契約更新 2026.10.17
売掛債権担保融資(ABL)とは?借りられる額・費用とファクタリングの違い
売掛債権担保融資(ABL)は、売掛金や在庫を担保に入れて金融機関から借りる融資です。売らないので返済があり、借りられる額は担保の額に掛目を掛けて決まります。登記・保証料・費用とファクタリングとの違いを計算例で説明します。
初めての方へファクタリングを使う前に知る5つのこと・申込みから入金まで →
フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

売掛金や在庫はたくさんあるのに、担保にできる土地や建物がない。そのため銀行から思うように借りられない。こうした会社のための借り方が「売掛債権担保融資」、英語の略でABLと呼ばれる方法です。
この記事は、売掛金や在庫を持つ中小企業の経営者に向けて書いています。ABLの仕組み、担保になる資産、借りられる額の決まり方、登記、保証料と金利、ファクタリングとの違いを、金融庁・法務省・信用保証協会の公表資料と計算例で説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:ABLは売掛金や在庫を「担保に入れて借りる」融資。売らないので返済がある
ABLって、ファクタリングと何が違うの?
ABLは売掛金や在庫を担保に入れて借りる融資です。売らないので返済があります。借りられる額は担保の額×掛目で決まり、1か月以上先を見て資金を手当てできる会社に向きます。
売掛債権担保融資(ABL)の要点は、次の5つです。
- 売るのではなく、担保に入れて借りる:金融庁は、ABLを「企業が保有する『在庫』や『売掛金』などを担保とする融資手法」と説明しています。売掛金の持ち主は自社のままで、借りたお金は期日に返します。
- 借りられる額は「担保の額×掛目」:掛目(かけめ。担保の額のうち、貸す額の目安にする割合)は資産ごとに決まります。東京信用保証協会の制度では、売掛金が70〜100%、在庫は原則30%です。
- 担保を入れたことは、登記や通知で示す:売掛金は売掛先の承諾・売掛先への通知・債権譲渡登記のどれか、在庫は動産譲渡登記を使います。登記なら、売掛先にすぐ知らせずに進められます。
- 費用は利息と保証料が中心:信用保証協会の保証を付ける「ABL保証」では、東京の制度の保証料率は年0.68%です。金利は金融機関が決めます。
- 借りたあとも報告が続く:売掛金の残高や在庫の量を、決まった間隔で金融機関に報告します。手間はかかりますが、そのぶん不動産がなくても借りやすくなります。
向いているのは、売掛金や在庫が毎月一定以上あり、1か月以上先を見て資金を手当てできる会社です。今週の支払いに足りない、という場面で間に合う方法ではありません。
この記事は、次の順で説明します。
- ABLの仕組み:お金の流れと、担保に入れる方法
- 担保になる資産と、借りられる額の決まり方
- 登記と通知:取引先に知られるか
- ABL保証(流動資産担保融資保証制度)の条件と手順
- 金利と費用:何にいくらかかるか
- 数字で確かめる:借りられる額と、60日使ったときの費用
- ファクタリングとの違いと、選び方
- ABLが向かない場合と、ほかの方法
- よくある失敗と注意点(2025年の新しい法律を含む)
売掛債権担保融資(ABL):売掛金の持ち主は自社のまま
2社間ファクタリング(比べるため):売掛金そのものを売る
売掛債権担保融資(ABL)の仕組み:担保に入れても、売掛金も在庫も使い続けられる
担保に入れたら、在庫はもう売れなくなるの?
いいえ。譲渡担保という形で入れるので、在庫は手元に置いたまま使ったり売ったりできます。売掛金の代金も、ふだんは自社が受け取って事業に回します。そのかわり、状況の報告が続きます。
ABLは「Asset Based Lending」の略で、日本語では「動産・売掛金担保融資」や「動産・債権担保融資」と呼ばれます。動産(どうさん)は、土地や建物以外の物のことで、在庫商品や機械設備が当たります。※1
なぜ不動産ではなく、売掛金や在庫なのか
金融庁が2013年に示した資料では、地域金融機関の融資の担保は9割超が不動産でした。一方で、国内の企業が持つ在庫と売掛金は合わせて297兆円で、土地の186兆円を上回っていました(2011年度の財務省「法人企業統計調査」)。
つまり、多くの会社は担保に使えるはずの資産を寝かせたままでした。ABLは、この売掛金や在庫を担保に使い、不動産がない会社でも借りられる枠を広げる考え方です。金融庁は、借りる側には資金調達の枠が広がり、金融機関には会社の経営の実態をつかみやすくなる効果があるとしています。
担保の入れ方は「譲渡担保」
ABLでは、多くの場合「譲渡担保(じょうとたんぽ)」という形で担保を入れます。借りたお金を返すことを保証する目的で、形のうえでは売掛金や在庫を金融機関に譲り渡す方法です。法務省は、経済的な中身は担保、法律の形は譲渡だと説明しています。
譲渡担保には、ふつうの質入れと違う点があります。質権は物を相手に預けますが、譲渡担保では自社が在庫を手元に置いたまま、使ったり売ったりできます。倉庫の在庫をまとめて担保にする「集合動産譲渡担保」なら、出荷で減った分は担保から外れ、新しく仕入れた分に担保が及びます。
売掛金も同じ考え方です。今ある売掛金だけでなく、これから発生する売掛金までまとめて担保にする「集合債権譲渡担保」があります。ふだんは自社が売掛先から代金を受け取り、事業に回します。
ふつうの融資と違うのは「担保を見続ける」こと
不動産担保の融資では、担保の価値は年に何度も変わりません。売掛金や在庫は毎月入れ替わるので、金融機関は担保の中身を見続ける必要があります。金融庁も、借り手は在庫や売掛金の状況を金融機関に定期的に報告する必要があると案内しています。
この報告が、ABLの手間であり特徴でもあります。売掛金の入金や在庫の動きを毎月見せることで、金融機関は決算書だけでは見えない商売の流れを知ります。業績が一時的に悪くても、取引の中身が健全なら借りやすくなる、というのがABLの考え方です。
この章の根拠(1件)
- 金融庁「ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的活用について」2013年2月5日
担保になる資産と、借りられる額の決まり方:掛目で決まる
担保の額がそのまま借りられるわけじゃないの?
担保の額に掛目を掛けた額が上限です。東京信用保証協会のABL保証では、売掛金が70〜100%、在庫は原則30%です。在庫は値段が決まらないぶん、掛目が低くなります。
担保になる資産
ABLで担保になる主なものは、次の3つです。
| 資産 | 具体例 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 売掛金(売掛債権) | 商品の売掛金、運送料、工事の請負代金、サービスの代金、診療報酬など | 取引の契約に譲渡を制限する特約があると、解除が必要になることがある |
| 在庫(棚卸資産) | 仕入れた商品、製品、仕掛品、原材料 | 保険の制度を使うABL保証では法人に限られる。動産譲渡登記ができる物に限られる |
| 機械設備など | 機械設備、家畜など | 金融機関の独自の融資で扱われることがある。ABL保証の対象は売掛金と在庫だけ |
表のうち、売掛金と在庫の欄は東京信用保証協会の「流動資産担保融資保証制度」の案内に沿っています。ABL保証は売掛金と在庫だけを担保にでき、どちらか一方だけでも使えます。※1機械設備や家畜は、法務省が動産譲渡登記の対象として挙げる例です。
借りられる額=担保の額×掛目
担保の額がそのまま借りられるわけではありません。売掛先が払えなくなる、在庫が値下がりする、といった危険を見込んで、担保の額に掛目を掛けた額が借りられる額の上限になります。
| 担保 | 東京信用保証協会のABL保証の掛目 | 2013年に金融庁が示した標準的な掛け目 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 70〜100%(上限)。売掛先ごとに審査で決める | 評価額の80% |
| 在庫 | 原則30%(70%を上限に引き上げ可能) | 評価額の70%(動産担保) |
売掛金の掛目が高いのは、期日に払われる金額が決まっているからです。在庫は売れるまで値段が決まらず、処分するときには安くなりやすいので、掛目は低くなります。
金融庁の数字は、当時の金融検査マニュアル(金融機関を検査するときの手引き)に書かれた目安です。マニュアルは2019年12月に廃止され、今は各金融機関が自分で掛目を決めています。※2同じ売掛金でも、金融機関によって掛目は違うと考えておきます。
掛目を左右するもの
金融庁が2013年に出したABLのFAQでは、売掛金を担保として扱うための確認点として、次のようなものを挙げています。
- 対抗要件(第三者に担保を主張するための手続き)がきちんと備わっているか
- 売掛先の信用力を判断する情報を、必要なときに手に入れられるか
- 売掛先の財務の状況や入金の状況を、続けて見ているか
- 貸倒れ(売掛金が回収できなくなること)の割合を、筋道を立てて見積もれるか
在庫については、数量と品質を続けて確かめていること、客観的な方法で評価していること、売って現金にする手段があること、が挙がっています。借りる側から見ると、売掛先の支払い実績がはっきりしていて、在庫の量と値段を説明できる会社ほど、掛目が高くなりやすいということです。
譲渡を制限する特約があるとき
取引先との契約に「売掛金を他人に譲渡してはいけない」という特約があることがあります。2020年4月の民法の改正で、特約があっても売掛金の譲渡そのものは有効になりました。※3
ただし、東京信用保証協会のABL保証の案内では、契約に譲渡を制限する特約がある場合は、特約の解除などが必要としています。借りる前に、主な取引先との契約書を読み直しておきます。特約の扱いの詳しい説明は債権譲渡とは(対抗要件と譲渡制限特約)にまとめています。
この章の根拠(3件)
- 中小企業信用保険法3条の4
- 金融庁「金融レポート」2019年版
- 民法466条2項
登記と通知:ABLで取引先に知られるか
担保に入れたこと、取引先にばれちゃう?
売掛金は承諾・通知・債権譲渡登記のどれかで、登記なら売掛先にすぐ知らせずに進められます。ただ、登記の概要は誰でも証明書を取って確かめられます。登記は法人だけが使えます。
担保に入れた売掛金や在庫について、金融機関は「この担保は自分のものだ」と、ほかの債権者に主張できるようにしておく必要があります。そのための手続きを対抗要件の具備といい、資産によって方法が違います。
| 担保 | 方法 | 取引先が知るか |
|---|---|---|
| 売掛金 | 売掛先から承諾書をもらう | 知る(承諾してもらう) |
| 売掛先に通知書を送る | 知る(通知が届く) | |
| 法務局に債権譲渡登記をする(法人のみ) | 登記の時点では知らせない。金融機関が必要と判断したときに通知することがある | |
| 在庫 | 法務局に動産譲渡登記をする(法人のみ) | 仕入先や売掛先に通知は届かない |
東京信用保証協会のABL保証では、売掛金について承諾・通知・登記のどれにするかを、売掛先ごとに先に選びます。在庫の場合は動産譲渡登記です。手続きは保証が決まった後、借りる前に行います。
動産譲渡登記とは
動産譲渡登記は、法人が在庫や機械設備を譲渡したことを、国の登記で公示する制度です。2005年10月に始まりました。登記をすると、民法上の「引渡し」があったものとみなされます。※1
在庫を手元に置いたままの譲渡担保は、外から見えません。法務省は、登記を使えば、後から同じ在庫を担保に取ろうとする人との争いを防げ、争いになったときも証明が楽になると説明しています。登記の窓口は東京法務局の動産登録課です。
- 使えるのは法人だけ:動産譲渡登記も債権譲渡登記も、譲渡する側が法人の場合に限られます。個人事業主は使えません。
- 登録免許税は1件7,500円:動産譲渡登記、債権譲渡登記(債権が5,000個以下)とも、国に納める税は1件7,500円です。司法書士に頼むと報酬が別にかかります。
- 存続期間は原則10年まで:動産譲渡登記の存続期間は10年を超えられません(特別の事由がある場合を除く)。※2
登記の概要(どの会社が、誰に、いつ譲渡の登記をしたか)は、誰でも証明書を取って確かめられます。取引先や同業者が調べれば、登記があることは分かります。債権譲渡登記の費用・見える範囲・消し方は債権譲渡登記とは(費用・誰に見られるか)で詳しく説明しています。
登記のあと、売掛先に通知が届くとき
東京信用保証協会の案内には、債権譲渡登記をした場合に、金融機関が必要と判断したときは売掛先へ通知することがある、と書かれています。返済が滞ったときなどです。協会は、登記や通知によって取引の中止などのトラブルが起きても責任を負わないとしています。
通知が届くと、売掛先はその後、金融機関に代金を払うことになります。返済の予定がずれそうなときは、通知が出る前に金融機関へ相談するのが基本です。
この章の根拠(2件)
- 動産・債権譲渡特例法3条1項
- 動産・債権譲渡特例法7条3項
ABL保証(流動資産担保融資保証制度)の条件と手順
信用保証協会のABL保証って、どんな条件なの?
東京の場合、限度額2億円・保証割合80%・保証料率0.68%です。くり返し借りられる根保証と、1件ごとの個別保証があり、根保証では3か月に1回以上の報告が続きます。
中小企業がABLを使うとき、入口になりやすいのが信用保証協会の「流動資産担保融資保証制度」です。売掛金や在庫を担保にして金融機関から借りるときに、協会が保証を付けます。法律では、この保証の保険について、中小企業1社あたり2億円が上限と定めています。※1
条件は協会ごとに決まります。ここでは、東京信用保証協会の案内(2024年4月版)を例にします。保証の限度額2億円、保証割合80%、保証料率0.68%は、売掛金を早く現金にする方法の比較でも触れています。この記事では、借りる側の手間と義務に絞って見ます。
根保証と個別保証
- 根保証(ABL1):借入限度額を決め、その範囲でくり返し借りられます。形式は当座貸越で、保証期間は1年(更新で延長可)です。在庫を担保にするときは、この形だけです。
- 個別保証(ABL2):1件の取引ごとに保証します。形式は手形貸付で、期間は1年以内、期日に一括で返します。売掛先からの入金は、原則として金融機関名義の口座に振り込んでもらい、返済に充てます。
根保証は、協会と覚書を結んでいる金融機関からの申込みに限られます。売掛金と在庫の両方を毎月回して使いたいなら根保証、特定の大口の売掛金で一度だけ借りたいなら個別保証、という使い分けになります。
- 取引のある金融機関に申し込む借入・手形割引・でんさい割引・当座取引のある金融機関が窓口
- 金融機関の審査自社の決算と、売掛先・在庫の中身を見る
- 保証協会の審査協会も自社・売掛先・在庫を審査する
- 借入限度額が決まる売掛金や在庫の額に掛目を掛けた額
- 対抗要件を備える承諾・通知・債権譲渡登記、在庫は動産譲渡登記
- 借りる・報告を続ける根保証は3か月に1回以上、残高などを報告
申込みに追加で必要な書類
ふつうの保証の申込書類に加えて、担保の中身を確かめる書類が要ります。売掛金は目に見えない担保なので、取引が本当にあることを書類で示します。
- 担保にする売掛先の明細書(協会所定の書式)
- 売掛先との取引の内容と実績を示すもの:取引基本契約書、発注書、納品書・請求書、支払通知書、入金のある口座の通帳
- 登記を使う場合は、登記の概要記録事項証明書(債権譲渡登記・動産譲渡登記)
- 在庫を担保にする場合、掛売り以外の売上があるときは、在庫の売上代金の入金口座の届出書
借りたあとに続く義務
ABL保証には、借りたあとの決まりがいくつかあります。ここを読まずに申し込むと、あとで手間に驚くことになります。
- 根保証では、担保の売掛金の残高や在庫の種類・数量を、3か月に1回以上金融機関に報告する
- 在庫を担保にした場合は、1年に1回以上、金融機関の立会いで在庫の状態を確かめてもらう
- 売掛金や在庫の売上代金が入る口座を、金融機関に届け出る
- 金融機関が必要と判断すれば、新しい貸越を一時止めたり、回収口座からの出金を止めたりできる
- 金融機関は、担保の管理の対価として担保管理手数料を取ることができる
保証の仕組みそのもの(保証料の決まり方、責任共有制度、返せなくなったときの代位弁済)は信用保証協会とは(保証付き融資の仕組みと保証料)で説明しています。
この章の根拠(1件)
- 中小企業信用保険法3条の4第1項
ABLの金利と費用:何にいくらかかるか
かかるお金は利息だけ?
保証料、登録免許税、司法書士の報酬、担保管理手数料もかかることがあります。利息と担保管理手数料は金融機関しだいなので、申し込む前に見積もりを書面でもらいます。
ABLの費用は、利息だけではありません。払うお金を種類ごとに並べると、次のようになります。
| 費用 | 額の決まり方 | 公表されている例 |
|---|---|---|
| 利息 | 金融機関が決める(ABL保証でも「金融機関所定利率」) | ABLとしての公的な平均の統計は見当たらない |
| 保証料 | 保証協会の制度で決まる | 東京信用保証協会のABL保証は一律年0.68% |
| 登録免許税 | 法律で決まる | 動産譲渡登記・債権譲渡登記(債権5,000個以下)とも1件7,500円 |
| 司法書士の報酬 | 事務所ごとに違う | 登記を頼む場合にかかる |
| 担保管理手数料 | 金融機関が決める | ABL保証の案内に「徴収することができる」とある |
表から分かるのは、利息と担保管理の手数料は金融機関しだいということです。申し込む前に、金利だけでなく、担保管理手数料や登記の費用を誰が持つかを、見積もりとして書面でもらいます。
ABLだけの金利の統計は、公的には公表されていません。この記事の計算では、説明のために年2.0%と仮に置きます。実際の金利は、借りる金融機関に確かめてください。
費用を「年率」で見る
融資とファクタリングの費用を比べるときは、どちらも年率に直すと比べやすくなります。このサイトでは、ファクタリングの実質年率を「手数料額÷手取り額÷入金までの日数×365」で計算します。たとえば手数料10%・30日なら、10÷90÷30×365で約135%です。
融資の場合は、利息・保証料・登記の費用を合わせた額を、借りた額と日数で割って同じように年率にします。手数料率と年率の関係や早見表はファクタリング手数料の計算と実質年率にあります。
数字で確かめる:借りられる額と、60日使ったときの費用
実際、いくら借りられて、いくらかかるの?
売掛金3,000万円・在庫2,000万円の例では、借りられる額は2,900万円でした。2,000万円を60日使うと、ABL保証付きは約10.3万円、手数料5%のファクタリングは100万円です。
架空の会社で計算します。数字はすべて build/stats/abl.py で出しています。掛目と金利は仮に置いた値で、実際には金融機関と協会の審査で決まります。
例1:売掛金3,000万円・在庫2,000万円の会社が借りられる額
部品の卸売をする法人です。売掛先は2社で、在庫が倉庫にあります。掛目は、東京信用保証協会の案内の範囲(売掛金70〜100%、在庫は原則30%)から置きました。
| 担保 | 額 | 掛目(仮定) | 借りられる額 |
|---|---|---|---|
| 売掛先A(長い取引・支払いの遅れなし) | 2,000万円 | 80% | 1,600万円 |
| 売掛先B(取引2年目) | 1,000万円 | 70% | 700万円 |
| 在庫(製品・原材料) | 2,000万円 | 30% | 600万円 |
| 合計 | 5,000万円 | ― | 2,900万円 |
担保の額5,000万円に対して、借りられる額は2,900万円で、58%です。在庫は額が大きくても、掛目が低いので枠を大きく増やしません。ABL保証では、この2,900万円のうち80%の2,320万円を協会が保証し、残りの580万円は金融機関が危険を負います。
参考までに、2013年に金融庁が示した標準的な掛け目(売掛金80%・動産70%)で置くと、枠は3,800万円になります。在庫の掛目を30%と見るか70%と見るかで、枠は900万円違います。在庫を担保にするときは、掛目を最初に確かめます。
例2:2,000万円を60日使ったときの費用をファクタリングと比べる
例1の会社が、仕入れの支払いのために2,000万円を60日だけ使う場合です。ABLは、年2.0%(仮定)の利息、保証料0.68%、債権譲渡登記と動産譲渡登記の登録免許税を1件ずつ入れました。保証料は、借りた額と日数で単純に計算しています(実際の計算方法は協会と保証の形で違います)。
| 方法 | 60日の費用 | 年率に直すと |
|---|---|---|
| ABL保証付きの融資(利息65,753円+保証料22,356円+登録免許税15,000円) | 約10.3万円 | 約3.1% |
| ファクタリング(2,000万円の売掛金、手数料2%と仮定) | 40万円 | 約12.4% |
| ファクタリング(手数料5%と仮定) | 100万円 | 約32.0% |
| ファクタリング(手数料10%と仮定) | 200万円 | 約67.6% |
ファクタリングの年率は、手数料5%・60日なら100÷1,900÷60×365で約32.0%です。同じ式で、手数料2%・60日なら約12.4%、手数料10%・60日なら約67.6%になります。司法書士の報酬や担保管理手数料はABLの側に入れていないので、ABLの費用は実際にはもう少し増えます。
ABL(借りる)ファクタリング(売る)
手数料5%と比べると、ABLの費用はおよそ10分の1です。1か月以上前から準備でき、審査と報告の手間を受け入れられるなら、費用ではABLが有利です。その代わり、ABLは借入なので、売掛先が払えなかったときも自社が返します。
図鑑のデータ:ファクタリング会社の上限額と登記の扱い
図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、公式サイトに買取額の上限を書いているのは81サービスです。そのうち1億円以上が43、2億円以上が12でした。上限が高い会社はありますが、毎月数千万円を続けて回すなら、枠を決めてくり返し借りられるABLの根保証の方が、費用の面で向いています。
登記の扱いを公式サイトに書いているのは78サービスで、「原則必要」が11、「場合による」が21、「原則不要」が33、「不要」が13でした。ファクタリングでも登記を使うことはありますが、ABLでは在庫を担保にするなら動産譲渡登記が前提になります。
ファクタリングとの違いと、どちらを選ぶかの判断
結局、ABLとファクタリングはどう選べばいい?
急ぎの資金にはファクタリング、くり返し使う運転資金にはABL、と分けると整理しやすくなります。ABLは借入なので、売掛先が倒産しても自社の返済は残ります。
ABLとファクタリングは、どちらも売掛金を使ってお金を作る方法です。違いを項目ごとに並べます。
| 項目 | ABL(売掛金・在庫を担保に借りる) | ファクタリング(売掛金を売る) |
|---|---|---|
| 取引の性質 | 融資(借入) | 売買(債権の譲渡) |
| 返す必要 | ある。売掛先が払わなくても返す | 償還請求権なしの契約なら、売掛先が払えなくても買い戻さない |
| 決算書 | 借入金が増える | 売掛金が減り、現金が増える |
| 使える資産 | 売掛金・在庫(金融機関によっては機械も) | 売掛金(請求書)だけ |
| 入金までの目安 | 審査と登記を経るので週〜月単位 | 2社間なら当日〜数日のことが多い |
| 費用 | 利息・保証料・登記費用など | 手数料(年率では高くなりやすい) |
| 使ったあと | 残高や在庫の定期的な報告 | 期日に代金を渡せば終わり |
いちばん大きな違いは、売掛先が払えなかったときに誰が損をかぶるかです。ABLは借入なので、売掛先が倒産しても自社の返済は残ります。ファクタリングで償還請求権(売掛先が払わなかったときに、利用者が買い戻す義務)がない契約なら、その損は買い取った会社が負います。
もう一つは時間です。ABLは金融機関と協会の審査、登記、口座の届出を経てから借ります。急ぎの資金にはファクタリング、くり返し使う運転資金にはABL、と分けて考えると整理しやすくなります。仕組みの全体はファクタリングとはで説明しています。
- お金が必要になるのは1か月以上先か?はい → ABLや保証付き融資を取引銀行に相談できるいいえ → ファクタリングや支払いの相談を先に
- 自社は法人か?はい → 売掛金も在庫も担保にできるいいえ(個人事業主) → 登記が使えない。在庫を担保にするABL保証も対象外
- 売掛金や在庫は毎月ほぼ同じだけあるか?はい → 根保証の枠をくり返し使えるいいえ → 大口の取引だけ個別保証か、その都度の売却
- 3か月ごとの報告や在庫の立会いを続けられるか?はい → ABLが候補いいえ → 担保を使わない保証付き融資か、ファクタリング
- 売掛先が払えなくなる心配が大きいか?はい → 償還請求権なしのファクタリングで危険を外に出す方法もあるいいえ → 費用の軽いABLが有利
ABLが向かない場合と、ほかの方法
ABLを使わないほうがいいのは、どんなとき?
支払いが1〜2週間後に迫っているとき、売掛金も在庫も少ないとき、個人事業主のときなどです。担保を使わない保証付き融資や支払先への相談を先に考えます。
ABLは、売掛金や在庫が多い会社には便利です。ただ、次の場合は別の方法を先に検討します。
支払いが1〜2週間後に迫っている
ABLは、審査に加えて担保の書類集めと登記があるため、急ぎには向きません。足りない額と期日を確かめ、支払先への相談、税や社会保険料の猶予、ファクタリングなどの順で手を打ちます。対処の順番は資金繰りが苦しいときの対処の順番にまとめています。
売掛金も在庫も少ない、または毎月大きく変わる
担保の額が小さいと、掛目を掛けた枠も小さくなり、登記や報告の手間に見合いません。この場合は、担保を使わないふつうの保証付き融資や、日本政策金融公庫の融資の方が、手続きが少なく済みます。
個人事業主である
債権譲渡登記も動産譲渡登記も法人しか使えません。売掛金を担保にすること自体は、売掛先の承諾や通知でできますが、取引先に知られます。東京信用保証協会のABL保証では、在庫を担保にできるのは法人だけです。
取引先に担保のことを知られたくない、登記を残したくない
登記なら通知は後回しにできますが、登記の概要は誰でも確かめられます。在庫の動産譲渡登記は最長で原則10年残ります。担保を使わない借り方か、取引先の承諾をもらう3社間のファクタリングなど、隠さずに済む方法の方が、後の心配は少なくなります。
ほかの方法の早見
| 状況 | 先に考える方法 |
|---|---|
| 来週の支払いに足りない | 支払先との交渉、ファクタリング、税・社会保険料の猶予 |
| 1〜2か月先の資金、担保は使いたくない | 信用保証協会の保証付き融資、日本政策金融公庫の融資 |
| 手形やでんさいで代金を受け取っている | 手形割引・でんさいの割引 |
| 売掛金も在庫も多く、毎月回したい | ABL(根保証)、当座貸越の枠 |
どの方法が合うか迷うときは、資金調達診断で、急ぎの度合いと金額から候補を絞れます。
よくある失敗と注意点
ABLでやりがちな失敗って何?
担保の額=借りられる額と思い込む、担保にした売掛金をファクタリングにも出す、報告を後回しにする、などです。2025年に成立した譲渡担保法も、契約の前に確かめておきます。
1. 担保の額=借りられる額だと思い込む
例1のとおり、5,000万円の担保で借りられるのは2,900万円でした。とくに在庫は掛目が低く、思ったほど枠が増えないことがあります。資金計画は掛目を掛けた額で立てます。
2. 担保にした売掛金の代金を、別の口座で受け取る
ABL保証では、売上代金が入る口座を金融機関に届け出ます。個別保証では、原則として金融機関名義の口座に振り込んでもらい、返済に充てます。取引先に別の口座を案内したままにすると、担保の管理ができず、契約違反になりかねません。
3. 同じ売掛金を、ファクタリングにも出してしまう
ABLで担保に入れた売掛金を、別にファクタリング会社へ売ると、同じ売掛金を二重に使うことになります。担保の権利と買った権利のどちらが優先するかは、登記や通知の先後で決まるため、金融機関とファクタリング会社の間で大きなトラブルになります。ABLを使っている間は、担保の範囲(どの売掛先の、いつからの売掛金か)を台帳で管理します。
4. 報告を後回しにする
根保証では3か月に1回以上の報告が決まりです。報告が遅れたり、在庫の数が帳簿と合わなかったりすると、金融機関は新しい貸越を止めることができます。在庫の棚卸しを毎月の作業にしておくと、報告が楽になります。
5. 登記の存続期間と抹消を確かめない
返し終わっても、登記は自動では消えません。存続期間を何年にするか、返し終えたら抹消するか、その費用を誰が持つかを、契約の時点で確かめます。
6. 2025年の新しい法律を知らずに契約する
2025年5月30日に「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保法)が成立し、6月6日に公布されました。これまで判例に任されていた譲渡担保のルールを、初めて法律に書いたものです。施行は公布から2年6か月以内の、政令で定める日です。
- 在庫を使い続けられることを明記:担保を入れた側が在庫を使い、通常の範囲で売れること、売掛金を取り立てられることが条文になります。
- 登記した担保が優先:外から見えない「占有改定」による担保は、登記された担保に負けるようになります。登記の重みが増します。
- 実行まで2週間の猶予:返せなくなって担保を実行されるとき、原則として通知から2週間たつまで実行が終わらない決まりができます。立て直しの手続きを考える時間です。
- 動産譲渡登記の存続期間が20年に:関係する法律の整備で、今の10年から20年に延びます。
今ABLを使っている会社も、施行日の発表を確かめておきます。また、事業全体を担保にする「企業価値担保権」が2026年5月25日に始まりました。金融庁は、不動産担保や経営者保証に過度に頼らず、事業の将来性に着目した融資を後押しする制度としています。売掛金や在庫だけでなく、事業そのものを評価してもらう道も増えています。
最後に、ABLは「借りる」方法なので、返す計画が前提です。売掛金の入金予定と返済の予定を、資金繰り表で月ごとに並べてから申し込みます。そのうえで、取引のある金融機関に「売掛金と在庫を担保に使えるか」と相談するのが、最初の一歩です。
出典(16件)公的機関の資料・法令。2026.10.17に確認
- 金融庁:ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的活用について(2013年2月5日)www.fsa.go.jp
- 金融庁:ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的活用について(別紙1)www.fsa.go.jp
- 金融庁:金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)別編《ABL編》www.fsa.go.jp
- 金融庁:中小企業等の皆様へ(ABLを検討してみませんか?)www.fsa.go.jp
- 金融庁:金融レポート(2019事務年度)第3部第8章www.fsa.go.jp
- 東京信用保証協会:流動資産担保融資保証制度(ABL)のご案内(2024年4月)www.cgc-tokyo.or.jp
- 中小企業信用保険法|e-Gov法令検索laws.e-gov.go.jp
- 法務省:動産譲渡登記制度の概要www.moj.go.jp
- 法務省:(動産譲渡登記)第2 登記申請の手続www.moj.go.jp
- 法務省:(動産譲渡登記)Q&Awww.moj.go.jp
- 法務省:(債権譲渡登記等)添付書面・登録免許税www.moj.go.jp
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律|e-Gov法令検索laws.e-gov.go.jp
- 民法|e-Gov法令検索laws.e-gov.go.jp
- 法務省:譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について(2025年6月)www.moj.go.jp
- 法務省:譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律について(2025年6月)www.moj.go.jp
- 金融庁:事業性融資の推進(企業価値担保権等)www.fsa.go.jp
FAQ
よくある質問
売掛債権担保融資(ABL)とは何ですか?
売掛金や在庫などを担保にして、金融機関から借りる融資です。金融庁は「企業が保有する在庫や売掛金などを担保とする融資手法」と説明しています。売掛金を売るファクタリングと違い、借入なので期日に返済があります。不動産を持たない会社でも借りられる枠を広げる方法として、国が活用を後押ししてきました。
ABLで借りられる額はどう決まりますか?
担保の額に掛目を掛けた額が上限です。東京信用保証協会のABL保証では、掛目は売掛金が70〜100%、在庫は原則30%(70%まで引き上げ可能)です。売掛金3,000万円と在庫2,000万円の会社なら、掛目の置き方によって借りられる額は2,900万円ほどで、担保の額の6割弱にとどまる計算になります。
ABLとファクタリングの違いは何ですか?
ABLは売掛金を担保にして借りる融資で、売掛先が払わなくても自社が返します。ファクタリングは売掛金を売る取引で、償還請求権なしの契約なら売掛先が払えなくても買い戻しません。ABLは審査と登記を経るので週〜月単位の時間がかかりますが、2,000万円を60日使う計算例では費用は約10.3万円で、手数料5%のファクタリングの100万円より軽くなりました。
ABLを使うと取引先に知られますか?
売掛金の担保は、売掛先の承諾・通知・債権譲渡登記のどれかで手続きします。承諾と通知は取引先が知ります。登記なら最初は知らせずに進められますが、登記の概要は誰でも確かめられ、返済が滞ったときなどには金融機関が売掛先へ通知することがあります。在庫の動産譲渡登記では、取引先に通知は届きません。
個人事業主でもABLは使えますか?
売掛金を担保にすること自体は、売掛先の承諾や通知を使えばできます。ただし、債権譲渡登記と動産譲渡登記は法人しか使えないため、取引先に知らせずに進めることはできません。東京信用保証協会のABL保証でも、在庫を担保にできるのは法人だけです。個人事業主は、担保を使わない保証付き融資なども比べて選びます。
ABL保証の保証料や限度額はいくらですか?
条件は信用保証協会ごとに決まります。東京信用保証協会の流動資産担保融資保証制度では、保証の限度額は2億円、保証割合は80%、保証料率は一律年0.68%で、保証人は不要です。金利は金融機関が決めます。借りたあとは、根保証の場合、売掛金の残高や在庫の量を3か月に1回以上報告する決まりがあります。
READ NEXT
あわせて読みたい
「契約」の記事から すべて見る →
NEXT
あなたの条件で、使える会社を探す
業種・状況・入金の期限・金額の9つの質問に答えると、使える方法と会社を理由つきで返します。会員登録はいりません。