法律更新 2026.10.18
債権譲渡とは?対抗要件の通知・承諾・登記と二重譲渡の優劣、特約の扱い
債権譲渡とは、お金を払ってもらう権利を中身を変えずに別の人へ移すことで、債務者の同意なしにできます。民法466条以下の決まり、譲渡制限特約、対抗要件の通知・承諾・登記、二重譲渡の優劣、通知が届いたときの対応を説明します。
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フファクタリング図鑑編集部(執筆)・公開 2026.10.17

債権譲渡とは、「お金を払ってもらう権利」を、中身を変えずに別の人へ移すことです。売掛金を売るファクタリングも、売掛金を担保にする融資も、法律の上ではこの債権譲渡を使っています。
この記事は、売掛金の譲渡を考えている経営者や、取引先から債権譲渡の通知を受け取った会社に向けて書きました。民法の決まり、譲渡制限特約、対抗要件(通知・承諾・登記)、二重譲渡の優劣、払う側の対応を、条文と最高裁の判断に沿って説明します。
この記事を7枚で
1 / 7結論:債権譲渡は自由にできる。争いを避ける鍵は「対抗要件」
売掛金って、取引先の同意がなくても人に譲れるの?
原則は自由で、債務者の同意がなくても譲渡できます。金額も期日もそのままで、変わるのは受け取る人だけ。ただ、誰に対して主張できるかは対抗要件をそなえたかで決まります。
債権譲渡の要点は、次の4つです。
- 原則は自由:債権は、債務者(払う人)の同意がなくても譲渡できます。取引先との契約に「譲渡してはならない」という特約があっても、2020年4月からは譲渡そのものは有効です。
- 中身は変わらない:金額も支払期日もそのままです。債務者は、元の債権者に言えた事情(値引きの合意や相殺など)を、決まった時点までのものなら新しい債権者にも言えます。
- 対抗要件がいる:譲渡を債務者や他人に主張するには、元の債権者からの通知か、債務者の承諾が必要です。債務者以外に主張するには、確定日付のある証書(日付を公的に証明した書面)か、法人なら登記が要ります。
- 二重譲渡は届いた順:同じ債権が2人に譲渡されたら、確定日付のある通知が届いた日時などの早い方が優先します。
つまり、譲渡は契約だけで成り立ちますが、誰に対して主張できるかは、対抗要件をそなえたかで決まります。ファクタリング会社が承諾書や登記を求めるのも、このためです。
この記事は、次の順で説明します。
- 債権譲渡の意味と、変わること・変わらないこと
- 譲渡できる債権と、できない債権
- 譲渡制限特約があるときの決まり
- 対抗要件(通知・承諾・確定日付・登記)
- 二重譲渡の優劣
- 債務者が新しい債権者に言えること(抗弁と相殺)
- 通知を受け取った会社がやること
- 登記統計と実費で見る債権譲渡
- よくある失敗と、使わない方がよい場合
売掛金を譲渡したとき
債権譲渡の意味:誰が何を移し、何が変わらないのか
債権譲渡って、そもそも何が移るの?
移るのは「お金を受け取る人」だけです。金額・支払期日・支払方法は元の契約のまま。譲渡の契約は譲渡人と譲受人の2者で結び、債務者は当事者ではありません。
債権とは、特定の人に「お金を払って」「物を渡して」と求められる権利です。事業でいちばん身近なのは、商品やサービスの代金を後で受け取る権利、つまり売掛金です。
債権譲渡には、3者が登場します。
| 呼び方 | 立場 | 売掛金の例 |
|---|---|---|
| 譲渡人(じょうとにん) | 債権を譲り渡す元の債権者 | 売掛金を持つあなたの会社 |
| 譲受人(ゆずりうけにん) | 債権を譲り受ける新しい債権者 | ファクタリング会社、銀行、債権回収会社 |
| 債務者 | お金を払う人 | 売掛先(取引先) |
譲渡の契約は、譲渡人と譲受人の2者で結びます。債務者は契約の当事者ではありません。債権は原則として自由に譲り渡せると、民法が定めているからです。※1
変わるのは「受け取る人」だけ
債権譲渡で変わるのは、お金を受け取る人だけです。金額・支払期日・支払方法は、元の契約のままです。債務者から見ると、払う相手が替わるだけで、負担は増えも減りもしません。
ここが、似た言葉との違いです。
- 債務引受:払う人の側が替わる(または加わる)こと。債権譲渡とは逆向きです。
- 更改:古い債権を消して、新しい債権を作ること。中身が変わります。
- 差押え:裁判所の手続きで、債権者の意思と関係なく取り立てる権利が移ること。
何のために使われるか
法務省の民法改正の説明資料は、債権譲渡の目的として、支払期日より前にお金に換えることと、担保にすることを挙げています。中小企業が今ある売掛金や将来の売掛金をもとに資金を調達する手段として、期待されているとも書いています。※2
- 売買:売掛金を売って、期日より前に代金を受け取る。ファクタリングがこれにあたります。
- 担保:融資を受ける代わりに売掛金を担保として譲渡し、返済が滞ったときだけ貸し手が取り立てる(譲渡担保)。
- 回収の委託・整理:回収の難しい債権を、債権回収会社に売る。
個人でも法人でも譲渡できる
民法の債権譲渡は、個人事業主・フリーランスでも法人でもできます。違いが出るのは対抗要件で、法人だけが債権譲渡登記を使えます。個人が債務者以外への対抗要件をそなえるには、確定日付のある通知か承諾、つまり債務者に知らせる方法しかありません。
ファクタリングの仕組みとお金の流れの全体は、ファクタリングとはで説明しています。
この章の根拠(2件)
- 民法466条1項
- 法務省「債権譲渡に関する見直し」
譲渡できる債権・できない債権:民法466条と将来の債権
まだ請求書を出していない売掛金も売れるの?
譲渡できます。来月から1年間の分をまとめて、ということもできます。ただし、一度譲渡した将来の分はもう自分のものではありません。後で別の会社に売ると二重譲渡になります。
民法は「債権は、譲り渡すことができる」と定めたうえで、例外を置いています。※1
譲渡できない債権
- 性質上、譲渡できないもの:誰が受け取るかに意味がある債権です。たとえば「特定の人に肖像画を描いてもらう権利」は、相手が替わると中身が変わってしまいます。
- 法律が譲渡を禁じているもの:国民年金の給付を受ける権利は、譲り渡すことも担保にすることもできません。※2
事業の売掛金・請負代金・業務委託料は、お金を払ってもらう債権なので、ふつうは譲渡できます。
まだ発生していない債権も譲渡できる
債権の譲渡は、その時点で債権が発生していなくてもできます。後で債権が発生すれば、譲受人は当然にその債権を取得します。※3
「来月から1年間に、この取引先に対して発生する売掛金」のように、将来の分をまとめて譲渡することもできるということです。法務省の資料も、継続して受注している下請会社が、今後1年間に発生する請負代金を担保に融資を受ける例を挙げています。
ここで注意したいのは、将来の分を一度譲渡すると、その分はもう自分のものではないことです。後で同じ月の売掛金を別の会社に売ると、二重譲渡になります。他社への乗り換えや併用で、どの請求書が誰のものかを整理する手順は、ファクタリングの乗り換えで二重譲渡にならない手順にまとめています。
譲渡する債権は特定できるように書く
将来の債権まで含めて譲渡するときは、「どの債務者に対する」「いつからいつまでに発生する」「どの取引から生じる」債権かを、契約書で特定します。範囲があいまいだと、どの請求書が譲渡されたのかで争いになります。ファクタリングの契約書では、「譲渡債権の表示」や「譲渡債権目録」の欄に書かれます。署名する前に、自分が考えている範囲より広くなっていないかを確かめます。
この章の根拠(3件)
- 民法466条1項
- 国民年金法24条
- 民法466条の6第1項・2項
譲渡制限特約があるとき:2020年の民法改正後の決まり
契約書に「譲渡禁止」とあったら、もう売れないの?
2020年4月からは、特約があっても譲渡そのものは有効です。ただ、特約を知っていた譲受人には、債務者は支払いを拒み、元の債権者に払って済ませられます。
取引先との契約書に「本契約から生じる債権を、相手方の承諾なく第三者に譲渡してはならない」と書かれていることがあります。これを譲渡制限特約といいます。
法務省の説明資料によると、改正前は、この特約が付いた債権の譲渡は原則として無効でした。債務者が承諾しないために譲渡できず、債権の価値が低く見られることが、資金調達の妨げになっていました。2020年4月1日に施行された改正民法は、ここを次のように変えました。
1. 特約があっても、譲渡は有効
譲渡制限特約があっても、債権の譲渡はその効力を妨げられません。※1債権は譲受人のものになります。
2. 特約を知っていた譲受人には、債務者は支払いを拒める
ただし、特約を知っていた、または重い不注意で知らなかった譲受人に対しては、債務者は支払いを拒めます。元の債権者に払えば、それで債務は消えます。※2債務者の「払う相手を固定したい」という期待は、形を変えて守られているわけです。
3. 債務者がどちらにも払わないときは、譲受人が催促できる
債務者が誰にも払わない場合、譲受人は相当の期間を決めて「元の債権者に払ってください」と催促できます。その期間内に払われなければ、債務者は譲受人に払わなければなりません。※3
4. 債務者は供託できる。元の債権者が破産したら譲受人が供託を求められる
特約付きの金銭債権が譲渡されたとき、債務者は全額を供託所(法務局)に預けて、債務を済ませることができます。供託したお金を受け取れるのは、譲受人だけです。※4
また、元の債権者が破産したときは、全額を譲り受けて対抗要件をそなえた譲受人は、特約を知っていても、債務者に全額の供託を求められます。※5破産した会社に払われたお金が、ほかの債権者への配当に回ってしまうのを防ぐ決まりです。
例外:預金と、差押え
将来の債権を譲渡した後に、特約が付いたら
将来の債権を譲渡した後、対抗要件をそなえる前に債務者との間で特約が結ばれると、譲受人は特約を知っていたものとして扱われます。※8将来分を譲渡するなら、早めに対抗要件をそなえることが、譲受人を守ることになります。
特約を破って譲渡したことで、取引先が取引を打ち切れるかについて、法務省の資料は「極めて合理性に乏しく、権利濫用等に当たりうる」との解釈を示しています。取引先に知られたときに実際に起きることは、ファクタリングは取引先にバレるかで扱っています。
契約書のどこに特約があるか、2020年より前の契約にどちらの決まりが使われるかは、譲渡制限特約とはで説明しています。
この章の根拠(8件)
- 民法466条2項
- 民法466条3項
- 民法466条4項
- 民法466条の2
- 民法466条の3
- 民法466条の5
- 民法466条の4第1項
- 民法466条の6第3項
対抗要件とは:債務者への主張と、それ以外の人への主張
「対抗要件」って、何のこと?
譲渡を他人に主張するための条件で、2段階あります。債務者には通知か承諾で足ります。それ以外の人に主張するには、内容証明などの確定日付のある証書か、法人なら債権譲渡登記が要ります。
対抗要件とは、権利を手に入れたことを、他人に主張するための条件です。債権譲渡では、主張する相手によって条件が2段階になっています。
| 主張する相手 | 必要なこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 債務者(払う人) | 譲渡人からの通知、または債務者の承諾 | 民法467条1項 |
| 債務者以外の第三者(二重に譲り受けた人、差し押さえた人など) | 上の通知・承諾を、確定日付のある証書で行う | 民法467条2項 |
| 同上(法人が金銭債権を譲渡した場合) | 債権譲渡登記でもよい | 動産・債権譲渡特例法4条1項 |
表のとおり、債務者に主張するだけなら通知か承諾で足ります。ほかの人と争いになったときに勝つには、日付を公的に証明できる形が要ります。
通知は「元の債権者」が出す
民法の通知は、譲渡人が債務者にするものと定められています。※1譲受人が「債権を譲り受けました」と知らせるだけでは、民法の通知になりません。誰でも「譲り受けた」と名乗れてしまうので、元の債権者から知らせることにしているのです。
承諾は、債務者が「譲渡を認めます」と表すことです。3社間ファクタリングで売掛先に承諾書をもらうのは、この承諾を得るためです。2社間と3社間の違いは2社間と3社間の違いで説明しています。
確定日付のある証書とは
確定日付とは、その日にその文書があったことを、変えられない形で証明する日付です。民法施行法は、確定日付のある証書になる場合を決めています。※2実務でよく使うのは次の2つです。
- 内容証明郵便:郵便局が「いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに出したか」を証明します。郵便認証司が認証した日付が確定日付になります。配達証明を付けると、届いた日も証明されます。
- 公証役場の確定日付:承諾書などの私文書に、公証役場で日付印を押してもらいます。手数料は1件700円です。電子文書(PDFなど)に付ける電子確定日付もあります。
通知は内容証明で送り、承諾は承諾書に確定日付を付けてもらう、という組み合わせが基本です。
通知書・承諾書に書くこと
通知書や承諾書には、どの債権がいつ誰に移ったのかを、読んだ人が取り違えない程度に書きます。
- 当事者:譲渡人・譲受人・債務者の名称と所在地
- 債権の特定:取引の名前、請求書の番号、金額、支払期日(将来の分なら、対象の期間と取引)
- 譲渡の日と、今後の支払先(譲受人の口座)
- 差出人:通知なら譲渡人の記名押印、承諾なら債務者の記名押印
内容証明では、同じ文面の写し(謄本)を差出人と郵便局が保管します。謄本には字数・行数の決まりがあるので、出す前に日本郵便の条件を確かめます。インターネットで24時間受け付けるe内容証明もあります。
法人なら登記でもよい
法人が金銭債権を譲渡し、債権譲渡登記をすると、債務者以外の第三者には、確定日付のある通知があったものとみなされます。登記の日付が確定日付になります。※3債務者に知らせずに、第三者への対抗要件だけをそなえられるのが特徴です。
ただし、登記だけでは債務者には主張できません。債務者に主張するには、譲渡人か譲受人が登記事項証明書を渡して通知するか、債務者が承諾する必要があります。※4譲渡人が個人(個人事業主・フリーランス)の場合は、この登記は使えません。登記の費用・記録される内容・消し方は債権譲渡登記とはで詳しく扱っています。
そのまま使える通知書のひな形と、内容証明の字数の決まりに合わせた組み方・費用は、債権譲渡通知書の書き方とひな形にまとめています。
この章の根拠(4件)
- 民法467条1項
- 民法施行法5条
- 動産・債権譲渡特例法4条1項
- 動産・債権譲渡特例法4条2項
二重譲渡の優劣:確定日付の日付ではなく「届いた日時」で決まる
同じ売掛金が2社に売られたら、どっちが勝つの?
確定日付のある通知が債務者に届いた日時か、承諾の日時の早い方です。内容証明の日付が早くても、後に届いた方が負けます。
同じ債権が2人に譲渡されることを、二重譲渡といいます。譲渡人の資金繰りが苦しいときや、将来の債権をまとめて譲渡していたことを忘れていたときに起こります。
最高裁の基準:通知が届いた日時か、承諾の日時
最高裁は、債権が二重に譲渡された場合、譲受人どうしの優劣は「確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時の先後」で決めるとしています。※1
大事なのは、証書に書かれた確定日付の早さではなく、債務者に届いた日時で比べることです。例で見てみます。
| 譲受人 | 内容証明の日付 | 債務者に届いた日時 |
|---|---|---|
| B社 | 6月1日 | 6月3日 午前10時 |
| C社 | 6月2日 | 6月2日 午後4時(窓口で手渡し) |
内容証明の日付はB社が早いですが、債務者に先に届いたのはC社です。この場合、優先するのはC社です。なお、この判決は、確定日付を受けた譲渡証書をその日のうちに短い時間で債務者に渡した場合も、確定日付のある通知と認めています。
登記と通知が競合したら
法務省は、登記事項証明書を付けた通知と、民法の確定日付のある通知がぶつかった場合、証明書に書かれた登記の日時と、民法の通知が届いた日時の先後で優劣を決めると説明しています。登記どうしなら、登記の日時の先後です。
一方だけがそなえている場合、先後がわからない場合
- 一方だけがそなえている:そなえた方が優先します。先に契約したかどうかは関係ありません。
- 先後がわからない:最高裁は、差押えの通知と確定日付のある譲渡通知の届いた先後がわからない事件で、両者は互いに「自分が優先する」と主張できないとしました。債務者が供託した場合は、それぞれの債権額に応じて分けて受け取ります。※2
- どちらか一方だけが、確定日付のある通知・承諾か登記をそなえている?はい → そなえた方が優先いいえ → 次へ
- 両方とも確定日付のある通知・承諾か登記をそなえている?はい → 次へいいえ(どちらも無い) → どちらも相手に優先を主張できない
- 通知が届いた日時・承諾の日時・登記の日時に、先後がつく?はい → いちばん早い方が優先(証書の日付ではなく、届いた日時で比べる)いいえ(先後不明) → 互いに優先を主張できない。供託されれば債権額に応じて分ける
負けた譲受人は、債務者からは回収できません。代わりに、二重に譲渡した譲渡人に、代金の返還や損害の賠償を求めることになります。だまして代金を受け取った場合は、刑事の責任を問われるおそれもあります。
この章の根拠(2件)
- 最高裁昭和49年3月7日判決
- 最高裁平成5年3月30日判決
債務者は新しい債権者に何を言えるか:抗弁と相殺
取引先と値引きの約束をしていたら、どうなるの?
通知が届くまでに生じた事情は、譲受人にも主張できます。200万円の売掛金でも、通知の前に20万円の値引きで合意していれば、譲受人が受け取れるのは180万円です。
債権譲渡で債務者が不利にならないよう、民法は、債務者が元の債権者に言えたことを、新しい債権者にも言えるようにしています。基準になるのは「対抗要件具備時」、つまり通知が届いた時か承諾した時です。
抗弁:通知の前に生じた事情は、譲受人にも主張できる
債務者は、対抗要件具備時までに元の債権者に対して生じた事由を、譲受人に主張できます。※1たとえば次のような事情です。
- 納品した商品に不具合があり、通知の前に値引きで合意していた
- 一部をすでに元の債権者に払っていた
- 元の契約が取り消されたり、解除されたりした
例:200万円の売掛金を譲渡したが、通知が届く前に、売掛先と不具合による20万円の値引きで合意していた。この場合、売掛先は譲受人にも値引きを主張でき、譲受人が受け取れるのは180万円です。
相殺:通知の前に持っていた反対の債権なら、相殺できる
債務者は、対抗要件具備時より前に取得した、元の債権者に対する債権で相殺し、それを譲受人に主張できます。※2後に取得した債権でも、具備時より前の原因に基づくものや、譲渡された債権と同じ契約から生じたものなら、同じく相殺できます。※3
売掛先に対して買掛金もある会社は、売掛金を譲渡しても、売掛先から相殺されて譲受人への入金が減ることがあります。ファクタリングで売掛金が目減りしたとき、誰がその分を負担するかは、契約の償還請求権の定めによります(償還請求権とは)。
登記だけのときは、基準の時点が後ろにずれる
債権譲渡登記だけで対抗要件をそなえた場合、抗弁と相殺の基準になるのは、登記をした時ではありません。登記事項証明書を渡した通知か、債務者の承諾がされた時です。※4登記の後も、債務者が知らされるまでは、元の債権者との間で生じた事情を主張できるということです。
この章の根拠(4件)
- 民法468条1項
- 民法469条1項
- 民法469条2項
- 動産・債権譲渡特例法4条3項
債権譲渡の通知が届いたら:支払う側がやること
うちに譲渡の通知が届いたら、何をすればいい?
差出人と書類を確かめ、通知に書かれた番号ではなく手元の連絡先で取引先に確認してから支払先を変えます。通知が2通届いてどちらが正しいかわからないときは、供託も考えます。
取引先から「当社の貴社に対する売掛金を、〇〇社に譲渡しました」という通知が届くことがあります。払う側が気をつけたいのは、間違った相手に払って、二重に払う羽目になることです。
- 当日差出人と書類を確かめる譲渡人(元の取引先)からの通知か。登記事項証明書が付いているか
- 当日〜翌日元の取引先に電話で確かめる通知に書かれた番号ではなく、手元の連絡先にかける
- 支払日前支払先を変える社内手続き支払先の登録を変え、経理と担当者に伝える
- 支払日前相殺・値引きの有無を整理する通知より前に生じた事情は、新しい債権者にも主張できる
- 迷ったら供託を考える通知が2通届き、どちらが正しいかわからないときなど
1. 差出人と書類を確かめる
民法の通知は、元の債権者(譲渡人)が出すものです。譲受人だけの名前で届いた場合は、登記事項証明書が付いているかを見ます。証明書の付いた通知なら、譲受人から送られても有効です。※1どちらでもなければ、それだけで支払先を変える必要はありません。
2. 元の取引先に、手元の連絡先で確かめる
通知に書かれた電話番号ではなく、これまで使ってきた担当者の番号にかけて、譲渡が本当かを確かめます。振込先を変えさせる詐欺もあるので、口座の名義が譲受人と一致するかも見ます。
3. 支払先を変える
正しい通知が届いた後に元の取引先に払っても、原則として譲受人には「払った」と主張できません(譲渡制限特約があり、譲受人がそれを知っていた場合などを除く)。支払先の登録を変え、経理と発注の担当者に伝えます。金額と支払期日は変わりません。
4. 相殺・値引きの有無を整理する
通知が届いた時点までに生じた値引きの合意や、相手に対する債権があれば、記録を残しておきます。前の章のとおり、これらは譲受人にも主張できます。
5. 通知が2通届いたら、迷わず確かめてから払う
同じ売掛金について、別々の譲受人から通知が届いたら、二重譲渡の可能性があります。届いた日時のわかる記録(封筒・配達の記録・受付印)を保管し、優先する方に払います。
後れて対抗要件をそなえた譲受人に払ってしまった場合について、最高裁は、払った債務者に過失がないと言えるのは、その譲受人を本当の債権者と信じたことに相当な理由があるときに限ると、厳しく判断しています。※2※3
どちらが本当の債権者かを、過失なくしてわからないときは、供託所に供託して債務を済ませる方法があります。※4判断に迷う場合は、弁護士に相談してから動きます。
この章の根拠(4件)
- 動産・債権譲渡特例法4条2項
- 最高裁昭和61年4月11日判決
- 民法478条
- 民法494条2項
数字で確かめる:登記の件数と、対抗要件をそなえる実費
債権譲渡って、実際どれくらい使われているの?
債権譲渡の登記は、2021年の1万3,210件から2025年は2万6,181件に増えました。ただ、ファクタリング・担保・流動化のどれに使われたかは統計からわかりません。
債権譲渡の登記は、2021年から2025年で約2倍
法務省の登記統計で、債権譲渡登記のうち「債権譲渡」の登記の件数を見ると、2021年の1万3,210件から、2025年は2万6,181件に増えています。4年で約1.98倍、2025年は前年より17.1%増えました。
2023年以降(増えている時期)2022年まで
2022年までは1万3,000〜1万6,000件の間で横ばいでした。増え始めたのは2023年からで、2023年から2025年の2年間で9,459件(56.6%)増えています。
この統計には、注意して読みたい点が2つあります。
- 1件に多くの債権が入る:2025年に登記された債権の個数は5,574万6,019個で、1件あたり平均約2,129個です。1件の登記に多くの債権をまとめて記録できるためで、件数と個数は分けて読みます。
- 目的はわからない:統計からは、ファクタリング・融資の担保・債権の流動化のどれに使われたかは区別できません。件数の増加を、そのままファクタリングの増加と読むことはできません。
対抗要件をそなえる実費
民法の方法でそなえる場合の実費を、日本郵便と日本公証人連合会の公表額で計算しました。
| 方法 | 内訳 | 1社あたり |
|---|---|---|
| 内容証明で通知(1枚・配達証明付き) | 定形郵便110円+一般書留480円+内容証明480円+配達証明350円 | 1,420円 |
| 同(2枚) | 2枚目以降は1枚290円増 | 1,710円 |
| 承諾書に確定日付 | 公証役場の手数料 | 700円 |
売掛先が3社あれば、内容証明(1枚)で4,260円、確定日付で2,100円です。民法の方法は安く済みますが、債務者に知らせることが前提です。知らせずにそなえる登記は、登録免許税や司法書士の報酬がかかります(金額は債権譲渡登記の費用)。
図鑑のデータ:3社間を扱うサービスは108
図鑑に載せている197サービス(2026年10月16日時点)のうち、2社間(売掛先に知らせない形)を扱うと明記しているのは146サービス、3社間(売掛先の承諾を得る形)を扱うと明記しているのは108サービスでした。両方を扱うのは91サービス、3社間だけは17サービスです。
3社間では、売掛先の承諾(または通知)という民法の対抗要件をそなえます。2社間では、登記をするか、対抗要件をそなえないまま買い取るかのどちらかになります。条件で会社を絞り込むときはファクタリング会社の一覧が使えます。
よくある失敗・注意点と、債権譲渡を使わない方がよい場合
やってしまいがちな失敗って何?
譲受人の名前だけで通知を出す、承諾書に確定日付を付けない、将来分をまとめて譲渡したのを忘れる、などです。毎月の不足を埋めるために続けて譲渡すると、手数料の分だけ入金が減り不足が続きます。
よくある失敗
- 譲受人の名前だけで通知を出してしまう:民法の通知は譲渡人が出すものです。登記事項証明書を付けない限り、譲受人だけの通知は民法の対抗要件になりません。
- 承諾書に確定日付を付けない:債務者には主張できても、二重に譲り受けた人や差し押さえた人には負けるおそれがあります。
- 将来の売掛金をまとめて譲渡したことを忘れる:期間や債務者の範囲を確かめずに、同じ売掛金を別の会社に売ると二重譲渡になります。
- 譲渡制限特約を確かめずに譲渡する:譲渡は有効でも、特約を知っていた譲受人には売掛先が支払いを拒めます。取引先との契約書を、申込み前に読みます。
- 2社間で受け取った代金を、別の支払いに回す:売掛先から自社に入った代金は、譲受人に渡すお金です。流用すると契約違反になり、争いの元になります。
- 相殺できる取引を見落とす:売掛先に対して買掛金があると、相殺で入金が減ることがあります。
使わない方がよい場合
- 譲渡制限特約があり、売掛先との関係を何より守りたい:法律上は譲渡できても、相手の受け止め方までは変えられません。
- 同じ売掛金をすでに担保や譲渡に使っている:融資の担保として売掛金を譲渡している場合は、まず貸し手との契約を確かめます。
- 毎月の不足を埋めるために、将来の売掛金を続けて譲渡する:手数料の分だけ毎月の入金が減り、不足が続きます。
ほかの方法
| 方法 | 向いている場合 |
|---|---|
| 売掛先に支払いの前倒しを相談する | 売掛先との関係がよく、早めの入金を頼める |
| 売掛金を担保にした融資(譲渡担保) | 銀行と取引があり、売掛金を売らずに資金を借りたい |
| 支払先への延期の相談、税・社会保険料の猶予 | 支払いが一時的に重なっただけ |
| ファクタリング(売買としての債権譲渡) | 入金予定の売掛金があり、借入を増やしたくない |
債権譲渡は、正しく対抗要件をそなえれば、売掛金を早くお金に換える確かな手段です。譲渡する前に、特約・将来分の譲渡・相殺の3点を確かめておきます。
出典(16件)公的機関の資料・法令。2026.10.18に確認
- 民法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民法施行法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 国民年金法(e-Gov法令検索)laws.e-gov.go.jp
- 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省)www.moj.go.jp
- 債権譲渡に関する見直し(法務省 民法改正の説明資料)www.moj.go.jp
- 債権譲渡登記制度とは(法務省)www.moj.go.jp
- 最高裁判所 昭和49年3月7日 第一小法廷判決(昭和47(オ)596)www.courts.go.jp
- 最高裁判所 昭和61年4月11日 第二小法廷判決(昭和57(オ)272)www.courts.go.jp
- 最高裁判所 平成5年3月30日 第三小法廷判決(昭和63(オ)1526)www.courts.go.jp
- 登記統計 種類別 債権譲渡登記の件数及び個数(平成28年〜令和7年、法務省・e-Stat)www.e-stat.go.jp
- 内容証明(日本郵便)www.post.japanpost.jp
- 書留(日本郵便)www.post.japanpost.jp
- 配達証明(日本郵便)www.post.japanpost.jp
- 手紙・はがきの料金(日本郵便)www.post.japanpost.jp
- 確定日付・電子確定日付(日本公証人連合会)www.koshonin.gr.jp
FAQ
よくある質問
債権譲渡とは何ですか?
お金を払ってもらう権利(債権)を、金額や支払期日を変えずに別の人へ移すことです。元の債権者(譲渡人)と新しい債権者(譲受人)の契約で成り立ち、債務者の同意は要りません。売掛金を売るファクタリングや、売掛金を担保にする融資は、この債権譲渡を使っています。
債権譲渡に債務者の承諾は必要ですか?
譲渡そのものに承諾は要りません。ただし、債務者に譲渡を主張するには、譲渡人からの通知か債務者の承諾が必要です。さらに二重に譲り受けた人や差し押さえた人に主張するには、その通知や承諾を内容証明郵便や公証役場の確定日付など、確定日付のある証書で行う必要があります。
譲渡禁止特約のある債権は譲渡できますか?
2020年4月施行の改正民法で、譲渡制限特約があっても譲渡は有効になりました。ただし、特約を知っていた、または重い不注意で知らなかった譲受人には、債務者は支払いを拒み、元の債権者に払って済ませられます。債務者は全額を供託することもでき、その供託金を受け取れるのは譲受人だけです。
債権譲渡の第三者対抗要件とは何ですか?
債務者以外の人(同じ債権を譲り受けた人や差し押さえた人)に、譲渡を主張するための条件です。確定日付のある証書による通知か承諾が必要で、法人が金銭債権を譲渡した場合は債権譲渡登記でもそなえられます。登記をすると、登記の日付を確定日付とする通知があったものとみなされます。
債権が二重に譲渡されたら、どちらが優先しますか?
最高裁の基準では、確定日付のある通知が債務者に届いた日時か、確定日付のある承諾の日時が早い方が優先します。証書に書かれた日付の早さではなく、届いた日時で比べます。登記と通知がぶつかったときは、登記の日時と通知が届いた日時を比べます。一方だけが対抗要件をそなえていれば、そちらが優先します。
債権譲渡の通知が届いたら、どうすればよいですか?
まず、通知が元の取引先から出されたものか、登記事項証明書が付いているかを確かめ、手元の連絡先で取引先に事実を確認します。正しい通知なら、支払先を譲受人に変えます。通知の前に生じた値引きや相殺できる債権は、譲受人にも主張できます。2通届いてどちらが正しいかわからないときは、供託も考えます。
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