める?

POINT 5

売る前に4つの問いをたどる

売る前に、何を確かめればいい?

譲渡を禁じる条があるか、例外の相手に入るか、違反が解除の理由か、承諾を頼めるか。特約があることは申込みの段階で伝えます。黙って売ると表明保証の違反になりえます。

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図鑑の197サービス(2026年10月16日時点) 3社間を扱う 108 書類に契約書(138のうち) 44

POINT 6

図鑑のデータで見る

図鑑のデータからは何がわかるの?

図鑑の197サービスのうち、3社間を扱うのは108。必要書類を書く138のうち44は契約書を挙げています。特約は審査で見つかる前提で考えます。

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01

結論:特約があっても売掛金は売れる。残るのは「払う先」と「取引先との約束」

社長

契約書に「譲渡禁止」ってあるけど、売掛金は売れないの?

2020年4月からは、特約があっても譲渡は有効です。ただ、売掛先は元の会社に払えば済み、特約は取引先との約束として残ります。預金の債権など、制限が効く例外もあります。

ハカセ

先に答えをまとめます。

  • 売ること自体はできる:2020年4月1日からは、特約が付いていても売掛金の譲渡は有効です。※1 改正前は原則として無効だったので、ここがいちばん大きな変化です。
  • 払う先は元の会社のまま、が基本:特約を知っていた買い手に対して、売掛先はこれまでどおりあなたの会社に払えば済みます。※2 2社間ファクタリングは、もともとこの形で回っています。
  • 約束を破ったことは消えない:譲渡が有効でも、特約は取引先との約束として残ります。法務省は解除は権利の濫用に当たりうるとしますが、建設工事の標準約款は、特約違反を催告なしの解除の理由にしています。
  • 効き目が残る例外がある:銀行の預金・貯金の債権と、譲渡先を制限する記録をしたでんさいは、改正後も制限が効きます。
  • 古い取引でも新しい決まりが基本:新旧どちらの決まりになるかは、売掛先との契約の日ではなく、売掛金を売る契約の日で決まります。※3

この記事は、次の順に説明します。

  1. 譲渡制限特約とは何か、契約書のどこにどう書かれているか
  2. 2020年の改正で変わったこと・変わらなかったこと
  3. 2020年より前の契約に、どちらの決まりが使われるか
  4. 特約があるとき、売掛先は誰に払うか
  5. 特約を破ったら取引を切られるか(法務省の考え方・建設業・官公庁・振興基準)
  6. 売る前に契約書を確かめる5つの手順
  7. 数字で確かめる:図鑑のデータと300万円の例
  8. 使わない方がよい場合と、ほかの方法
  9. よくある失敗
この章の根拠(3件)
  1. 民法466条2項
  2. 民法466条3項
  3. 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則22条
02

譲渡制限特約とは:契約書のどこに、どう書かれているか

社長

うちの契約書のどこを見れば、特約があるとわかるの?

「権利義務の譲渡禁止」といった見出しの条で、終わりのほうに多いです。発注書の裏面や取引先の約款に入っていることもあります。書き方は全面禁止型・承諾型など4つの型に分けて読みます。

ハカセ

譲渡制限特約は、売る側と買う側が「この取引の代金を受け取る権利を、ほかの人に譲らない」と決めておく取り決めです。民法は「譲渡制限の意思表示」と呼びます。譲渡を一切禁じるものも、承諾を条件にするものも、どちらもこれに入ります。※1

「譲渡禁止特約」は、改正前によく使われた呼び名です。今の契約書でも見出しに残っていることが多く、指しているものは同じだと考えてかまいません。

売掛先が特約を入れる理由

払う側にとっては、支払先が知らない会社に替わると困ることがあります。振込先の管理が増える、二重に払う危険がある、相殺(お互いの債権と債務を差し引くこと)ができなくなる、といった心配です。特約は、もともと「払う相手を固定しておきたい」という売掛先の都合から入っています。

あなたの会社を困らせるための条項ではありません。この点は、あとで取引先に承諾を頼むときの話し方にもかかわります。

よく見る4つの書き方

特約の文面は会社ごとに違いますが、読み方は次の4つの型に分けられます。自分の契約書がどれに当たるかで、取れる手が変わります。

型 文面の例 読み方
全面禁止型 「本契約により生じる権利義務を第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない」 売ることも、融資の担保に入れることも対象になる
承諾型 「相手方の事前の書面による承諾なく、第三者に譲渡してはならない」 取引先の書面の承諾があれば、約束を破らずに売れる
例外付き型 「ただし、信用保証協会及び金融機関に対する譲渡はこの限りでない」 例外の相手が決まっている。銀行などに限る書き方なら、ファクタリング会社は入らない
違反時の定めあり 「前条に違反したときは、相手方は催告なく本契約を解除できる」 違反が解除・損害賠償の理由として書かれている。いちばん慎重に扱う

実際の契約書では、全面禁止型に違反時の定めが組み合わさっていることがよくあります。型を一つに決めつけず、関係する条をすべて読むことが大切です。

特約が入っている場所

  • 取引基本契約書・業務委託契約書:「権利義務の譲渡禁止」「譲渡等の禁止」といった見出しの条です。秘密保持や反社会的勢力の排除と並び、終わりのほうに置かれることが多いです。
  • 発注書・注文書の裏面や、注文請書に付いた取引条件書
  • 取引先の購買約款や、受発注システムの利用規約
  • 工事の請負契約書(国の標準約款をもとにしたものが多い)
  • 契約を更新したときの覚書(あとから特約が足されることがある)

「うちは契約書を交わしていない」と思っていても、発注のたびに取引先の約款に同意していることがあります。受発注システムの画面から、約款の全文を開いて確かめます。

この章の根拠(1件)
  1. 民法466条2項
03

2020年の改正で変わったこと、変わらなかったこと

社長

改正で、特約は意味がなくなったってこと?

いいえ。変わったのは譲渡の効力で、改正前は原則無効、今は有効です。払う相手の固定、取引先との約束としての特約、預金・貯金やでんさいの例外の3つは今も残ります。

ハカセ

法務省の説明資料は、改正前の問題を「譲渡制限特約が資金調達を行う際の支障になっている」とまとめています。特約付きの債権の譲渡は原則として無効だったため、売掛先が承諾しない限り売れませんでした。無効になるおそれが消えないので、売れても債権の価値が低く見られていたのです。

譲渡制限特約が付いた売掛金の扱い:改正の前と後

改正前2020年3月まで

売ったときの効力
原則として無効
特約を知っていた買い手
債権を手に入れられない
売掛先が払う相手
元の会社
資金調達への影響
承諾がなければ売れず、価値も低く見られた
預金・貯金の債権
特約が効く

改正後2020年4月1日から

売ったときの効力
有効
特約を知っていた買い手
債権は手に入るが、売掛先は支払いを拒める
売掛先が払う相手
元の会社に払えば済む(催告・供託の決まりあり)
資金調達への影響
承諾がなくても売れる。買い手は回収のしかたで工夫する
預金・貯金の債権
今も特約が効く

改正の作りは「譲渡は有効にする。そのかわり、払う相手を固定したい売掛先の期待は別の形で守る」というものです。買い手が催告したときの扱いや、供託・破産・差押えのときの決まりは、債権譲渡とは(譲渡制限特約の章)で条文ごとに説明しています。ここでは、売る側の実務にかかわる点にしぼります。

改正後も残った3つのこと

  1. 払う相手の固定:特約を知っていた買い手には、売掛先は払いを拒めます。売掛先にとっては「今までどおり、あなたの会社に払う」で済む状態が保たれています。
  2. 取引先との約束としての特約:改正は、譲渡の効力についての決まりです。特約そのものを無くしたわけではないので、破れば約束違反の問題が残りえます(特約を破ったら取引を切られるかの章)。
  3. 例外の債権:預金・貯金の債権は、特約を知っていた買い手などに特約を主張できます。※1 でんさい(電子記録債権)は民法でなく記録で決まり、譲渡先を制限する記録ができます。※2

でんさいで譲渡先が金融機関に限られている場合の見分け方は、でんさいの現金化と請求書の違いにまとめています。

「特約を知らなかった」は、ほぼ通らない

売掛先が払いを拒めるのは、買い手が特約を知っていたか、重大な過失で知らなかった場合です。※3 ファクタリング会社は、審査で取引の契約書を見ることが少なくありません。

契約書を見ていれば「知っていた」ことになり、見ずに買えば見落としが重大な過失とされるおそれがあります。売る側としては、買い手は特約を知っているものとして段取りを組むのが現実的です。

この章の根拠(3件)
  1. 民法466条の5第1項
  2. 電子記録債権法16条2項12号
  3. 民法466条3項
04

2020年より前の契約でも、新しい決まりが使われるか

社長

取引先との契約は2015年だけど、古い決まりのままなの?

基準は売掛先との契約の日ではなく、売掛金を売る契約の日です。今から結ぶファクタリング契約なら、改正後の決まりで考えて問題ありません。改正前に将来分をまとめて譲渡した契約は別です。

ハカセ

「取引先との基本契約は2015年に結んだものだから、古い決まりのままでは」と心配する人がいます。どちらの決まりが使われるかは、改正法の附則(移り変わりの決まり)が定めています。

附則は、施行日(2020年4月1日)より前に「債権の譲渡の原因である法律行為」がされた場合は、改正前の決まりによるとしています。※1 譲渡の原因である法律行為とは、売掛金を売る契約や、担保に入れる契約のことです。

つまり、基準になるのは売掛先との基本契約の日ではありません。売掛金を売る契約の日です。日付ごとに整理すると、次のようになります。

売掛先との契約 売掛金を売る契約 使われる決まり
2015年に基本契約(特約あり) 2026年10月にファクタリング契約 改正後(譲渡は有効)
2021年に基本契約(特約あり) 2026年10月にファクタリング契約 改正後(譲渡は有効)
2018年に基本契約(特約あり) 2019年に、将来3年分の売掛金をまとめて譲渡する契約 改正前(2021年に生まれた売掛金でも、原因の契約は2019年)

今から結ぶファクタリング契約なら、改正後の決まりで考えて問題ありません。気をつけたいのは3行目のように、改正前に将来の売掛金をまとめて担保に入れたり譲渡したりする契約を結び、それが続いている場合です。古い融資の担保などで心当たりがあれば、契約書を弁護士に見てもらいます。

あとから特約が足されたとき

逆の順番にも注意が要ります。将来の売掛金を先に売り、通知や承諾をすませる前に取引先が特約を足すと、買い手は特約を知っていたものとして扱われます。※2 契約の更新で覚書が届いたら、譲渡の条が足されていないかを読みます。

この章の根拠(2件)
  1. 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則22条
  2. 民法466条の6第3項
05

特約があるとき、売掛先は誰に払うか:4つの場面

社長

特約がある売掛金を売ったら、お金はどこに入るの?

2社間で知らせない場合も、売掛先が特約を理由に断った場合も、払う先はあなたの会社です。3社間で承諾があればファクタリング会社、供託されたら受け取れるのは買い手だけです。

ハカセ

売る側にとって知りたいのは「結局、お金はどこに入るのか」です。特約がある売掛金を売ったとき、場面ごとにお金の行き先は次のように変わります。

場面 売掛先が払う相手 あなたの会社がすること
① 2社間で、売掛先に知らせない あなたの会社(いつもどおり) 受け取った代金を、決めた日までにファクタリング会社へ送る
② 買い手が通知や登記をし、売掛先が特約を理由に断った あなたの会社に払えば済む ①と同じく受け取って送る。買い手が催告し、相当の期間内に払われなければ、売掛先は買い手に払う
③ 3社間で、売掛先が譲渡を承諾した 承諾した相手(ファクタリング会社) 承諾書に、特約に基づく異議を述べないことが読み取れるかを確かめる
④ 売掛先が代金を供託した 供託所(法務局) 受け取れるのは買い手だけ。あなたの会社は手続きを手伝う

表の①と②は、結果だけを見るとほぼ同じです。特約があっても2社間で回るのは、もともと2社間が「売掛先はあなたの会社に払い、あなたの会社が買い手に送る」形だからです。

特約がある売掛金を2社間で売ったときの、お金の流れ

支払日の前(売るとき)

売掛先特約あり・知らせない
取引はいつもどおり
あなたの会社
① 売掛金を売る② 手数料を引いて入金
ファクタリング会社

支払日(回収するとき)

売掛先
③ いつもの口座に代金を払う
あなたの会社
④ 受け取った全額を送る
ファクタリング会社

図の④が止まると、買い手は売掛先から直接は回収しにくい立場にあります。特約がある売掛金では、あなたの会社の送金が回収のほぼすべてです。そのぶん、ファクタリング会社は条件を慎重に決めます。

審査で特約がどう見られるか、断られたときに何を替えればよいかは、ファクタリングの審査に落ちる理由で扱っています。

売掛先が供託したとき

特約付きの金銭の債権が譲渡されると、売掛先は代金の全額を供託所に預けて支払いを終えることができます。※1 預けた売掛先は、あなたの会社と買い手の両方に知らせます。※2

供託されたお金を受け取れるのは、買い手だけです。※3 「どちらに払えばよいか分からない」と感じた売掛先が使う方法なので、届いた知らせを放っておかず、ファクタリング会社にすぐ伝えます。

あなたの会社が破産したとき

万一あなたの会社が破産すると、売掛先が破産した会社に払ったお金は、ほかの債権者への配当に回ってしまいます。そこで、全額を買い取り、通知や登記で第三者への備え(対抗要件)をすませた買い手は、売掛先に供託を求められます。※4

2社間の買い手が登記を求めることがあるのは、この備えのためでもあります。登記の中身と費用は債権譲渡登記とはで説明しています。

この章の根拠(4件)
  1. 民法466条の2第1項
  2. 民法466条の2第2項
  3. 民法466条の2第3項
  4. 民法466条の3
06

特約を破ったら、取引を切られるか

社長

特約を破ったら、取引を打ち切られない?

法務省は、打切りや解除は権利濫用等に当たりうるとしますが、条文の禁止ではありません。建設工事の標準約款は、特約違反を催告なしの解除の理由にしているので、工事代金は特に慎重に扱います。

ハカセ

売る側がいちばん気にするのは、お金の流れより「取引先にばれて、取引を打ち切られないか」です。ここは、法務省の考え方と、業界ごとの約款を分けて見る必要があります。

法務省の考え方:多くの場合、契約違反にもならない

法務省の説明資料は、改正後の解釈として次の筋道を示しています。改正で、払う相手を固定したい売掛先の期待は守られるようになった。だから、特約が払う相手を固定する目的なら、譲渡が特約の趣旨に反するとは限らない。そもそも契約違反(債務不履行)にならない、という考え方です。

さらに、譲渡されても売掛先に特段の不利益はないので、取引の打切りや解除は「極めて合理性に乏しく、権利濫用等に当たりうる」としています。ただし、これは法務省が示した解釈で、条文に書かれた禁止ではありません。争いになれば、裁判所が契約ごとに判断します。

建設工事は別:標準約款は、特約違反を解除の理由にしている

建設業では事情が違います。中央建設業審議会は、2019年12月20日に標準請負契約約款の改正を勧告し、2020年4月1日から施行しました。公共・民間・下請の約款のどれも、譲渡制限特約を残しています。

そのうえで、改正民法のもとでも特約を実際に効かせるため、違反を「無催告解除事由」として定めました。催告なしに契約を解除できる理由、という意味です。工事の代金については、法務省の解釈より約款の明文が先に問題になる、と考えておくのが安全です。

一方で、約款は資金調達のための道も用意しています。

  • 公共工事の約款:前払金や部分払を使っても工事の資金が足りないと、受注者が示したとします。そのときは特段の理由がない限り、発注者は代金債権の譲渡を認めなければならない、という条項を選べます。
  • 民間工事・下請の約款:工事のための資金調達を目的とする譲渡は特約の例外とする条項を選べます。前払や部分払があるときは、それでも足りないと示した場合に限ります。
  • どちらも、譲渡で得たお金をその工事以外に使ってはならない、という使い道の制限が付きます。使い道の制限に違反した場合も、催告なしの解除の理由です。

工事代金を売るなら、契約書が約款のどの条項を選んでいるかを確かめ、承諾の手続きを踏むのが筋です。

官公庁の契約:例外は信用保証協会と金融機関だけ、という書き方がある

国の機関の契約にも、譲渡を制限する条項が入っています。たとえば海上自衛隊が公表している特約条項の様式です。中小企業が「流動資産担保融資保証制度」を使えるときに限り、信用保証協会と金融機関への売掛金の譲渡を認めています。

認めるのは、納品の検査が終わり金額が確定した債権に限られます。この書き方では、ファクタリング会社は例外に入りません。官公庁あての請求書を売るときは、例外の相手先と手続きを先に読みます。

取引先が大きな会社なら:振興基準が「解除の申出を尊重する」と定めている

受託中小企業振興法(2026年1月に下請中小企業振興法から改称)にもとづく振興基準は、委託事業者(発注する側)がよるべき基準です。2026年6月24日の告示では、債権の譲渡について次の3つを定めています。

  1. 特約を結ぶ場合でも、信用保証協会・金融機関や、双方で適切と確認した相手先への譲渡や担保提供は禁じない内容にするよう努める。
  2. 中小受託事業者から特約の解除の申出があったら、十分尊重して対応し、申出を理由に不当に不利に扱わない。
  3. 特約を解除していなくても、求めに応じて譲渡の承諾に適切に応じるよう努める。

努力を求める基準で、守らなければ罰がある決まりではありません。それでも、取引先に承諾や解除を頼むときに「国の基準でこう書かれている」と示せる材料になります。振興基準が対象とするのは、受託中小企業振興法が定める委託事業者と中小受託事業者の取引です。

法律や基準とは別に、取引の現実として関係がぎくしゃくすることはあります。取引先に知られたときに実際に起きることと、その備えはファクタリングは取引先にバレるかで扱っています。

07

売る前に契約書を確かめる:5つの手順

社長

売る前に、契約書で何を確かめればいい?

書類を集め、「譲渡」の語で探し、型を見分け、違反したときの定めを読み、買い手に伝えて形を選ぶ、の5つです。契約書がそろっていれば1時間ほどで済みます。

ハカセ

特約があるかどうか分からないまま申し込むと、審査の途中で話が止まったり、あとで取引先ともめたりします。売る前に、次の5つの手順で確かめます。かかる時間は、契約書がそろっていれば1時間ほどです。

1. 契約書と約款を集める

売りたい請求書の取引について、もとになった書類をすべて集めます。基本契約書だけでなく、個別の発注書や注文請書、取引先の購買約款もです。基本契約書と発注書の条件が食い違うときは、どちらが優先するかを決めた条があるはずなので、それも探します。

2. 「譲渡」の語で探す

PDFなら「譲渡」で検索します。紙なら目次や見出しで「権利義務」「譲渡」「担保」を探します。「担保に供する」「質権を設定する」も同じ条に入っていることが多く、融資の担保に使うときにかかわります。

3. 型を見分ける

見つけた条を、4つの書き方のどれに当たるかで分けます。承諾型なら、承諾をもらえば約束を破らずに売れます。例外付き型なら、例外の相手にファクタリング会社が入る書き方かを読みます。

4. 違反したときの定めを読む

解除の条には「次の各号のいずれかに該当したときは、催告なく解除できる」といった形が多く見られます。その号に、譲渡の禁止への違反が挙がっていないかを見ます。損害賠償や違約金の条も同じように確かめます。ここに明記があると、法務省の解釈だけを頼りに進めるのは危うくなります。

5. 買い手に伝えて、形を選ぶ

特約があることは、申込みの段階でファクタリング会社に伝えます。ファクタリングの契約書には、たいてい「譲渡を妨げる事情がない」と約束する条(表明保証)があるからです。黙って売ると、その条に違反するおそれがあります。契約書のどこを見ればよいかは、ファクタリングの契約書で確かめる箇所にまとめています。

そのうえで、次の問いをたどって進め方を決めます。

特約がある売掛金をどう扱うか:4つの問い
  1. 契約書や約款に、譲渡を禁止・制限する条がある?はい → 次へいいえ → 特約の問題はない。通常の手続きへ
  2. ファクタリング会社が、例外の相手先に入る書き方か?はい → 例外の条件と手続きを満たして進めるいいえ → 次へ
  3. 特約違反が、解除や損害賠償の理由として明記されている?はい → 承諾を得てから売るか、ほかの方法を先に考えるいいえ → 次へ
  4. 取引先に、譲渡の承諾を頼める関係か?はい → 承諾を得て3社間で進めるいいえ → 特約があると伝えたうえで2社間を相談する。断られたら別の請求書に替える

承諾を頼むときに伝えること

承諾を頼むときは、目的・対象・相手をはっきり伝えます。「資金繰りのため、○月分の請求書1枚を、△△社に譲渡したい。支払日や振込額は変わらない(または振込先だけ変わる)」という形です。

取引先の心配は「払う相手が分からなくなること」なので、そこに答えると話が進みやすくなります。承諾書の書き方や、3社間での手続きの流れは2社間と3社間の違い(承諾の章)にあります。

08

数字で確かめる:図鑑のデータと、300万円の売掛金の例

社長

特約があるって、審査でばれるものなの?

図鑑の197サービスでは、必要書類を書く138のうち44が契約書を挙げています。見つかる前提で考えるべきです。300万円の例では、2社間なら特約があっても手取りの入り方は同じでした。

ハカセ

図鑑のデータ:特約にかかわる3つの項目

図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)の公式サイトから、特約がある売掛金を売るときにかかわる項目を数えました。

  • 3社間を扱うと明記:108サービス(197の54.8%)。取引先の承諾をもらえれば、承諾を前提とした3社間を選べる会社は半数を超えます。
  • 必要書類に「契約書」を挙げる:必要書類を公式サイトに書いている138サービスのうち44(31.9%)。そのうち13は「基本契約書」と名指ししています。
  • 債権譲渡登記の扱い:「原則必要」が11、「場合による」が21、「原則不要」「不要」が合わせて46、書いていないのが119でした。
債権譲渡登記の扱いの書き方(図鑑の197サービス、2026年10月16日時点)
  1. 原則必要11
  2. 場合による21
  3. 原則不要・不要46
  4. 書いていない119

登記を求めることがある求めないと明記記載なし

この数字からわかることは2つです。1つは、契約書を書類として求める会社が3分の1ほどあり、特約は審査の場で見つかる前提で考えるべきだということです。もう1つは、登記を求めることがある会社が32(16.2%)あり、2社間でも買い手が破産などへの備えをすることがある点です。

登記を求めない会社が特約に寛容だ、という意味ではありません。書いていない会社も多いので、特約があるときの扱いは申込みの前に直接たずねます。図鑑の各社のページでも、2社間・3社間や登記の扱いを確かめられます。

300万円の売掛金で見る:お金はどこに、いつ入るか

特約付きの売掛金300万円(支払日は11月30日)を、10月20日に2社間で売った例で考えます。手数料は計算を分かりやすくするための仮の数字で30万円、手取りは270万円とします。

場面 10月20日 11月30日の300万円の行き先 あなたの会社の手元
① 売掛先に知らせない 270万円が入金 あなたの会社 → 同じ日に買い手へ300万円を送る 270万円(先に受け取った分)
② 売掛先が特約を理由に買い手への支払いを断った 270万円が入金 あなたの会社 → 買い手へ300万円を送る 270万円(①と同じ)
③ 売掛先が供託した 270万円が入金 供託所 → 受け取れるのは買い手だけ 270万円(追加の入金はない)
④ 受け取った300万円を送らなかった 270万円が入金 あなたの会社に残る 契約違反となり、300万円の支払いを求められる

①〜③では、あなたの会社の手元に残るお金は変わりません。特約があっても、売る側の損得は「送るべきお金を送るか」で決まるということです。危ないのは④で、特約のせいで買い手が売掛先から回収しにくいぶん、送金しないことの責任は重く問われます。

手数料を年率に直して高いかどうかを見るなら、手取りと実質年率のシミュレーターに金額と日数を入れて確かめます。

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使わない方がよい場合と、ほかの方法

社長

特約があるとき、ファクタリング以外に手はある?

特約の解除や承諾を頼む、支払日の前倒しを頼む、特約のない別の取引先の請求書を売る、などです。違反が催告なしの解除の理由と明記され、承諾がない契約では使わない方がよいです。

ハカセ

ファクタリングを使わない方がよい場合

  • 違反が催告なしの解除の理由と明記された契約で、承諾をもらっていないとき。建設工事の標準約款を使った工事代金が代表例です。
  • 官公庁の契約で、例外の相手が信用保証協会と金融機関に限られているとき
  • 売上の大半がその取引先で、関係が悪くなると事業が続かないとき
  • でんさいで、譲渡先を金融機関に限る記録がされているとき
  • 2社間で売ったあと、受け取った代金を期日に送れる見通しが立たないとき

ほかの方法

  1. 特約の解除か、譲渡の承諾を頼む:振興基準は、発注する側に解除の申出を尊重するよう求めています。承諾がもらえれば、約束を破らずに売れます。
  2. 公共工事なら、前払金や部分払を先に使う:それでも足りないと示せば、約款によっては発注者が譲渡を認める流れがあります。
  3. 支払日の前倒しを頼む:取引先が早く払ってくれれば、手数料もかかりません。特約に触れずにすむ方法です。
  4. 売掛金を担保にした融資(ABL)を使う:ただし「担保に供してはならない」とある特約なら、こちらも解除や承諾が要ります。仕組みと手順は売掛債権担保融資(ABL)とはにあります。
  5. 特約のない別の取引先の請求書を売る:同じ時期に複数の請求書があるなら、いちばん手堅い方法です。

どれが合うか迷うときは、資金調達診断で今の状況に近い方法を絞り込めます。

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よくある失敗・注意点

社長

特約のことで、やりがちな失敗ってある?

改正前の説明を読んであきらめる、逆に違反時の定めを読まずに売る、特約を買い手に黙っておく、などです。2社間で受け取った代金をほかの支払いに使うのも大きな問題になります。

ハカセ

失敗1:改正前の説明を読んで、売れないとあきらめる

2020年より前に書かれた記事や本には「譲渡禁止特約があると譲渡は無効」とあります。今から結ぶ契約には当てはまりません。記事の書かれた時期と、改正への言及があるかを確かめます。

失敗2:「改正で自由になった」と思い、違反時の定めを読まない

反対に、譲渡が有効になったことだけを覚えて、解除の条を読まずに売るのも危険です。とくに建設工事の契約は、特約違反を解除の理由に定めていることがあります。5つの手順の4つめを飛ばさないようにします。

失敗3:特約があることを買い手に言わない

言えば断られると考えて黙っていても、契約書を出せば分かります。あとで分かると、表明保証の違反として、契約の解除や損害の賠償を求められるおそれがあります。最初から伝えて、扱える会社を探すほうが早く進みます。

失敗4:2社間で受け取った代金を、ほかの支払いに使ってしまう

特約がある売掛金では、買い手が売掛先から直接回収する道が細くなります。あなたの会社が送金を遅らせると、それだけで大きな問題になります。期日に送るお金は、別の口座に分けておくと間違いが起きにくくなります。

失敗5:契約の更新で足された特約に気づかない

毎年の更新で、取引先が新しい契約書のひな形に切り替えることがあります。前の契約に特約がなくても、新しい契約に入っていることがあります。更新のたびに、譲渡の条を確かめる習慣をつけます。

失敗6:承諾の範囲を確かめずに、ほかの請求書も売る

取引先が承諾したのは「この1枚を、この会社に」だけかもしれません。承諾書の対象(請求書の番号・金額・譲受人)を読み、範囲の外の請求書を売るときは、改めて承諾をもらいます。

出典(8件)公的機関の資料・法令。2026.10.17に確認
  1. 民法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
  2. 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)条文:法務省www.moj.go.jp
  3. 民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-:法務省www.moj.go.jp
  4. 公共工事標準請負契約約款の実施について(令和元年12月20日 中央建設業審議会):国土交通省www.mlit.go.jp
  5. 建設工事標準請負契約約款の実施について(令和元年12月20日 中央建設業審議会):国土交通省www.mlit.go.jp
  6. 振興基準(令和8年6月24日 経済産業省告示):中小企業庁www.chusho.meti.go.jp
  7. 債権譲渡制限の部分的解除のための特約条項(様式):海上自衛隊www.mod.go.jp
  8. 電子記録債権法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp

FAQ

よくある質問

譲渡制限特約と譲渡禁止特約は違いますか?

指しているものは同じです。民法は、債権の譲渡を禁止したり制限したりする取り決めをまとめて「譲渡制限の意思表示」と呼びます。譲渡禁止特約は改正前によく使われた呼び名で、今の契約書の見出しにも残っています。全面的に禁じる書き方も、取引先の承諾を条件にする書き方も、どちらもこれに当たります。

譲渡制限特約があってもファクタリングはできますか?

できます。2020年4月1日からは、特約があっても売掛金の譲渡は有効です。ただし特約を知っていた買い手に対して、売掛先は支払いを拒み、元の会社に払って済ませられます。そのため2社間で、あなたの会社が受け取った代金を買い手に送る形が基本になります。扱いは会社ごとに違うので、申込みの段階で特約があると伝えます。

特約に違反して売掛金を売ると、取引を解除されますか?

法務省は、特約が払う相手を固定する目的なら譲渡は契約違反にならず、解除は権利の濫用に当たりうるという解釈を示しています。ただし条文ではなく解釈です。建設工事の標準約款のように、特約違反を催告なしの解除の理由と明記した契約もあります。契約書の解除の条を読み、明記があれば承諾を得てから売ります。

2020年4月より前に結んだ契約の売掛金にも、改正後の決まりが使われますか?

使われるのが基本です。改正法の附則は、売掛金を売る契約など「譲渡の原因である法律行為」が2020年4月1日より前なら改正前の決まりによるとしています。基準は売掛先との基本契約の日ではありません。2015年の基本契約の売掛金でも、2026年に結ぶファクタリング契約なら改正後の決まりです。

3社間ファクタリングなら譲渡制限特約は問題になりませんか?

3社間は売掛先が譲渡を承諾する形なので、承諾がもらえれば約束を破らずに売れます。売掛先は承諾した相手に払います。ただし承諾の範囲は請求書や譲受人ごとに限られていることがあります。承諾書の対象を読み、特約にもとづく異議を述べないことが読み取れるかを確かめます。範囲の外の請求書は改めて承諾をもらいます。

建設業の工事代金に譲渡制限特約がある場合はどうすればよいですか?

国の標準請負契約約款は特約を残し、違反を催告なしの解除の理由にしています。承諾を得ずに売るのは避けます。公共工事の約款では、前払金や部分払でも資金が足りないと示せば、特段の理由がない限り発注者が譲渡を認める条項を選べます。民間・下請の約款にも資金調達目的の譲渡を認める条項があり、どちらも使い道は工事に限られます。

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